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その後 大進撃

「遅すぎなのよっ!」

拠点にしていた、名も無い村の家の中に入ると同時に、聞き覚えのある声がする。


「リル!なんでいるのにゃあ!」

「ミオが危ない所に行くのに、妻が付いていかないなんてありえないでしょ!」

「いつからミオの良い人になったのにゃあ!それはにゃあの事にゃあ!」

「ライバルが一人減ったと思っていたのに、、なかなかの行動力だな」

にゃあとリルの喧嘩を見ながら呟く人までいる。



「ねぇ、お兄ちゃんて、どれだけ囲う気だろ?」

「別にどうでもいいの。ミリは、パパさえいればいいの」

ふと、聞いてはいけない言葉が聞こえて来た気もする。


僕はそれよりも、リルの頭に手を置く。いや、どっちかと言うと、掴むと言った方が良かったかもしれない。

「ねぇ。連れて行って。邪魔にはならないから。心配で、留守番なんて出来ないよ」

今にも溢れそうな目で僕を見上げる。

僕は、そのままリルの頭を撫でていたのだった。


「バルクルスに、殺されるな」

「いざと言う時は、あの人に援護してもらったらいいです」

リュイが微笑みながらそんな二人を見ている。

「にゃあは?にゃあは?」

「私も、ちょっと撫でて欲しいのだが?」

大騒ぎになっている、息子の周りを見ながら俺は新しく生えた右手を見る。


そっとその手に自分の手を添えるリュイ。

「それが必要と言う事です」

「だよな」

俺は違和感のある右手を握りしめる。

ピュイと声を上げて、ミュールが俺の頭の上に乗る。

「往復、お疲れさまです」

リュイが、そんなミュールを撫でている。

わいわいと騒ぐ輪に、いつの間にかシリュと、ミリも入っている。

そんな光景を見ながら、思わず微笑みが出るのだった。




「本当に、なんなの。この数」

ミュールの上から改めて見ると、本当に馬鹿らしくなる。

下一面、全てアンデットで埋まっている。

「あれ、見て!」

リルが指さす方向では、オークがアンデットに倒されている所だった。

地面に倒れたオークは、すぐに立ち上がる。

腹を食いちぎられたまま。


「倒した魔物も、魔人もアンデットにしてるようです」

「ありえないでしょ?!そもそも、こんなに魔物なんて、、、」

そう。

フェーロン共和国には、魔物が居ない。そもそもの数が少ないはずなんだけど。


「あれだな、、、」

飛んで行くと、あちらこちらに、紫色のゲートが見える。

ゲートから出て来た魔物が。

虫たちが。

大量のアンデットに襲われ。

アンデットとなっていく。

「パパ!」

「くるぞ!」

シリュの叫びと、アティの声が響く。


炎の弾が飛んで行き。

矢が同時に数匹の蜂を射抜いていた。


「突破するぞ!」

パパの声に、お母さんが叫ぶ。


黒い線が空中に伸びて。

飛んでいるアンデットを薙ぎ払った。

すぐに、もう一つの黒い光が空中を薙ぎ払う。


「突っ込むぞ!」

「場所は何処なの?」

「知らん!」


パパの最後の言葉に突っ込む時間も無く。

お母さんは一気に速度を上げる。

リュイと、お母さんが開けた穴に突っ込む。


当り一面、真っ暗だった。いや。真っ黒だった。

「振り落とされるなよ!」

「いやぁぁぁぁぁ!吐く、吐く、はくぅぅぅ!」

アティの矢に数匹の魔物が撃ち落とされる。

だが、焼石に水。

周り全て敵なのだから。


そして。。

お母さんは。僕たちは、、キンカの町の中央に突っ込んだのだった。



「生きてる?」

「大丈夫、、と言いたいが、生きた心地はないな」

「本当に、、誰もいないにゃあ」

僕は痛む体をなだめながら起き上がる。

周りを見て、笑いしか出なかった。


街が。

建物が。

無かった。

お母さんのせいじゃない。

代わりにいるのは、どこまでも広がっている黒い布。

小さく蠢く。


「任せて!」

ミリが、何かの薬品を投げる。

投げた場所から光が伸びて行く。

さらに、次々と薬品を投げる。

光りと光の間を通ろうとしたアンデットが、自然に燃えて行く。


「アンデット用の簡易結界なの。コボルトが使う、炎の壁の応用なの」

燃えていくアンデットを見ながら、しかしミリの顔色はすぐれない。


「けど、永遠は無理なの」

早くも、崩れそうになっている場所へ、再び瓶を投げるミリ。


瓶が光りを発した時。

突然目の前が見えなくなってしまった。


暗黒。そう言うにふさわしい黒い風が吹き荒れる。


風が落ち着いた時、目の前いたのは、一人の若い男。

「やっと来てくれた。待っていたよ。ようこそ我が王国へ」

男は、ゆっくりと手を差し伸べる。

「長かった。やっと国を作ったのに、前回は、あっさりと燃やし尽くしてくれたからね。本当にここまで長かったよ」


男の顔がぼろっと崩れる。

「魔天使の力に、耐えきれてないです」

「人は、裏切り、自分にふさわしくない野望を持つからね。アンデットは本当にいい。裏切る事も、怒りを表す事もないからね」

男の足が、崩れ落ちる。


「お前は、、何がしたかったんだ?」

「僕は、、僕はね、、、この力で、全てを従えて、全てのモノが僕にひれ伏す世界を作るのさ!」

「アンデットになっても、、か」

「アンデット?笑わさないで欲しいね。僕は、全てを超えた存在になったんだ!」


光りが。いや、真っ黒い光が、地面から伸びて行き。

男を包み込む。


黒い光に包まれ。崩れていく男。

そこに浮かぶ、3個の肉塊。

それは、一つとなり。


一気に膨れる。

風船のように。

両側から手が伸びて行き。

伸びた手から、藤の花のように、小さな手が生えて来る。


「うぷっ」

あまりにグロテスクな光景に、シリュが思わず口を押える。

「あれは、、なんなのにゃあ」


どす黒い、紫色に近い風船に生えた、手で出来た羽。

その手、一つ一つから、オオカミが、ゾンビが、ムカデが落ちて行く。


「アンデットの王。いや、、」

パパが槍斧を構える。


腐敗の魔天使(ベルゼブブ)


パパの目には、珍しく焦りが見えていた。



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