少女
「お疲れ様でした。こちらが今回の報酬になりますね」
帰って来た翌日に、ギルドに報酬を取りに来たのだが、何か、周りがざわざわしていた。
こちらをチラチラ見る奴が多く、どうしても気になってしまう。
とりあえず、お姉さんが出して来たお金。普通の依頼報酬として、大銀貨2枚(2万)を受けとる。
オーク討伐として、さらに銀貨3枚が追加になる。
「素材があれば、大銀貨3枚は渡せるのですが、今回は討伐だけのようなので、この報酬になります。 ところでシュンくん、さっきから、そわそわしてますけど、何かあります?」
「いや、それは、こっちが言いたいんだが。なんか、見られている気がして落ち着かない」
「ああ、シュンくんが帰って来て、すぐに、ライナさんと、ロアさんの婚約発表があったからかもですね。あんなに、シュンくん大好きだったのに、乗り換えるなんて、私は女性として大嫌いですけどっ」
ぷりぷりと怒っているお姉さん。
その言葉に、俺は少なくないショックを受ける。
好きと言われれば、好きだった。
だが、結婚と言われれば、考えてしまうくらいの関係。
けど、なんか彼女を取られたみたいで、嫌な気分になる。
「ロアさんも格好いいですし、惹かれるのも分かりますけどねっ。あと、今回の婚約は、シュリフ将軍が取り仕切ったみたいで、軍がロアさんの取り込みに走ったんだろうって話しもありましたよ」
それでか。みんながチラチラこちらを見ているのは。
俺は、恋人を先輩に取られた、間抜け男か。
俺が、苦笑いを浮かべると。
「よぉ、フラれ男。めでたく、一人になった記念に飲むか?」
酒臭い、おっさんが容赦なく話しかけて来る。
「悪いが、ギルド内で飲みまくるほど、酒は好きじゃないんだよ。飲みすぎてからむんなら、規約違反で、追い出してもらうぞ。ダルワン」
「ははは。大丈夫だ。これしきで酔いはしねぇよ」
そういいながら、酒の入っていると思われる水筒をあおるダルワン。
「オークを討伐したと聞いたから、オークのステーキでも食えるかと思ったんだがな。持って帰らなかったのか」
「ああ。向こうで一緒に戦った冒険者にあげて来た」
「ちっ。残念だな。ちょっと来いや」
俺は、ダルワンにいきなり、頭を抱えこまれた。
「お前、危険人物扱いになりだしたぞ。Aランク連続討伐、オークの群れ単独討伐は、一部の奴には有名になっている。お前に監視が付いてると思っていい。行動に気を付けろ」
ダルワンは小さい声でささやくと。
「あ~そうか!ライナちゃんがダメでも、レイアちゃんもいたんだったなぁ!侘しいおっさんに酒をついでくれる若い娘でも紹介してくれよっ!」
俺の背中を力一杯叩いて、ダルワンはギルドから出て行った。
俺は、ダルワンの後ろ姿を見ながら、忠告をくれた事に、心の中でお礼を言うのだった。
俺がギルドから出ると。
「おらっ!歩けっ!」
と首に繋がれた鎖を引っ張られている少女がいた。
年は、10歳前後か。小さい体は、服らしい服を着ていない。
ボロ切れをまとっている感じであった。
「早く歩けっ!」
鎖を強く引っ張っているからか、首からは血がにじんでいる。
奴隷であるのは分かるが、男が何か焦っているのも分かるが、余りに女の子の扱いがひどい。
「おい!」
見ていられなくて、つい声をかけてしまった。
「なんだよ。この悪魔を早く街の外に捨てたいんだよ。邪魔すんなっ」
ちょっと年増の男が、焦ったような口調で叫ぶ。
その言葉に。俺は、打ちのめされる。
外に、捨てる? 廃棄。死。
その意味を知った時、俺は口を開いていた。
「その子を買う。いくらだ?」
「いいのかよ!?こいつは、いわく付きだぜ?買った主が全て不幸になって死んで行く、悪魔だぜ?」
「いくらだ?」
「悪い事は言わねぇ、兄さんやめときな。この前、こいつを買った貴族の家なんか、爆発して一家全滅だ。本当に、、、」
「いくらだ?」
男は、ため息を一つ付くと。
「年増じゃない、年齢通りのエルフだ。本当なら、白金貨数枚なんだが、さっきも言った通り、いわく付きの子だ。さらに、秘め事もまっさらな子じゃない。言葉も余り上手に話せない。大金貨3枚でいい」
「買った」
俺が即決した事に目を丸くした後。
「何が起きても、知らないぜ。後、本当なら、主が死んだら、奴隷商人に返されるのが、普通の奴隷制度なんだが、この子については、もう引き取りを拒否したい。強制奴隷紋を使用するから、追加で、もう一枚出せるか?」
「かまわない」
男は、ため息を一つ付くと何か、小さなひとつまみくらいの石を懐から取り出す。
「本当なら、奴隷商人の館で奴隷契約を結ぶんだが、こいつと長くいたくないから、ここでやってやる」
そう言うと、男は手を出して来た。
俺が、金を払おうとすると、その前に俺の手首を握り、俺の手首にグリッとその石を押し付ける。
そのあと、俺の心臓にもその石を押し付け。
奴隷の子の口にその石を押し込む。しばらく抵抗していたが、奴隷の子がその石を飲み込むのが分かる。
次の瞬間、女の子は自分の身体を抱えながら叫び出す。
すると。奴隷の子の身体中と、俺の手首、心臓の場所に、黒い紋様が浮かび、一瞬で消えた。
「これで、契約終了だ。強制奴隷紋の効果で、あんたが死んだら、この子も、全身血を吹き出して死ぬ。あんたに逆らったりしたら身体中に激しい痛みと、呼吸困難に襲われる。たった今から、この子はあんただけの所持品だ。金は、奴隷商のバングの口座にいれてくれ」
そう言うと、女の子の鎖を俺に渡して、逃げるように走り去って行った。
俺は、鎖を持ちながら男の余りの逃げの早業に呆然と立ち尽くすのだった。




