表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/312

優しさのある世界

うん。今日も晴れてる。

窓を開けた僕は目の前に広がる空を見上げて思わず大きく両手を伸ばす。

どこまでも続くような真っ青な空の下。


「行って来ます~」

僕は、伸ばした両手を思いっきり振って。修道院のシスターさん達に挨拶をした後、朝の町へと駆け出していく。

ここ最近の日課になっている、朝の配達の仕事をするためだった。


「助かりますわ。あの子が持って帰って来ていただけるお金で、なんとか今日も飢えずに済むのですから」

シスターの一人は、元気に手を振る子供に手を振り返しながら呟く。

もう一人のシスターはにこやかに笑って走っていく子供を見送っている。


「あの子が来てから、もう1年ですか。早いものです」

元気に駆け出して行く子供、シンの後ろ姿を見ながら、シスターはしみじみと呟いていた。

「本当に早いものです。最初の半年は話しすら一切できず。私たちの顔すら見てくれない子でしたね」

まだ若いシスターもその隣に立ち、笑みを浮かべながらも少年を見送っていた。

「けど、シンが元気になって、本当に良かったです」

「本当に。あれほど、兄弟思いの子は他におりませんもの。どれほどの癒しを与えてくれているか」

その言葉に一斉に頷くシスター達。


「結局、あの子の本当の名前は分からないままですわね。思い出せないとは、辛いでしょうに」

「仕方ありませんわ。あの子以外、村は全滅していたとの事でしたし。どれほどの地獄が悲劇があの子を飲み込んだのか。私たちには、知る術はないのですから」

一人が何気なく呟いた言葉に、返事をしながら、全員のシスターたちが目を伏せる。


「あの子に神の加護がありますように。私たちは、ただ、これからもあの子を見守るだけですわ」

シスターたちは、走って行った少年を見守る事しか出来ない事を一番良く知っていたのだった。


ーーーーーーーーー


僕、シンは11才になった。


 あの日、僕が生まれた村に何があったのかは何一つ覚えてない。

僕は、知らないベッドの上で目が覚めた。

どこか分からなくて、怖くて叫ぼうとしたのに、声すら出なかった。


自分が怖かった。何も覚えていない事に、何も知らない場所にいる事も。

何もかもが怖かった。とりあえず、ベッドから出て部屋の外に出た時。

初めてシスターさんに話しかけられたのに、返事すら出来なかった。

ただ、ただ、僕は泣いていただけ

そんな日がしばらく続いて。

やっと落ち着いて来て、せめてシスターにお礼を言おうと思ったのに。

声が出なかった。

しゃべろうと思うのに。言葉が喉から出てこない恐怖に、また泣き出した時。

シスターは僕をしっかり抱きしめてくれた。

一緒に泣いてくれた。

一晩、一緒に寝てくれたシスターには、本当に感謝している。

けど、自分に何が起こったのか分からない恐怖に、怖さに。僕は部屋に引き籠るようになった。

ずっと、ずっと部屋の中で引き籠っていた。

でも、そんな時でも、ここのシスターさん達は、とっても優しかった。

イライラして、物に当たったり、時には叩いてしまったけど、優しく僕の食事なんかを運んでくれた。

本当のお母さんの事は、覚えてないけど、ここのシスターさんはみんなお母さんみたいで、本当に大好きだ。


時間をかけて、僕の言葉は少しずつ出てくるようになった。

だから、今、やっと外に出れるようになって、普通に話をして、笑えるようになった僕は、雑誌や飲み物とかを、町で配る配達の仕事をしてる。

迷惑をかけた、お母さんのようなシスター達に少しでも楽してもらえるように。

修道院には、僕の他にも、同じように親のいない兄妹はいっぱいいるから。

僕と同じように、魔物に襲われて両親がいなくなったりした子供が多いのだとシスター達が教えてくれた。



「助かるねぇ。シンは小さいわりに力持ちだからねぇ。ドワーフの血筋でも入ってるのかねぇ」


ひょいと、ワイン30本入りの箱を抱えて、台車に載せると、仕事をさせてくれている宿屋の女将さんから、ほめられた。

ついつい誉められるのが嬉しくて、他の重い荷物も移動させてあげる。


この世界は、レベルとステータスの世界であるらしいけど。僕はなぜか、違っていた。

目の前の女将さんは、


[名前] ハス

[職業] 商人


[ステータス]


