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冒険者と出会い

シンの言動が幼いのは、彼の時が10歳で止まっているからです。

いつもの朝、いつもと同じように僕は孤児院を飛び出して行く。


「行ってきます~」

それだけ、シスターさんに声をかけて、おかみさんの所へと急ぐ。

今日も、頑張って稼がないとねっ。

孤児院から、配達元の女将さんの宿屋までは、子供の足で10分くらい。

僕からしたら、ちょっとすぐそこの感覚だ。


この前、速さのステータスも少し上げたから、今なら、大人とかけっこしても、負ける気はしない。

「女将さーん!おはよう!」

「いつも、シンは元気だね~。私にも、分けて欲しいくらいだよ」

宿屋に着くと、女将さんはにこやかな笑顔を浮かべて、返事をしてくれる。


にこやかに、女将さんとひとしきり話をした後、いつも通り、飲み物やら、雑誌を積んで町の中を配達に向かう。


けど、今までとちょっと違ったのは、女将さんの顔が少しだけこわばっていた事だった。


「シン。この前ね、冒険者の人から聞いた事なんだけどさ、この近くにゴブリンの巣があるかも知れないって噂が出ているらしい。警備の人も出てるけど、今、冒険者たちが調べに行ってくれている。けど、避難指示が出たら、すぐ戻って来るんだよ!」


冒険者という言葉を聞いて、僕はちょっとだけ苦い顔をする。

ウサギ狩りをしていた時、しこたま叱られた時の記憶が強くて、ちょっと冒険者は苦手だった。


ゴブリンか。ちょっと怖いな。

聞いた話だと、ゴブリンは体は小さいけど、棍棒とか、武器持っててしかもいつもいっぱいいるらしいと言われている。

実際、調べてみれば結構あちこちにいたりして、僕はなるべき出合わないように避けている。

出来れば出合いたくはない魔物だ。

ウサギ狩りに出る時に、数が増えてたりしたら嫌だな。


そんな事を思いながら、僕は配達を続けるのだった。


ささっと配達を終えると、いつものように女将さんのご飯をご馳走になる。

パンを懐に入れるのもいつも一緒。

僕はおかみさんに、お礼を言って、お金を受け取り。

いつも通り。ウサギ狩りをしようと、心を弾ませながら、壊れた壁を再び抜けて、外に出る。

そこで、僕の足が止まる。

目の前に、人がいた。いや、人達がいた。

女の人の服が地面に散らばっている。

何かが地面に転がっているのも見えた。

人の頭のような。 指が、見えた気もした。


開いた地図には、目の前に黒い点がある。

そんな事に今気が付いてしまった。僕の足が震える。

町の外に出る前に、地図の確認を忘れていた。

というか、こんなに近くにこんな怖い人がいるなんて思わなかった。


黒色は盗賊か、人殺しの印。絶対に関わったらいけない人達の一団だ。逃げなきゃ。

そう思うのに、体が動かない。

「騒ぎ立てずに、大人しくやられてりゃ、死ななかったのになぁ」

目の前の男が、転がっている丸い物を蹴る。


どばっと汗が吹き出るのがわかる。

足はガクガクして、立っているのかすらあやしくなる。


「た たす け」


そう呟いてしまった時。盗賊達の男の一人と目が会った。


「何だ?ボウズ、どこから来た?一人か?ん。見られたか?悪い時に悪いところにいたなあ。まあ、恨むなら、たまたまこんな所に出くわした、自分の運の悪さを恨みな。大丈夫。痛くないように一撃で仕留めてやるよ」

