穏やかな日常だ
とりあえず、最後の一匹を倒し、おれはメイスを振るう。
周りには動く物はいなくなっていた。
30匹くらいは、倒したと思う。
次々と来るオオカミを倒し続けたため、さすがに疲れた。
途中から次々と来たが、全部倒していたら、残りがやっと逃げ出した。戦果は、十分だった。
とりあえず、解体は後にするか。数が多すぎる。
「あの、ありがとうございました」
倒した魔物を空間収納に放り込む作業を必死にしていたら、助けた商人が頭を下げていた。
あれ?頭を下げた雰囲気が誰かに似てる。
「いえ、いえ。災難でしたね」
「本当に。命があっただけでも。ありがたい限りです。」
そう言う、彼の荷馬車は完全に動かせなくなっている。
ロックバードは、疲れた感じで水を飲んでいた。
「えーと、荷物、とりあえず、私が収納しましょうか?」
「本当にっ!いいのですか?!持っていただけるなら、本当に助かりますっ!」
俺が壊れた荷馬車ごと荷物を収納に突っ込む。
すると、痩せた女の子がぽつんと馬車のあった場所に立っていた。
首輪をつけられ、両手を縛られていた。
旅の途中だからなのか、汚れがひどくて、可愛いかどうかも分からない。
「ああ、この娘は、旅の途中で拾った奴隷娘でして。王都で、引き渡そうと思っていたのです」
へぇ。奴隷も存在しているのか。あ、耳がちょっととがっているから、エルフとかかな?
「気に入ったなら、お買い上げになりますか?」
「いやいや、まだ学生ですし」
俺がそう断るとびっくりした表情をされた。
「学生で、そんなに強いのですか!びっくりしました」
「ところで、もしかしたら、ギルド受付に妹さんが働いてませんか?」
なんとなく聞いて見ると。
「はい。妹はギルドの受付をやっているらしいのですが、それが何か?」
大当たりだった。
「いえ、妹さんが心配してましたよ。依頼を受けた時に、個別にちょっと話しを聞きまして。僕は、このあたりで活動する事が多いですから」
「妹と親密なのですか?」
ちょっと、お兄さんが怖い。
「いえいえ、全く何もないです」
「なら、いいのですけどね」
ふとマップを見ると、さらに、魔物が近づいて来ているのが見えた。
「長いしていても危ないですから、行きましょう」
俺は急がせるように、都市に向かって歩き始める。
まだお兄さんは俺をにらんでいた。
だから、何もないんだってば。
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とりあえず、ギルドに戻り、30匹近いオオカミを買いとってもらう。
解体費用で大分引かれてしまったが、金貨2枚になった。
なかなか。20万円1日の稼ぎとしては十分だよな。
ダルワンさんと、半分にして宿に帰ることにした。
あ、荷物は、お兄さんの宿の前で全部出したよ。
その時に、大銀貨3枚(3万)もらったりもした。
ギルドの受付のお姉さんからは、抱きつかれてしまって、さらに、お兄さんの怒り度が上がったりもしたけど。
まあ、普通に宿に戻る。
すると。
「お帰りなさいっ!」
レイアとライナがそこにいた。
なぜか、狭い部屋の狭いテーブルの上には、二皿の料理が置いてある。野菜炒めっぽい物と、肉を煮込んだものっぽい物。
「さあ、疲れたでしょ~食べてくださいね」
「心を込めたから」
「私の方が心と愛情がこもってるのっ」
「ライナよりも、私のが、料理はしてるから」
その二皿を見て、なんとなく理解してしまった。
二人で、どっちが料理が上手いかで、喧嘩になったな。
二人に急かされながら、二人の手料理を食べる事になった俺。
二人に必死に美味しいよ。と返事をしながら、なんとか食べきった。
ほんと、二人の言い争いの喧嘩に巻き込むのはやめて欲しい。
ちなみに、二人の料理、どっちともしっかり火が通ってなくて、固かった。
味はおいしかったけどね。
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「で、一人で、オオカミ30匹討伐か」
「いやいや、ロア君よりも、化け物ですわ。シュン君は」
ダルワンが校長室で、今日の話しをしていた。
校長室でしっかり酒瓶を煽っているのは、ご愛敬か。
「やはり、冒険者として働いてもらった方が良いのか?」
「まあ、本人は、今の生活が楽しい見たいですから、このままで良いのではないですか?大捕物があれば、ロア君とか、ヒウマ君と組ましても面白いと思いますがね」
再び酒を傾けるダルワン。
「それよりも、ライナ君のシュリフ家が乗り込んで来そうな勢いですわ」
「シュン君の見定めか」
「まだまだ、時間に余裕はありそうですがね。東地区と北地区が忙しいようでして」
「はあ。ゴブリン襲撃のあった、タルサの町か。もうそろそろ、ニ年になるが、また襲撃がありそうなのか」
「キナ臭い話ししか流れて来てないですね。ゴブリンのアサシンマスターを見たと言う話しも出てますし」
ダルワンの目付きが鋭くなる。
「頭が痛いな。それにしても、冒険者を引退した君にこんな仕事をお願いして、本当に申し訳ない」
と、大金貨2枚を差し出す校長。
「まあ、楽しくやらせてもらってますわ。シュン君といると稼げますしね」
大金貨一枚だけ取り、懐に入れる。
「じゃあ、行きますわ」
「頼むぞ。『帰還者』」
ダルワンは、学校から出ると、頭をガシガシとかく。
『帰還者』それは、自分がAAAランクの冒険者として、ゴブリンの砦に進撃し、壊滅させ戻ってきた時についた2つ名だ。
あの砦には、なぜか、竜もいたな。
レイアの親も、あの戦いには参加していた。
竜が里に降りてしまったり、ぐだぐたな攻略であったが。
「何の因果か、あいつらの子供まで面倒見てるんだからなぁ。世間は狭いよなぁ」
あの戦いは、地獄だった。血飛沫を、死体を、死の恐怖を。忘れたくて、冒険者を引退して酒に逃げる程に。
そして、今、再び冒険者として動けている事に自分が一番びっくりしている。
「不思議なガキだが、俺よりは根性あるよ。あの化け物のガキは」
再び酒瓶から直のみしながら、ダルワンは薄く笑うのだった。




