赤く染まる地下
グロ表現あります。 苦手な方は注意してください。
ロア先輩も来てくれている。ヒウマ先輩も来てくれた。
俺は、走りながら。少し気が楽になるのを感じていた。
しかし、その思いを打ち砕くかのように。突然、森の中にあった2つの緑の丸が消えた。
ロア先輩の丸は、大量の赤い丸を確実に消しているけれど、その場からは動けていない。
ヒウマ先輩とにゃん先輩は、確実にさっきまで、2つの緑の丸があった場所に駆けている最中。
俺より圧倒的速さで。
そして、俺はというと。
一回り大きいウルフに囲まれていた。
このウルフたちは、周りの木を蹴って、空中を飛び回る。
「犬なら、地面を走れよっ!クソッ!」
焦りと、イライラから悪態が出る。
二人が、死んでしまった可能性は高い。
また、助けれなかったのか。 カイルたちのように、助けれたかも知れない命。
昔と同じじゃない。あの地獄の森で生き残って来た記憶まであるのに。
もっと強い魔物の中を生き残って来たのに。
ただ、一つだけ、今さっき出た希望にすがりつくしかない。
にゃん先輩とヒウマ先輩を示していた緑丸がたった今、消えたのだ。
あの、チートな先輩と獣人の娘の二人が死ぬとは思えないから、きっと洞窟か何か。
隠れる場所がある。
そこにライナ達が連れ込まれた可能性は高い。
あいつらは、巣に女性を連れ込む性質がある。
まだ生きてる可能性がある。
俺はそう思いながら、周りから飛んでくるウルフを叩き落とす。
一切の手加減無し。
手に入れたEPは、すぐにでも速さに振る。
叩き落とされたウルフは、俺のスピードに乗った一撃で、車にでもひかれたかのように吹き飛ぶ。
余りはステータスの力にも振り、一撃で敵を吹き飛ばす。
「早く、早く」
走る暴走車のように、すれ違い様に魔物をひっかけてぶん投げながら猛スピードで走る。
走る足も、メイスを振るう手もしびれて来たけど、無視する。
無理やり動かす。
昔もそうだったな。手足は大きくなったのに、自分は成長してないなと薄く笑う。
目の前に黒いもやがわき出て、魔物たちが姿を表す。
俺は瞬時に魔法球を数個出し、魔法の一斉射をさせ相手をひるませると、魔物の間を突っ切る。
後ろから俺を追いかけようとしている魔物が、魔法球の第2射に撃ち抜かれるのを背中に感じながら、駆け抜けて行く。
後ろに静寂だけを残して。
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「ぐるぅ」
「このあたりなのか?にゃん」
にゃんが突然止まって、低く唸った。
俺が獣人の村に転移して来てから、にゃんはずっと一緒に過ごして来た。今までも、これからも。
つがい? いや、多分、分身だな。にゃんはもう、俺の一部だ。
俺は、にゃんから降りる。
すると、力一杯地面を踏みつけるにゃん。
地面には、ぽっかりと、穴が空いた。
「この先か」
暗闇の中にためらいなく入って行く。
にゃんも普通サイズになり、耳をぴくぴくさせながら、ついてくる。
にゃんの耳は小さい物音も逃がさない。
多分合っているはず。
二人で、ゆっくりと道のような坑道を歩いていると、ふと明かりが見えた。
と同時に、にゃんが叫ぶ。
「あそこにいるにゃっ!」
俺が突っ込むと、犬顔が二匹見える。その後ろにもなんか、変なローブを着たやつと、ゴーグルみたいな物を着けた犬っころが見える。
その横に、台に括りつけられている、ライナさんと、台の上に寝かされているレイアさんが見えた。
「この野郎っ!」
手前の犬を切りつける。叫び声を上げる犬顔。
後ろの二匹が気が付き、ガウガウと言うのを無視して、もう一匹の首をはねる。
暗殺というか、近接が得意な俺には、狭い場所はむしろ最適な狩場。
奥から飛んでくる火の魔法を前転で避け、魔法を展開する。
この場所なら逃げ場はないっ。
「ニードルラッシュ」
無数の針が前に向かって飛んで行く。
「トゲトゲになりやがれっ!」
俺が叫んだ時。
周りにふわっと黄色い煙が漂う。
「ヒウマっ!!」
にゃんの叫び声で、真っ暗い槍の魔法が自分の脇腹に刺さっている事に気付いた。
だが、体が動かない。一瞬、視界が消えていた。
にゃんもずりずりと俺の方に来ているが、体が上手く動かないらしい。
俺は、倒れながら、大量に出血しながら、眠くなるのを感じていた。
――――――――――――――――――
マップの緑の丸があった場所まで来ると、地面に大きな穴と、階段が見えた。
少し希望が見えてきた。
この下に、ライナたちと、ヒウマたちがいる可能性が高い。
しかし、地下の探索がマップで出来ないのは、かなり致命的だ。いろいろ試してみる必要があるな。
そんな事を思いながら、地下を歩いていると、悲痛な声が聞こえる。
俺がメイスを抱えて走ると、道の端にヒウマが倒れていた。
全身血まみれのにゃんが、ヒウマを一心不乱になめている。
「治らない、、にゃ、、」
「治って、、にゃ、、」
「治るにゃぁ」
同じ事を呟きながら、ヒウマをペロペロとなめ続けるにゃん。
いや、彼女も傷だらけだ。
俺は、何が起きているのか分からず、ただ棒立ちになってその光景を見つめる。
マップ上の赤い丸は点滅し、さっきからアラームがうるさい。
そんな状況の中、キラリと奥から、黒い魔法の矢が飛ん来た。
黒い矢は、にゃんの肩を貫く。
びくっと震えるも、自分の傷は気にもせずに必死にヒウマをなめるにゃん。
そして、その魔法が飛んで来た奥を見ると、ライナとレイアの二人が縛られているのが見えた。
その光景に。
「だりぁぁっっ!」
頭が沸騰しそうな怒りに。
俺は、緑の光を撒き散らしながら、走り出す。
緑の光は、ヒウマの出血を止め、にゃんの傷を癒す。
闇の魔法矢を無理やりな体制で避けながら、魔法を放つ犬顔に迫る。
あとちょっとで、犬にメイスが届くと言うところで、緑色の煙が目の前に広がる。
その煙の毒々しさに思わず、立ち止まり。後ろに下がってしまった瞬間。
目の前が真っ赤に染まった。