目があった盗賊の足元にいるのは、人だ。

けど、その両手、両足から血が流れてるし、どう見ても、息をしていない。

というか、頭が無い。

にやにやと笑いながら僕を見ながら。盗賊たちの一人一人が、矢をつがえ。剣を構える。

「いい的になってくれよ」

盗賊は笑う。

こんな超至近距離。絶対に逃げられない。

僕は、震える足を引きずるようにして這うようにしてその場から逃げ出そうと動き出す。


そんな僕の姿を、笑いながら見ていた盗賊の弓が力いっぱい引き絞られ。

躊躇なく矢が放たれる。

まったく逃げきれていない僕を矢はそのまま貫くはずだった。

僕の後ろに突然生まれた、光の壁に弾かれるまでは。

『絶対結界、自動発動』



お知らせの音声と共に、僕の体ががくっと地面に沈み込んだ。

両手に力が入らない。

頭の中で、魔力枯渇しましたと声が聞こえている気がする。

本当に体が重たく感じる。


「何だぁ!?」

貫いたと思った矢が、光の壁にはじかれた事に。まさか、防がれると思ってもいなかった盗賊の男が叫ぶ。

二発目の矢をつがえようとした時。その男は突然、炎に包まれた。

激しい悲鳴が聞こえる中。


「何もんだぁ!」

別の盗賊の男が叫びながら、振り向き。一瞬後、その首が跳ね飛ぶ。


盗賊の胸に、氷の矢がつき刺さり、絶命する。

それと同時に、飛んだ首が地面に落ちる。


「カイル!右っ!まだ隠れていいる奴がいるよっ!あと2人っ!」

「わぁってるよっ!しっかり支援しやがれっ!」

「カイルっ!魔法の射線塞がないでよねっ!」

「そんなに器用に動けねぇよっ!」


そんな会話とともに、突然現れる3人組。


ふと、僕が地図を見るとその3人は緑の印になっていた。

冒険者だ。助かった。

普段なら、怖い人達だけど、僕はその時、助かったという思いから本当に安心して大きく息を吐いていた。


助かった安心感で泣きそうな顔をしながら、その場に倒れ込む。生き残った最後の盗賊が、一直線に逃げ出していくのが見えた。


「あ~!逃げるよっ!カイルっ!」

「無理だろ。それとも、追っかけるか?」

「無理よっ!私そんなに魔力残ってないからっ」

「なら、仕方ないかなぁ。また、ギルドに、報告しとかないとね」

「3人か~。1人逃がしたのは痛かったが、まあ、宿代くらいにはなるか」


3人でやりとりをした後、あっさりと剣をしまい、盗賊の側に寄って行く剣士。

カイルと呼ばれていた剣士は、倒れている男たちの懐を漁り始める。


「ちょっとカイル?子どもがいるんだから、ちょっとは自重したら?」

ジト目でそんな剣士を見るお姉さんを無視して、剣士の男は盗賊の死体をあさっていた。


僕は、首の無い人間の姿をみて、吐きそうになり、また地面にうつぶせになる。

そんな僕の耳に、剣士の声が小さく聞こえて来た。

「遠慮してたら、飢え死にするわ。お、銀貨みっけ。これで宿代が浮くぜ」

そんな剣士を無視して、お姉さんが冷や汗を出してうずくまっている僕の横にそっと座ってくれる。

「危なかったね、僕。大丈夫かな?あ、私レイアっていうの」

お姉さんは、微笑みながらそう声をかけてくれた。

 僕は、ただただ、怖かったのと、助かったのと、目の前の光景に吐きそうになっていたのと。訳のわからない感情でいっぱいになって、そのお姉さんにしがみついて、泣き出していた。



