依頼
4Sに襲われた後。
「信じられません」
ギルドで依頼達成の報告を始めると開口一番そう言われた。
ダルワンからの報告も半信半疑で聞くギルド職員。
まず、ダルワンが受けたはずの依頼がなくなっていた。
依頼を受けた事は確かなのだが、何の依頼を受けたのか、その書類が行方不明になっていた。
ギルド職員はその依頼の内容を覚えてはいたのだが、記憶が曖昧で、正確な依頼内容を忘れていたのだ。
普段なら絶対にありえない事が起きている。
そう思っても、誰もが曖昧な記憶のため、依頼の処理が困難になってしまっていた。
さらに、俺の報告も、嘘っぽいと認定されてしまう。
一つ目に、森の奥深くまで、こんな少人数で普通に歩いて行けた事。
大部隊で行くか数パーティーで行かなければ、普通なら絶対に辿り着けない。たどり着けるわけがない。
森で迷子になるか、夜営中に死んでしまい、とんでもない数の犠牲を覚悟しなければならない状況だ。なのに今回の参加は3人。 歩いて森の奥に行くなんて、絶対に到達不能。
その上、たった3人で、コボルトの大集落を壊滅。
絶対にあり得ない。天地がひっくり返ってもあり得ない。
よって。
「信じられません」
ギルドのお姉さんはその言葉を繰り返すしかなかった。
ダルワンは、頭を掻きながら
「いや、確かに依頼は受けたはずなんだが。後、報告も本当だしな」
と言うものの、残念ながらシュンが、討伐部位を全く持って帰っていないと言ったため、ダルワンにはそれ以上の証明は出来なかった。
ダルワンには、悪いと思いながら、「依頼達成として処理はしておきます。」とギルド職員に言われて、無報酬が決定してしまい、しょんぼりしていたダルワンを置いて、そのままシュンはギルドを出て街をぶらぶらと歩いていた。
ダルワンには悪いが、仕方ないと思う。
まさかの、4Sに暗殺されかけるという事件があった以上、あまり派手に動き回る事はしたくないし、今は目立ちたくない。
「マスター、どうされたのですか?」
心配そうな顔で見上げてくるミュアの頭を撫でる。
有名になりすぎたくは無いが、有名になった方が、身の安全は確保されるかも知れない。
全く正反対の考えが浮かび。悩んでみるけど、答えは出ない。
しばらく歩いて、考えてみるのだが、結論は結局出ない。
「あ~!めんどくさいっ!ミュア、何か討伐依頼こなして、うさばらしするぞっ!」
結局、俺は考える事を放棄したのだった。
俺がギルドに再び入ると、ダルワンが隅で落ち込んだまま酒を飲んでいた。
俺を見ると、ダルワンは酒のカップを持ち上げて叫ぶ。
「を!シュンっ!お前らだけで、コボルトの集落を壊滅させたって、あの姉ちゃんを納得させてくれよぉ」
「そんな事が出来るなら、もうSランク名乗れるだろ?ダルワン、ちょっと考えてくれよ」
絡んで来たダルワンに、冷静に返した俺の言葉にうなだれるダルワン。
ちょっと可哀想なので。
「あのおっさんの今日の飲み代は、俺につけてもらっていいから」
と伝えた後で、
普通の、牧場周りの外敵討伐というDランクの依頼を受ける。
ちなみに、1日の飲み代の請求額で、金貨が数枚飛んだ事に恐れおののいたのは別の話しだった。
――――――――――――――
王都から、一時間程歩いた場所に牧場はあった。牧場に着くと、赤毛の牛が、のんびりと草を食べている。
レッドカウと言う、赤牛の魔物。それを家畜化に成功させたのが、このあたりの牧場にいる、ビックカウと呼ばれている牛達だった。
「よお、依頼を受けてくれた冒険者か。俺がこの牧場をやってる。
名前は、ダンだよろしく頼む」
髭面の、筋肉がしっかりついている男が、握手をお願いしてくる。
俺がその手を取ると、おっさんの背中からぴょこっと小さい顔が出てきた。
「お兄ちゃん!よろしくねっ」
4、5歳くらいの女の子が笑っていた。
「ああ、これは、俺の娘で、カイナだ」
ダンと言ったおっさんが、女の子の頭を撫でると、嬉しそうに笑う女の子。
「よろしく」
ミュアが女の子に話しかけると、再び、満面の笑みで、飛び上がる。
「よろしくっ!」
「で、依頼と言うのが、このあたりに、オオカミの群れが来てるみたいでな。その退治をお願いしたいんだ」
「数とかは?」
「朝見たら、何体かやられてただけだからなぁ。数はわかんないんだよ」
これは、泊まりの依頼になるか?
