幕間 ロア
僕は、シュン君達と、激戦を潜り抜けた後、ライナさんの家にお世話になっていた。
あの戦いは、今では王都の大進攻と呼ばれ、有名になっていた。
その戦いで、勝ち残った僕。ロアと、シュン君の名前も、冒険者なら知っていて当然という感じになっている。
けど、さすがにいろいろありすぎて、疲れてしまった。
僕達が宿で休んでいたら、ライナのお兄さんと言う人がライナさんを迎えに来た。
まだシュン君は意識が戻ってない。
隣の部屋で寝たままだ。
時折、ライナさんが様子を見にいっているみたいだったけど、彼女は部屋を出て来るたびに泣いていた。
けど、僕には何も出来ない。
そんな日々が続いていたある日。突然、ライナさんの兄という人が宿を訪ねてきた。
話を聞くと、ライナさんを実家に連れ戻すと言う。
しばらく、そのお兄さんと、ライナさんとの話し合いや、言い合いが続いていたけれど、結局ライナさんはそのお兄さんと一緒に実家に帰る事になった。
その話を聞いて、僕はまあ仕方ないかと思っていたりもしていた。
彼女は、右目をくりぬかれている。
片目の女性は、お嫁さんとしては、やはり敬遠されがちだ。
そして、彼女がお礼と、シュン君の事をお願いしに来た時。
僕の[予知]が発動してしまった。見えて未来は、彼女達がオオカミに食い荒らされる光景。
あわてて、僕はライナさん達の護衛として、Dランク冒険者の登録を行い、半分無理やりに連いて行く事にした。
本当はシュン君の役目なのだろうけど、彼はまだ意識が戻ってなく、寝たままだ。
さらに、僕自身、あそこにいたのに、何も出来なかった負い目もあった。
一緒に助けに行ったのに、彼女が傷つけられる前に助けられなかった事も。
【予知】なんて、大げさなスキルを持っているのに、それを予見できなかった自分自身に。
結局、あのとんでもない亜人を倒して、彼女達を救い出したのは、シュン君だ。
それが暴走という形だったとしても。
だからこそ。彼女達が死んでしまっては、シュン君に合わせる顔が無い。
そう思った。
しかし僕は、連いて来た事をすぐに後悔する事になってしまった。
途中、オオカミの群れが来て、僕一人で蹴散らす。
一緒にいた馬車の行者の一人が、盗賊と入れ替わっていた。
冒険者が付き添っていた、商隊に道案内を頼んだら、危ない場所に誘導されそうになったりする。
さらには、ほぼ毎晩、魔物の群れに遭遇してしまう。と、予測外の事が良く起きた。
その都度、僕のスキル、[予知]が発動して、なんとか対応してライナさんを守る。
この[予知]のスキルは、短い先の未来は見えるけど、未来予知も万能ではないんだ。
数週間後、数か月後の未来は見る事が出来ない。
シュン君は、全ての未来が見える万能スキルだと思っていたみたいだけど。
さらには、旅の途中で、レイアさんが泣いていて、彼女の話しを一晩中聞いた事もあった。
シュン君が大好きだったのに、コボルトにキスをされて、乱暴されて、生きていたく無いと、叫ぶように話してくれた。
何度も話しを聞いて、抱き締めてあげたり、寝れない彼女に朝まで付きあってあげたりもしていた。
そんな事をしていたからか、何とか一人も死なずに、ライナさんの実家に着いた時は、さすがの僕もへとへとだった。
その後は、新鮮の連続だった。
僕の転生先も貴族ではあったけど、下級貴族だったから、メイドがいる生活は初めてだったし彼女の家の広さも含めて、初めてずくしで楽しかった。
暇ができるとライナのお兄さん達と剣の練習をしたりもした。
さすがと言うか、お兄さん達の腕はすさまじく、剣の軌道一つ見ても動きが洗練されていて、見ていて美しい。
必死に追いかけるけど、下から剣をはねあげられた。
剣が飛ばされ僕は、負けを認める。
すると、お兄さんは僕の剣を持って来て、剣を捧げるように持った。
「君が、信頼できる人間なのはわかる。そして、十分な素質がある事も。君に、父上からのお願いだ。[ロア君。今、我が軍は、人手と、素質不足に非常に困っている。君に、私の手伝いをしていただきたい。無理なお願いではあるが、やってもらえないだろうか?]との事だ」
「無理です。僕には、荷が重すぎるかと」
僕は本心から、そう答える。僕はただ一人の冒険者で、騎士として生きて行けるほど人間は出来ていないと思う。
「これは、我が一家の願いでもあるのだよ。君に、ライナをお願いしたい。深い怪我を負ってしまった、妹を守り、幸せにしてやって欲しい。君が、私達のもう一人の妹、レイアと良い仲なのは知っている。だからこそ、ライナも君に預けたいのだ。勝手なお願いではあるが、[騎士団]としても、兄としてもお願いしたい」
僕は、お兄さんが持っている自分の剣を見ながら、呆然としていた。
いつライナ攻略フラグがあった?レイアは、泣いていたから、辛そうだったから、ついフラグを立ててしまったのは自覚している。
レイアにいたっては、完全に攻略済みの女の子になっている。
今もときどき、ベッドを共にする仲ではある。
それは認める。けど、ライナは国が絡みそうだから、少し距離を置いていたはずなんだが。
けど、これは強制イベントに近い気もする。
断って、国を敵にまわすような事にはなりたくないし、僕にとって悪い事は本当は一つもない。
実家も泣いて喜ぶし、レイアが、ライナの事が好きなのは見ていて分かる。
これは、本当はシュン君のイベントだったのかも知れないけど、僕は。
「分かりました。お受け致します。足らぬ身ですが、精一杯務めます」
と、お兄さんから剣を受けとる。
そこからは早かった。
しばらくして、王都に戻り、父親となるシュリフ将軍と話しをして、改めて、地方守護軍、遊撃部隊として認定される。
幹部メンバーは、僕と、ライナと、レイア。
部隊は100人で、少数精鋭。
一年後には、結婚式も行う事になった。
正妻は、ライナ。レイアは、結婚式はしないけど、身内でパーティーを行う事となった。
準備の話しを聞いていると下手をすれば、身内のパーティーですら、正式な結婚式に近いくらいの派手なパーティーに成りそうだった。
しばらくして、王都の南の村のオーク討伐をお願いされる。
前にはぐれオークがいたのだが、ふたたび出たらしい。
僕は、新しい剣をシュリフ将軍からもらい、討伐に出る事なった。
街中を派手にパレードしながら出陣する事になってしまい、
勇者フラグが自分に立ってしまった事に気がつきながら、避けれない現実に諦めてしまうしか無かった。
これから、無限に強制フラグが立つのだろうだから、フラグ折りの趣味は、もう諦めるしかないかも知れない。




