その後 黒から赤、そして光へ
「ちょっと、冗談にもならないの」
ミリは、満足に動けない体を引きずりながら、苦笑いをしていた。
目の前から迫って来るのは、足首ほどしかない、小さな大軍。
「大きい敵なら、囲まれても、数体で済むの。あの小ささじゃ、50体近く一気に襲ってくるの」
絶望の波が湧き出て来る。
間にいたアンデットが、スケルトンの骨すらすべてかじり尽くされてその波に消えて行く。
「ママ!飛ぶの!」
ミリはリュイに叫びながら、ミュールの足に捕まる。
「皆も飛ぶの!」
その声に。
慌てて飛ぶ獣人たち。
タイガはというと、ギャルソンに掴まえてもらい飛んでいた。
「なかなか、面倒な事を」
白い巨大な犬となっている、獣人の長は苦笑いをしている。
地面は、本当の意味で真っ黒となっていた。
ドンキが植えた豆すらかじり尽くし。
全ての生物も、アンデットもかじり尽くしていく。
「キンカの町を滅ぼした、灰色の悪魔なの」
ミリが、小さく呟く。
「ちょっと、勘弁して欲しい光景ね」
リルの声に、アティもうなづく。
そんな中。
「あれ!」
ウルが指さした先には、ぽっかりと空間が開いていた。
そこにいるのは、二つの影。
「ちょっと、ママ?パパ?!」
ミリが叫ぶ。
そう、ネズミの大群の中。両親は、まだ抱き合っていたのだった。
じゅっと、光に触れ、ネズミが消えて行く。
無数の魔物の中で、俺とリュイはまだ抱き合っていた。
俺達は顔を見合わせると、二人で小さく笑う。
「結局、こうなるんだな」
「シュン様ですから」
二人きりになってしまっても、笑うリュイに反論は出来ない。
『大丈夫』
『まだ、力は』
声が聞こえる。
「ミュアさんが、助けてくれているです」
俺はうなずく。
右手を空に突き出す。
その手に、リュイの手が添えられる。
「シュン様を思う、私たちの全てを」
『シュン様の為に』
周りに浮かんでいた光の球が、弾けるように消えて行く。
空の色が変わっていく。
夕暮れ。いや、朝焼け。
黒く、赤く。
紅く、白く。
紅と黒が交わり。
世界が光りに包まれて行く。
虹色の光りに。
「まったく。本当にシュンは強ええ」
タイガが呆れた声を出す。
突然降り出した虹色の羽が全てを消し去って行く。
「ふざけるなぁ!」
私は叫んだつもりだが、声は唸り声となるばかり。
悪夢を見せたはずだった。
悪夢が生まれるはずだった。
なのに。
なんだ。
これは。
光輝く羽が、悪夢を全て消し去って行く。
何も無かった事にしてしまう。
私の身体も朽ちて行く。
再生が、出来ない。
あまりの事態に悶えていると、目の前の男と、女がこちらを睨んでいるのが見えた。
「お前は、俺たちの子共を貶めた。ぜったいに許さない」
男がこちらを指さす。
私は笑うしかない。
その細い腕で。
片腕しかないその体で、何が出来るというのだ。
私は自分のたくましい両手を振り上げる。
これで、終りだ。
力いっぱい振り上げた両腕は、振り下ろされる事が無かった。
小さな獣人の子共が。黒い獣が、
両腕を切り落として走り去るのが見える。
すぐに再生するはずの腕が生えて来ない。
私は叫ぶ。
まだだ。
まだ、分身がいる。
私が作り出したもう一人の自分を見て、驚愕する。
黒い光に包まれ、消え去っていく。
私が。私の分身が。
「思い出したくない事を思い出させてくれたから。お父さんでも許さない」
黒髪の少女が。 アンナが怒っている。
何故だ。
あんなに、愛していたのに。
「親は、子共の盾になるもんだ」
虎が。
二足歩行で歩く魔物が、私の胸を貫く。
子共は、私のモノだ。
それ以外のナニモノでもないはずだ。
「子を支え、子に支えられる。それが、家族だ」
目の前の男が、訳の分からない事を言う。
「あなたの事は、好きです。でも、その闇は、深すぎるです」
ピンクの髪の女が、哀れみの目を向ける。
やめろ。
その目で見るな。
「ドンキ。もう一度。眠ってくれ。今度は良い夢を」
男が左手を。女が右手を。
その手に握られているのは、巨大な斧。いや。
七色の、槍斧。
「やめろ。私は、、世界を、、、」
『もう、いいではありませんか』
『あんまりしつこいと、嫌いになるよ』
ふと振り返ると、懐かしい顔があった。
「なんで、お前たち、、」
『いつまで経っても、来てくれないから』
『迎えに来たの。ねー。おかあさん』
どう返事をしたらいいのか、困っていると、小さな手が私の手を掴まえる。
『ね。帰ろ。お父さん』
そんな小さな手に、逆らう事なんかできるわけもない。
ああ。そうだな。帰ろう。
虹色の光りの中。
巨大なオークは粉々になり。
消え去っていた。