[Lv] 5

[Hp] 100

[Mp] 30

[力] 25

[体] 23

[魔] 24

[速] 18


[スキル]


演算


と言う感じ。でも僕は


[名前] シン(**********)

[職業] 孤児


[ステータス]


[Lv] 0000

[Hp] 200

[Mp] 200

[力] 200

[体] 80

[魔] 100

[速] 30


[スキル]


データベース EPシステム 火炎魔法・使用不可

水魔法 風魔法 偽装 回復魔法 絶対結界


残EP 500


となってたりする。


データベースは、この世界の隠匿やら、偽装スキルを受け付けず、全て正しく見せてくれるらしい。何もかも、検索可能で、女将さんの初恋の人の名前まで調べられる。


やらないけどねっ!


今は、音声オフにしてるけど、音声での読み上げもしてくれるし、別言語の通訳もしてくれる。

だから、僕は魔物のウサギとも話せるんだけど、誰も信じてくれない。


EPシステムは、経験値?の代わりにEPが入ると言う物で、魔物とか倒したら10p~ 入って来る。

そのポイントは、自分のステータスを上げたり、スキルを取ったりするのに使える。


最初は、ステータス全部10で、涙が出そうだったけど、なんとかここまであげれた。 最初の500pがなかったら僕は死んでたと思う。

あと、どうしても火の魔法は使えない。使用不可になってるし。

なんといっても、火を見たら、体が動かなくなったりして、何も考えられなくなってしまう。

最初は、火を見たら暴れだしたりして、シスターにすごい迷惑をかけたみたい。

僕は、覚えてないんだけど。

火を怖がるのは、村の思い出が原因でしょう。とシスター達に言われたけど、全く覚えてないんだから、分からない。

生まれた村が襲われたというのも、シスターさんから聞いた話だし。

まったく実感はないけれど。




僕は町の住宅地を周り、いつも通りに飲み物を、雑誌を決められた家に配って行く。

力が200もあると、台車なんて持って無いのと同じ。坂道も楽々登っていつも通りの道を次々と通りすぎて行った。


 「終わりましたっ」

配達元でもある女将さんの宿に帰って来ると、女将さんに報告。


「いつもありがとうねぇ。シン君。ご飯食べて帰りなよ」


女将さんがそう言うけど、食卓の上にはすでに、二人分のパンとスープが置かれていた。


「いただきますっ!」


僕は手を合わせて元気いっぱいに言ってスープを吸い込む。


「変わった挨拶だよねぇ」


女将さんがにこやかに、僕がするするとスープを飲む姿を見ていた。


「なんか、これを言わないと落ち着かなくて」


僕は、そう言いながら、パンを懐に入れていく。


持って帰って、妹達にあげるのだ。弟には絶対やらない。自分で稼いでこいとケンカするたびに思うのだ。


結局はシスターになだめられて弟達にも、渡す事になるんだけどね。


「じゃあ、ありがとうねっ!」


「こちらこそ。明日もお願いするよ」


にこやかな笑顔を見ながら、僕はお店を出て。

修道院には戻らずに、町の端っこに行く。


町の周りには、高い壁が全体に張ってあるんだけど、ここだけちょっと壊れてて、子供なら抜け出せるスペース分崩れている。


その崩れた隙間から、壁の外に出ると僕は一気に走る。


「メニュー、データベース、マップ、ウサギ、魔物検索」


走りながら僕が呟くと、視界の端に2つ地図が出た。

一つは、隣村までの広い地図。もう1つは、周り1キロくらいまでの近場を表している地図。


そこに、赤い点、緑の点、黒い点が浮かび上がる。

赤い点は魔物さっき言った魔物ウサギの場所だ。緑は人。黒い点は、盗賊とか、ちょっと人に言えない職業の人達。



赤い点で記された魔物ウサギは、かなり早い速さで動き回っている。

その赤い点の場所に行きながら、僕は緑の点にも注意する。


冒険者達が、ウサギ狩に出ていたら、そこに近づかないようにしないといけない。僕のやってることは、どうやら密猟て言って、かなり危ない犯罪行為みたいで、前にしこたま怒られた事がある。

