悪魔のような英雄の卵
「すごいですっ!本当にすごいですっ!」
カラさんは、言葉を忘れたのか、それしか言えなくなっていた。
確かに、最上級回復魔法を使ったけど、そこまで尊敬されるとは思わなかった。
俺の一発で、回復を希望していた人はほとんど治ってしまい、まだ、日は高いのに教会には、誰もいなくなっていた。
さっきまで血まみれだった二人も休憩用のベッドで寝ていた。
重かったけどな。
改めて見ると、二人ともに鎧はボロボロで、多分剣も折れている。
まあ、男をじろじろ見る趣味はないから、基本は放置なのだが。
「シュン様、いや、司祭様、お茶はいりますか?」
いや、カラさん。呼び方、呼び方。
「気にしないでいい。収納魔法があるから、飲みたければ好きにする」
「では、お茶受けなどはいりませんか?」
えらく、かいがいしく世話をし始めるカラさん。
だから、司祭じゃあないんだから、放っておいて欲しい。
「ガッシュ!?」
そんなこんなで、カラさんの世話を受けていたら、寝ていた一人が飛び起きた。
「そっちの奴の傷は治ってる。お前も無理するな。傷は治っても、体力は回復しないぞ」
「助けて、くれたのか。すまない。この礼は必ずする。今は持ち合わせがないのだが、いつか必ず」
頭を下げる男。
「それより、何があったんだ?見たところ、このあたりをホームにしているんだろう?そんな大怪我するような強い魔物が出たのか?」
剥がれかけた革鎧の胸元をさして言う。
すると、ガッシュと呼ばれていた方が目を覚ました。
「オークファイターがいたんだ」
「ガッシュ!良かった!」
「なんとか、俺が気を引いて逃げられたんだが。結構斬られたみたいでな。気付いたら、気絶していたらしい」
「本当に、あいつが、暴れ牛の方にいってくれて助かったよ」
二人が生き残れた事を実感し、安堵のため息をつく。
「ギルドに報告はしたのか?」
「このあたりに、冒険者ギルドは無いんだ。できれば、君たちが帰ったら報告してくれないか?」
俺がうなずいた時。
「司祭様!私達が倒しましょう!オークはすぐ増えますっ!この村が危険ですっ!」
いきなり、カラさんが大声を上げた。
いや、やめて欲しい。依頼外の仕事だし。
「大丈夫ですよっ!全然倒せますっ!司祭様はあれだけの魔法が使えるんですからっ!」
カラさんがさらにテンションを上げて行く。
「俺は、あなたの護衛なんだが?」
「だから、私も行けば、私の護衛として倒した事にできるじゃないですかっ!」
あまりの爆発発言に何も言えずにいると、カラさんは立ち上がり、教会から出ようとする。
「ちょっと待てっ!準備があるから、今すぐは無理だっ!」
俺が、叫んでカラさんを止める。本当は準備なんかいらないけど。
「じゃあ、行ってくださるのですね」
俺は、にっこりと笑うカラさんに、してやられたと苦笑いを浮かべる。
「待ってくれ!行くなら、俺たちも連れて行ってくれっ!場所なら教えられるっ!」
さて。困った。
マップ機能で、オークの場所は分かっている。けど、マップ機能持ちなんて知られたくない。
さらに、オークは、かなり近くにいるのだが、問題は数。
5匹はいる。上級はいないようだが、オークの問題はその回復力。
常に少量回復効果があり、さらに、今回オークアコライトもいる。オークアコライトは、回復魔法が使えるオークだ。昔、戦った事もあるが、オーク種はとにかく、タフで、なかなか死なない。
カラさんくらいなら守って戦えるが、多分前線に出る二人は守り切れない。
「とりあえず、準備をしてからだ」
俺は、そう呟くと、空間収納に手を突っ込む。
ジャイアントバッファローの革を取り出し、魔法で、革鎧二着に形を整えて行く。オオカミの毛皮で、少し保護部分を増やし。
獣の革鎧が完成した。
まあまあの防御と、速度アップ付き。
次に、スケルトンヘルドックの足を取り出し、ささっと、ロングソードとショートソードを作る。
どちらも切れ味アップの付与と、ヒートエッジ付きだけど、二人は気づかない可能性が高い。
その装備を二人に渡すと、頭を地面につけるくらいの感謝をされた。
けどね。あなた達が死んじゃう方が嫌なんだよ。
とりあえず、二人は今日一晩ゆっくり休んで、明日早くからオークの討伐に行く事で、カラさんを納得させる。
そして、いつもより豪勢とカラさんが言うご飯を食べて、寝る事になった。
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夜中。
俺はこそっと村を出る。
村人が出してくれたお酒も、ご飯もいただいたが、酔ってもいない。
目的は、オークの集団。
数は、5匹だが、はぐれが近くに一匹いる。
そのはぐれオークを明日みんなで叩く事にして、オークの集団は先に仕留める事にした。
怪我人が出るのは勘弁だからな。
ささっと草原を走り、オークの集団を見つけ。
「行くか」
ニヤリと笑う。
自分の槍を空間収納から取り出し、氷の魔法を打ち出す。
腕並みにある氷の槍が、オークの一匹に突き刺さる。
ガァァッ!
オークがこっちに走って来る。
氷の槍は、無理やり引き抜きやがった。
傷はみるみるふさがっていく。
俺は笑みを浮かべながら、先行してきたオークの腕を切り落とす。
「弱いぜ」
そのまま、返す刃で下から斬りあげ、頭に槍を突き刺す。
青く染まった刃は、豆腐に突き刺すより軽く頭に吸い込まれた。
「まず、一匹」
そのまま、頭を真っ二つにする。
引いた槍を構え直しながら、近づく他のオークに、土砲弾を浴びせる。
ひるんだ相手を、上下に分離する。
後ろから、オークアコライトが棒のような武器、棍で殴って来るが、魔法球にかけている絶対結界が防いでくれる。
本来なら、その場所にしか発動しない絶対結界だが、魔法球に張る事で、動かせる事が分かってから、俺の手を使う事のない無敵盾。いわゆる、ピンポイントのバリアになっていた。
呆然としている、オークアコライトの頭を斬り飛ばす。
3匹目が動かなくなった事を確認し、4匹目。
魔法球から、無数の風の刃が飛び、オークを切り刻む。
普通の魔物なら、楽勝で倒せる威力なのだが、オークは耐えた。
相変わらずタフすぎるだろっ。
俺の魔力は900あるんだぞっ!
心で突っ込みながら、突然あり得ない方向から魔法が飛んできて、足が止まっていたオークの足を斬り落とす。
崩れるオークを横目に見ながら、魔法を浴びたにも関わらず、自己回復を始めていたオークに、渾身の突きを繰り出す。
十文字の刃が全てオークの体に埋まる。俺はそのまま、突き刺さったオークごと槍を持ち上げ、足を斬り落としたオークに叩きつけた。
飛び散る二体の肉と、血をなめながら、ニヤリと笑う。
ちらりと、誰もいない場所を見る。
5匹の討伐が終わった事を確認して、俺はさっさと寝床に戻る事にしたのだった。
シュンが帰って行く姿を見ながら、討伐を見学していた人影がゆらめいた。
「私に気付いていましたね。しかし、あの戦い方。あまりにも。
あれは、悪魔ではありませんか」
人影は、シュンの立ち去った方向を見ながら、呟くのだった。




