その後のその後。
「どうしたものか」
バルクルスは、平原を見つめたまま茫然としていた。
アンデットの大群が生まれていると聞き。
慌てて様子を見に来たのだが。
そこには何も無かった。
あったはずの家も、人も。
もちろんアンデットも。
「シュン君の仕業だというのは分かっているのだけど」
バルクルスは、頭を抱える。
「中央が何か言ってくるかも知れないな」
フェイロン共和国には、キンカと同じくらい大きな都市がある。
そこが攻めてくる可能性があった。
苦虫をかみつぶしたような顔をしているバルクルス。
しかし、部下が聞いたのはそんな事とはまったく関係なかった。
「それよりも、、リルは無事なのか?」
父親の顔を全開にして、必死に、娘を探していた。
その姿を見て、苦笑いをこらえるのに必死な兵士達の顔は、みんな穏やかだった。
「ねえ、ミオ」
父親が必死に探している事も知らずに、リルは獣人の青年に笑いかける。
「頭を撫でてくれたって事は、そういう事だよね?」
詰め寄ってくるリルに、思わず後ずさりしてしまう僕。
何で、ドワーフの習慣を知っているのか。
僕が視線を逸らすとそこには、僕から明らかに目線をずらしている妹の姿が見えた。
リルに、教えたな。ミリ。
恨めしく、ミリを見るも、ミリはそのままそしらぬ振りをして、パパの傍に行ってしまう。
「諦めた方が良いかと思います。ぼっちゃま」
ギャルソンが小さく呟く。
「リルを娶ると言う事は、私も一緒にお願いしてもらいたいのだが?」
アティが、真剣な顔で答える。
「ダメなのにゃあ!リルは、、、1万歩譲って、仕方ないとしても、アティはダメなのにゃあ!」
全身の毛を逆立てるようにして怒っているにゃあ。
どっちも、二人の親に殺されそうなんだが。
そんなパパの呟きが聞こえてくるような気がした。
「ところで、ここ、どうするの?」
ミリがふと周りを見回す。
何も残っていなかった。
パパの羽は、ネズミも、アンデットも、町も。
全てを消し去ってしまった。
在るのは、大きな湖だけ。
「この水を巡って、絶対に戦いが起きるの」
その言葉に嘘は無い。
この平原は雨がほとんど降らない。
水と、食べ物を巡って、何度も戦争が起きるのがここ、フェーロン共和国なのだ。
「だから、君に支配してもらうしかないんだよね」
突然聞こえた声に、思わず振り返ると。
にこやかに笑いながら、手を握りしてめている領主さんがいた。
「僕の可愛い、リルをたぶらかしてくれたからには、しっかりとやってもらわないとね」
今にも殴りかかってきそうな手と、笑っている顔。時々引きつっている口元が、とんでもなく怖い。
「ここで戦争が起きると、僕たちの領地まで落ち着かなくなるから、勘弁してもらいたいんだよね」
笑ったままの顔が。
真剣な顔になる。
「シュン君は嫌だと言ったけど、リルをもらってくれるなら、最大限の強力はするよ。どうかい?ミオ君?」
バルクルスさんが、本当に怖い。
「いや、いきなり、ミオに領主を任せるとか、、無理じゃあ」
「だって、シュン君はやってくれないだろ?前にも言ったよね?キンカは君が治めるべきだって」
パパの援護はすぐに撃ち落とされてしまった。
「リルは、ミオ以外に嫁ぐ気は無いよ」
にこやかに、リルに微笑みかけられてしまい。
「それに、死んだ人達の弔いは誰がやるんだい?」
バルクルスさんが、にこやかに、しかし笑っていない目でこちらを見て来る。
「それを言われちゃ、おしまいだな。バルクルスさんとやらの方が、何枚も上手だなぁ。シュン。
おまえさんも、集落持ちか。まぁ。何かあったら手伝ってやるよ。俺達の方にもこっちに移住したい奴もいるだろうしな」
タイガさんが豪快に笑う。
「来れるのなら、こっちを第二集落にしても良いな」
獣人の長は、真剣に考え込んでいる。
「ほら。もう住人が出来そうだよ。良かったじゃない」
その一言で。
僕たちは折れるしかなかったのだった。
フェーロン共和国に、獣人と、人と。そして、この世界初となる、魔獣が一緒に住む町が生まれたのは、それから数年後だった。
領主は、青い髪の少年と、その妻達。
だが、実質その町を取り仕切っていたのは、少年の父親と、その母親であったらしい。
億を超える魔物を打ち滅ぼすその町の名は、紅石の町 と言われる事となるのだった。
その名の由来は、ピンクの髪の女性と、その夫の事だと言う。
だが、その本来の意味は、当人達しか知らないのだろう。
ただ、町のシンボルは、巨大な木にとまり、羽を休める竜となっているのだった。
これで、とりあえず完結です。 ありがとうございましたっ。
まったく、書き進める事が出来なかったので、お待たせしてすみませんでした。
読んでくだされた方、アクセスしてくだされた方、本当にありがとうございました。
読んで下される方がいるから、書き続ける事が出来るのだと本当に実感しています。
心から、お礼をさせていただきたいと思います。
ありがとうございました。