「怖かったね。無事で良かったね」

レイアと言ったお姉さんは泣く僕の頭をずっと、撫でて慰めてくれたのだった。


「お前は本当に子供に甘いよな」

カイルと呼ばれた剣士が漁っていた手をとめて、お姉さんを見ながら呟く。

ちょっと羨ましそうな目つきをしていた。

「大丈夫?怪我とかはしてなさそうだね」

そんな剣士を無視して、もう一人の優しそうなお兄さんも声をかけてくれる。

僕の顔を見て、お兄さんは一瞬はっとした表情をするけど、すぐ僕の頭を撫でてくれた。


「帰るか」

剣士が呟くと残りの二人もうなずく。

僕は、なかなか泣き止めなかったので、お姉さんに手を引かれて帰る事になったのだが、入り口でちょっとひと騒動起こしてしまった。


だって、僕は勝手に町の壁の穴をすり抜けて外に出ていたのだから。


門番の人に怒られ、助けてもらった3人にも勝手に町の外に出ていた僕の行動自体を怒られ、さらには勝手に外に出た事に対して、罰金を払わされる事になったのだけど。

金貨一枚(10万円)とか無茶苦茶な値段を言われてしまい、結局、冒険者の3人に肩代わりしてもらった。

その後で、なんで黙って外に出ていたのかを、冒険者の3人に、白状させられ、ウサギ狩りをしていた事を言わされてしまって。今までよりさらにこっぴどく怒られてしまった。


「毎日 兎狩りに出てたのなら、少しは役に立ってもらうぞっ。余計すぎる出費なんだからなっ!朝、必ず、冒険者ギルドに来る事。いいなっ!?」

さんざん怒られたあと、剣士のお兄さんにそう強く言われてしまい。

僕の日課は終わりを告げたのだった。


結局は、半分無理やりに、毎朝、配達の仕事の後。冒険者の宿に行き。カイル達、炎の(くさび)と一緒に行動する事になってしまったのだった。


もちろん、教会に帰ってからも僕が危ない事をしていたのが、門番からの連絡でバレてしまったので。シスター達にも無茶苦茶怒られた。






日もくれかけた夕方。

「で、十分儲けたね。あの子、ほぼ毎日納品してたよね?」

シンの前では、優しい顔をしていた男が、にこやかな顔をして、肉屋のおじさんを問い詰めていた。


「子供だし、ギルドやら正規の組合が間に入っていない闇肉だからって、あの価格は無いと思うんだよね?あ、あの子が言った分けたじゃ無いからね。子供が闇で、兎を売りさばける場所は、ここだけだろうだし、あの子の所持金から推測しただけだから」

炎の楔というパーティの交渉係でもあり、情報収集も担当している、青年であるキシュアはにこやかに、肉屋のおじさんを問い詰めていた。


うつむき何も言えない肉屋の店主。

「まあ、差額を返せとか、そういうのは言わないけど、あの子は明日から、僕らが面倒見るからね。Cランク冒険者の僕たち炎の楔が。

納品は、明日から無くなるからよろしく。文句があれば、ギルドに直接言ってくれると助かるかな」

肉屋のおじさんは、ぼろ儲けをしていた事もあり、下を向いたまま うなずくしかなかった。

「はあ。全くカイルは面倒を持って来るのが本当に得意だよね」

肉屋を出て優しいお兄さんは深くため息を吐く。


「まさか、孤児院の【奇跡の天使】を拾う事になるとはおもわなかったけどね。しかも、毎日ウサギ狩りをしてたとか、どんな子供なんだか」

キシュアはもう一度ため息をつく。

孤児院の【奇跡の天使】は町では結構有名だった。

まだ子供なのに、強力な回復魔法を使え、ちぎれそうになっていた指すらくっつけたのは有名な話になっている。

本当は、かなりの数の人が彼に回復をお願いしたいのだが、シスターが全力で人数制限をかけているため、なかなか回復をかけて欲しい人に順番が回ってこないのも有名だった。

「ほんとうに、純粋そうな子供だったけど、やっぱりいろいろと使われるよね。こんな時代だとね」

優しそうなお兄さん事、キシュアはふたたびため息をつく。


自分達がおせっかいなのは十分分かっていた。いや。特に自分自身が。

けど、目の前で、使い捨てたりされそうな子供を見捨てる事が出来ない性格なのも十分に分かっている。

炎の楔はもともと、Bクラスのトップを走っていたのだが、とある依頼の時にパーティーメンバーの一人が死んでしまった。


自分の恋人だったその人は、豪快で繊細な人だった。

その後は、あまり依頼をこなす気にもならなくなり、最終的には、引退まで考えていた。

しかし、Bクラス冒険者の時に出来た人脈は十分に広く、ギルド内や色々な場所にて、自分達の意見はしっかりと聞いてくれ、それなりの発言権も持っていた。


その代わりといわんばかりに色々な場所で、仲介役やら、相談事も持ち込まれたのだが。

面倒を好まないカイルは一切そういった事には首を突っ込まないため、自分が処理にあたっていたのだが、さすがに面倒になっていた。

一ランクギルドランクを特別に落としてもらい、危険な任務をしなくても良い、Cクラスとなって、盗賊退治やら護衛やらで生計を経て。

こんな田舎まで引っ込んで面倒な相談事からも離れていたのだった。


「次は女将さんかな」

昔を思い出しながら。ぎゅっ。と自分の伴侶となるはずだった人の髪が入った胸のお守りを握りしめ、キシュアは、性分なのだろうなと改めて苦笑いを浮かべながら、他人のしがらみの解除のためにふたたび奔走しているのだった。


2021 8 13 小さくいろいろと書き換えました。

   8 21 さらに追記しました。

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