少し苦い顔をする。
データベースのマップを確認。
周りにオオカミは確かにいるが、牧場のビックカウを襲うような距離じゃない。
大きな群れもいないし、ほとんどのオオカミは単独で歩いている。
ビックカウは、その体が大きい為、牛舎には入れず、放牧が一般的だ。
だとしたら、夜になると別の場所から群れが来ている可能性もあった。
それでも、万が一の可能性もあるかもと、とりあえず牧場周りを夕方まで歩いて探索して見るが、特に変わりはない。
泊まって行けと言ってくれた親父さんにお礼を言い、なんだかんだで、カイナと一緒に寝る事になってしまった。
カイナのお母さんは、カイナを生んで死んでしまったらしい。
「お姉ちゃん。カイナねっ。毎日、牛さんのご飯運んでるんだよっ!」
ミュアをお姉さんと言い、カイナは楽しそうに話しをしてくれる。
ミュアも、そんなカイナの話しを聞いてあげている。
そんなゆっくりした夜を過ごしていたのだが。
何かが魔力ビットの索敵に引っ掛かった。
俺は、うとうとしていた頭を叩き起こす。
ガバッと体を起こし。飛び出す。
「ミュアっ!カイナとおっさんを頼んだっ!」
武器を手に、牧場に出ると。
「キュイッ!」
叫び声をあげる数体の黒い影があった。
「そりゃ、分かりにくいわ。オオカミじゃなくて、肉食モグラかよっ」
俺は、その正体を見て呆れる。
肉食モグラは、7、8歳くらいの子供の身長に、体の半分くらいの長い爪を持ったモグラで、一体なら大人が囲んでも倒せる魔物なのだが、いかんせん、夜行性で意外と素早い。
そして、かじり跡はオオカミそっくりで、大きい個体が相手だと、人間が餌にされてしまう事もあるなかなか危険な魔物なのだが。
地面に出ると、再び潜る事が難しく、出て来た穴からでないと、再び潜れないと言う、お馬鹿な一面もある。
「まあ、地下は索敵出来ないからなぁ。モグラは流石に考えてなかったなあ」
正直、犯人はオオカミとばかり思っていた。
俺は、素早く槍斧を振るう。
「ピギッ」
鳴き声と共に、切り裂かれる肉食モグラ。
4匹という、普段なら中々な数を仕留め、マップを検索する。
もう、牧場内には、敵はいなくなっていた。
「終わりか」
俺は、一応朝まで、その場でマップの監視と、魔力ビットの索敵を続けるのだった。
――――――――――――――――
「お兄ちゃん、お姉ちゃんまた来てね~っ!」
叫びながら、ブンブンと手を振るカイナに、手を振り返して、俺は牧場を後にした。
あ~眠い。ほぼ徹夜の監視になってしまったから、まぶたがすごく重い。
ミュアはというと、カイナが怖がるので、添い寝をしていたら、一緒に寝てしまったらしい。
地面に頭をつけて謝るミュアに、3日間抱き枕になる刑を言い渡す。
すごく嬉しそうにしているミュアを見ると、罰でもなんでもないのだが。
子供と一緒に寝たら、眠気に耐えられないよね。
いろいろ書き換えました。
一番悩んでいた辺りなので、無茶苦茶ですみませんでした。少しはすっきりしたと思います。




