幕間 傷ついた聖女
「はあ」
私は、鏡を見て、ため息をつく。
可愛い、黄色の生地で作った右目の眼帯を触る。
これは、罰。
シュン君が、いつも無理をするなと言ってくれていたのに、私達でなんとかなると勝手に考えて、行動してしまった罰。
こんな顔で、シュン君に会えないから、お兄様に頼んで、家に返してもらった。
お父様は、シュン君に激怒していたけど、ロアさんが何か説明していたら、落ち着きを取り戻していた。
私たちは、コボルトに捕まり、私はコボルトシャーマンに、右目をくりぬかれてしまった。
お兄様達の話だと、コボルトシャーマンは、目や、爪、髪などをコレクションするらしい。
その後、心が壊れた女性に死ぬまで子供を生ませるらしい。
すごい怒った顔で、そう話してくれた。
ロアさんは、私たちに優しい。
泣いている私たちをいつもなぐさめてくれるし、抱きしめてくれる。
いつも気を使ってくれているのが分かるし、お兄様達とも仲が良い。
今も、庭でお兄様と稽古を行っている。
お兄様の見えない動きについて行くロアさんはすごいと思う。
レイアは、未だに私の近くにいてくれている。
あの時、何があったのかは、教えてくれないから分からないけど、時々、ロアさんと一緒の部屋で過ごす事がある。
「ロアってば、踏み込みすぎ」
窓からロアさんを見ながら、呟くレイア。
真っ白な髪が、顔に垂れていく。
そう、レイアはあの事件の後、赤い髪の色が抜けて、真っ白になってしまった。
「参りました。さすが、騎士様です」
ロアさんの剣が弾きとばされて、ロアさんが頭を下げる。
ロアさんの動きは洗練されすぎていて、見ていてあきない。
私も、その姿を何気なく見ていた。
ロアさんの剣を取って来たお兄様がロアさんに何か話しをすると、いきなり慌て始めるロアさん。
しばらく話しをした後。
ロアさんは、膝をついて、自分の剣を受け取っていた。
その姿を二人で見ていた時。
扉がノックされ、一番上のお兄様が入って来た。
レイアに微笑みを見せた後、私に向かい、真剣な顔で話しをし始める。
「ライナ、お前は、ロアと婚約する事になった」
その言葉に、なんとも言えない顔をするレイア。
私はというと、いきなりの話しでかなり間抜けな顔をしていたと思う。右目は無いけど。
「これは、家長である、父上の命令であり、騎士団長としての命令でもある。ロアは、近隣の安全を守るため、遊撃隊として、騎士団に参加する事になる。お前と、レイアも、その遊撃隊の一員となり、魔物の討伐を手伝って欲しい」
ロアさんの事は、どっちかといえば、好きだと思う。
けど、シュン君の時みたいに、すごく惹き付けられる事は無かった。
多分、格好良すぎて、私には釣り合わないと思っていたのかも。
私も気の多い女の子だなと思ってしまう。
「以上だ。ライナ、本妻として、がんばれよ」
お兄様の最後の言葉が、すごく気になった。
レイアを見ると、私から目を反らす。
そういう事なのね。そういう事になってたのね。
「レイア、いつからなのかなぁ?」
私は、お兄様を無視して、ジリジリとレイアに近づく。
「怖い、怖いからライナ。 それに、ロアとの事は秘密だから!」
「あら、本妻になる私をさしおいて、旦那を呼び捨てなのかなぁ」
悪乗りしながら、レイアを追い詰めて行く私。
けど、レイアの新しい恋愛事は嬉しかった。
シュン君と離れた時、本当に落ち込んでいたから。
そして、私もまた一歩踏み出せる気がする。
もうシュン君のところには帰れない。
騎士団長として。この一言は、いわば国命だから。
だから、今は。自分の事は後回しにするとして。
さあ、レイア。ロアさんとの恋愛話を私に、白状しなさい。