あの時は見逃してもらったから助かったけど、狩ったウサギは全部取られてしまった。

だから、緑の丸があったら、見つからないように、逃げないといけない。

冒険者さんたち、怖かったから。

「いた」


ウサギを見つけると、素早く手をあげ、風魔法を発動する。


一瞬で、風の刃が魔物ウサギの腹を裂き。ウサギは倒れた。

 EPポイントが10ほど入っているのを確認した後。

僕は、倒したウサギを腰にくくりつけて、次の点に走り出す。


本当は詠唱が必要らしいんだけど、データベースの中に無詠唱のやり方と、魔法威力の上げ方っていう説明があって、遊びでやってたら、無詠唱で魔法が発動できるようになっちゃっていた。


だから、僕は無詠唱で、風魔法と、回復魔法が発動できる。


とりあえず、草原を走り回り、5匹ほどウサギを狩ると僕の腰周りには一杯になり、これ以上くくりつけられなくなった。

実際は、ウサギを着こんだみたいな見た目になっているけどね。

ウサギ、大きいんだよ。


「もういいかな」


僕は呟くと町に帰る事にした。

隙間は、ウサギを括り付けたままだと抜けられないので、一度全部外して、風魔法でそっと押しながら、一匹ずつ壁の中に入れて行き。

最後に自分が抜けてから、また自分の腰にくくりつける。


結構な手間がかかるけど、大人に見られたら大事になるから、仕方ない。


修道院へ帰る途中で、ウサギを知り合いの肉屋のおっさんに売りに行く。


大体、ウサギ一匹、銅貨20枚で買ってくれる。本当は、一匹銀貨一枚らしいんだけど、密猟のウサギだし。

 いろいろ問題もあるから、僕も何も言わないようにしている。


配達の仕事のお金は、一日、銅貨40枚(400円)て事にしてもらって、シスターさんに渡して。

残りは僕の布袋の中に入れていた。

実際の配達の仕事の値段は、一日、銅貨10枚(100円)くらいだけど。

ただ、ウサギが狩れない日も多いから、自分のお金はあまり貯まらないのが悩みかもしれない。


そんないつもの朝の仕事を全部済まして、僕は修道院に帰る。


昼からは、回復魔法をやってくる人たちにかけて行く仕事が待ってる。

基本、お金の無い人ばかりがやって来るからこれは、無料でやってる。


シスターさん達は、このまま僕がこの修道院に居続けて神父になってくれる事を期待してるみたいで、僕も漠然(ばくぜん)とそうなるんだろうなと思ってる。


「光の精霊と神の名において、傷つき、痛みを負った者に祝福を。

ヒール」


 さすがに、ここで無詠唱で魔法を使うと大騒ぎになりそうだから、詠唱はきっちりと唱えて魔法を使う。

詠唱の方法も、詠唱の言葉もデータベースに載ってたのを丸暗記してる。

時々忘れるから、詠唱がおかしくなってるけど。


皆の傷を治すと、時々、ご飯が豪華になる時もある。けど皆に嬉しがられて、本当に喜んでくれるのを見ていると、大事な仕事だと思う。


いっぱい働いたら、夜ごはんを食べて、兄弟と遊んで、弟たちと喧嘩をして過ごす。



そして、夜になったらもらったポイントを何に振るかいっぱい考えて、寝る事にする。

そんな一日を僕は、過ごしていた。


とりあえず、今日のポイントは速さに振ろうかな?

お休みなさい。





2021 8 12 色々書き換えました

2023 1 修正しました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