表と裏
「だぁっ!くそっ!ガッシュっ!」
「はあっ!」
二人は、はぐれオークに斬りつけていた。
連携はまずまず。
ただ、前と違うのは。
「この剣なら、奴を斬れる」
ガッシュが小さく呟く。
前の武器じゃ、ゲームで言うところのダメージ10くらいだったろうから、オークの常時回復で回復するよな。
今は、戦っていてオークに傷が増えているのが分かる。
だが。全く倒れない。もう10分以上戦っている。
俺はと言うと、カラさんと二人で回復と支援魔法をメインで行いながら、こっそりと槍で、オークの足の筋や、腕の筋を斬っていた。
オークだからこそ、まだ動いている。普通の人間なら、もう立っていられないし、腕も動かないはずなのだが、オークはやっぱり化け物だと実感してしまう。
「いまだっ!」
「うむっ」
二人が同時に一回下がり。
「「ダブルスラッシュ!」」
二人が同時に斬りつけ、✕の字をつけたまま、オークはついにその場に倒れる。
「やったぜっ!」
「ふぅ~」
喜んでいる二人を見ながら、俺は、合体技とか、かっこよすぎだろうと内心、嫉妬していた。
望んでぼっちになったのに、ぼっちの寂しさが、こみ上げて来る。
「これで一安心ですね」
カラさんも喜びの声をあげる。
久しぶりのパーティー戦に、俺も笑みがこぼれるのだった。
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「本当にいいのか?この装備、絶対高いだろ?」
「ああ、余り物で作った物だから、気にしないで使い潰してくれ」
回復魔法をかける予定の村人が俺の一発でいなくなってしまったため、カラさんは、首都に帰る事になり。
帰り際、俺は二人に装備をあげて、そのままナンの村を後にするのだった。
「なあ、ガッシュ。」
自分は、小さくなって行く馬車を見送りながら、相棒に声をかける。
「なんだ?バウス?」
ガッシュが自分の名前を呼ぶ。
「俺たちも、あそこまで強くなれるかな?」
「無理かも知れん。回復しながら、支援魔法をかけながら、相手の動きを鈍くする傷をつけれる奴を、シュン以外知らない」
「だよな。絶対、シュン一人で勝てるのに、俺たちにあわせてくれていたよな」
無言でうなずく相棒。
「強く、なりたいな」
「受けた借りを返さねばならぬ」
俺たち二人は、無言で、拳を打ち合わせる。
いつか、この大きな大きな借りをシュンに返せるようになるために。
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そう言えば、ガッシュの相方のうるさい方の名前を聞くの忘れてたな。
まあ、そうそう会う事もないだろうからいいか。
帰りの馬車に揺られながら、俺はそんな事を思い出す。
カラさんは、馬車の中で寝ていた。
まあ、普通の修道女じゃあ、魔物退治なんてやらないから、相当疲れたんだろうな。
そんな事を思いながら、ゆっくりと揺られながら首都に帰るのだった。
ちなみに、帰りの野宿でも、屋台のご飯をねだられて、配る羽目になってしまった。
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とある一室。闇の中。
「帰りました」
「うむ。どうだった?」
一人の女性と、初老の男性が部屋の中にいた。
「まず、報告の通り、ナンの村周辺にて、オークの群れを確認しました」
「やはり、オークまで近くに来ていたか」
「オークの群れは、シュンにて全滅。はぐれオークは、現地の冒険者と一緒に討伐を確認しました。帰りに、周辺に使い魔を放ち、確認しましたが、他にオークは確認できませんでした」
女性は低い声で報告を続ける。
「シュンですが、いささか危険かと思われます。虐殺を好むような戦い方をしております。私たち、暗部に近い闇を抱えているのではないかと推測しました」
「我が国にとっての危険度は?」
「私の見た目では、Cです。完全に放置していいレベルではありませんが、今すぐ脅威になるような危険なレベルではありません」
「目付が必要か?」
「他人を拒むところが強くあります。世話好きなところもあるようですが、一人で処理してしまう癖があるようなので、仲間として接触するのは不可能かと思われます」
「一番いい監視方法はないか?」
「もし、彼が何かの拍子にをパーティーメンバーを得たりする事があれば、[空間の]目で監視が可能かと」
「本人の目線で見れないのか?」
「無理なようです。彼も、[神に愛された子供]なのかもしれません。私を通してなら見えるとの事でしたが、本人に[空間の]目を張る事はできなかったそうです」
「そうか。危険な男が[神に愛された子供]であるなら、なおさら対抗し、最悪、倒す事が出来る者が必要か」
「学生時代にロアがシュンに圧勝した事があります。ロアを鍛えれば、対抗できるかもしれません」
「分かった。報告ご苦労。すまぬな。私の私用で動かせてしまったな」
「久々の偽装調査で楽しませていただきましたので、お気になさらないで結構です。では、失礼いたします」
ふわっと、修道女の衣類を残して女性は消える。
「やはり、ロアを取り込む方が早いか」
男性は、一つうなずくと、部屋から出て行く。
後には、暗闇と静寂のみが残るのみであった。




