物語の始まり
城の一室。
険しい顔で、髭面の男性はテーブルを見つめていた。
「まだ、見つからないのか」
「はい。奴隷の少女を買い、街中で抱き締めていた事は分かっているのですが、その後、街から姿を消しました。すでに、1年近く、その姿を見た者はおりません」
「外で、死んだか?」
「可能性は限りなく低いと思います。あの男は、一人で大進攻を何とかしてしまえる化け物です。
しかも、[空間の]目も届かない。 買ったと言われる奴隷にも《目》がつけれなかったとの事で、あの奴隷も[神に愛された子供]だったようです」
「本当に厄介だな。もし生きているなら、監視が必要になりそうだ。奴の動きの予測がこのまま出来ないのなら、排除するか?」
「排除理由がありません。しかも、追いこんで、[希薄の]二の舞になる可能性もあります。それよりも[皇の]が面白いスキルを拾ったとの事でした。任せてもよろしいかと」
「[希薄の]二の舞は、踏みたくはないな。やっと軍の再編も見えて来たところだ。これからの事も考えると、[皇の]に任せるしかないか。お前たちは、今まで通り、捜索を続けろ」
隣で報告を行っていた男が、頭を下げた時。
「シュリフ様っ!」
一人の兵士が走って来て、部屋の扉を激しく開ける。
「何事だっ!軍総司令の部屋に、突然入ってくるとは、失礼だぞっ!」
報告をしていた男が叫ぶが、入って来た兵士はかまわずに叫ぶように報告をあげる。
「報告しますっ!ワイバーン5体が王都に接近っ![明星]様が接敵しましたが、範囲外に逃げたとの事っ。[空間]様が現在応戦中っ!
[空間]様いわく、仕留め切れない可能性があるため、王都で応戦体制をとの事ですっ!」
「[皇の]はっ!」
「[皇]様は、見当たりませんっ!」
「また、あっちに行った可能性があるか。
すぐ行くっ!応戦体制を整えるぞっ!」
白銀のマントをひるがえして、シュリフは歩き出す。
ワイバーンなど、化け物の中の化け物である、4人のSランク冒険者にしか対処できないのは分かっていた。
まず、空中高くから、竜吐息を吐く。
それだけで、対処不可能だ。
速さは、ロックバードの2倍は早く、絶対に逃げ切れない。
昔、一匹が村に降りてしまった時、AAAランクのパーティーが全滅するという、悲劇が起きてしまった。
絶対に手を出してはいけない魔物。
それが、5匹。
竜の家族か何かは知らないが、王都壊滅の未来しか見えない。
シュリフは、王と王の親族の避難指示を出しながら、見張り塔の上に登る。
はるか遠くで、ワイバーン5匹が、空中を舞っていた。
その場に留まる事なく、空中を広く飛び回りながら、地面にブレスを吐いている。
空中に突然現れた爆風のような矢は、ワイバーンをかするも竜に命中していない。
ワイバーンと言われているが、実質は、竜であり、その皮膚は、城壁より硬い。
体は城より大きい。
いかに強力な矢であっても、あの魔物にとっては、つまようじにつつかれるようなもので、数十万と刺さないと死ぬこともない。
さらに、竜魔法と言われる、殲滅竜吐息も使える。竜回復まである。
竜は倒す事は考えず、追い払うしかない魔物なのだが。
今、一匹の首から、血が吹き出すのが、見えた。
[空間の]矢がやっと、首に刺さったらしい。
地面に落ちる竜の体から、血がスプリンクラーのように噴き出し始める。
[明星の]灯りは、範囲以内の生物を全て分解して行く。
その範囲に入った者は誰一人として死から逃れる術はない。
例え、それが竜であっても。
一匹の羽が穴だらけになりながら、地面に落ちる。
それを見届けた時、
ワイバーンの一匹が、いきなり向きを変え、こちらに。王都に向かって飛んで来るのが見えた。
「緊急配備っ!王都に近付けるなっ!」
シュリフが力の限り叫ぶ。風魔法に乗って送られた命令に従い、王都の外にいる軍が、守備陣形を取る。
命をかけて、止めるしかない。
そんな絶望の中、小さい人影が二つ。守備陣形の前をのんびり歩いているのが見えた。
「死にたいのか?」
なんであんな所に人がいる?軍は何をしていた?一般人か?いや、冒険者か?
いろいろな考えがシュリフ将軍の頭を駆け巡る。
ただ、一言シュリフから出てきたのは、その言葉のみ。
しかし、その言葉が終わるか終らないか。シュリフの目の前に、信じられない光景が広がった。
ワイバーンが空中に突然固定されたかのように、空中の檻に突然入れられたかのように、空中で何かにぶつかって動けなくなったのだ。
そして。ワイバーンの胸で、爆発が起きる。
竜は怒りで、殲滅竜吐息を吐く。
地面を全て焼き尽くすその光は、一切地面に届かない。
竜の周りの空間が震え、空中に浮かんでいる光の壁が見える。
殲滅竜吐息は、その光の壁に止められていた。
ワイバーンの頭の上から、一本の光が伸び、槍のような何かが、ワイバーンの頭を貫通する。
血が吹き出し、ワイバーンが空中で動かなくなる。
息絶えたかと思ったワイバーンは突然、空中でその姿を消した。
軍も、4Sの二人も。全員があっけにとられている中。
残りの3匹のワイバーンは、2匹も仲間が簡単にやられた事を悟ったのか、一目散に逃げ出し始めていた。
「あら。逃げて行きますわよ。あのヒトカゲ」
「逃げは、正解だろ?もう一匹、仕留めるか」
ゴスロリ風の服を来た少女に、両目に目隠しのようにバンダナを巻いた少年が答える。
少年が矢をつがえると、まっすぐ、目の前に発射する。
矢は、少年のすぐ前で、空間を揺らがせ、消えた。
遠くに飛んで行った竜の一匹が、激しい咆哮を上げながら、落ちて行くのが見えた。
「大きいから、落下する様子がよく見えますわ」
フフっと笑う、ゴスロリ少女。
「ちっ。やっぱり見えねぇ。あの小僧、もっと早く殺るべきだったんだよ。なんだよ、竜を一撃とか、俺たちと一緒かよ」
「あら、どさくさ紛れに撃った【空間の】矢は、当たったみたいだから、いいんじゃありません?普通に防がれたみたいですけど。攻守完璧。5人目の器みたいですわね。[皇]に報告しなきゃ。楽しみだわ」
スキップをしながら歩き出すゴスロリ少女を、追いかけるように歩く目隠ししたままの少年。
世界最強の二人は、何事もなく街に帰るのだった。
感想とかあれば気軽に書いてください。
後、誤字、脱字報告も、よろしくお願いいたします。
2023 3 修正しました。
面白い話を生み出したくて、苦しみ真っ最中(* >ω<)でも頑張りますっ!




