その後 英雄
僕は町を見下ろしていた。灯台。前の世界なら、そう呼ばれていたのだろう。
そんな高台から、町を見るのが好きだった。
本当に大変だった。
道を作るのも。この港町を立て直すのも。
いや、今も町のほとんどが立て直し中で、瓦礫がなくなった端から新しい建物が建ち始めている。
ゆっくりと微笑む。
今も人々は盛んに行き来をしていて、喧嘩の声や、帰ってきた船から大量の荷物を降ろしている声すら聞こえてくるようだった。
「ここにいらしたのですか」
ふと僕が後ろを振り返ると、緑の髪をした女の子が笑っていた。
タヤ。
全てを失った僕に。一番最初に付いて来てくれると言った子だ。
とは言っても、一個下なのだが。
「ああ」
僕はそれだけ言うと、再び町を見る。
港町だった。
そう。ここは、港町だったのだ。
数年前までは。
この町を襲った最初の災害は、水竜と呼ばれる、大蛇だった。
津波に飲まれ。
かなりの被害を受けた。
やっと復興したと思ったら、無数の魔物に襲われた。
空を覆い尽くすような魔物の群れに、蹂躙され。
この港町は再起不能なのではないかと思われた。
さらにとどめは、あの大災害だ。
大進撃と呼ばれる、無数の魔物が王都を襲ったあの事件。
生き残った魔物のいくつかは、この町を襲ったのだ。
瓦礫だらけとなった、絶望しか無かったこの町が生まれ代わっていく姿は、見ていても嬉しくなる。
「嬉しそうですね。先輩」
タヤが笑いながら、こちらを見ている。
「けど、そろそろ、帰らないと」
タヤが僕の手を取る。
「ライナさんに私が怒られてしまいます」
思わず笑みがこぼれる。
二人目を産んだライナは、もううちの家族の中の一番の権力者だ。
タヤに手を引かれながら、僕は心の中で思ってしまう。
もう、先輩呼びは止めてもらってもいいんだが。
引っ張られながら階段を降りようとしたとき。
突然、下が大騒ぎとなる。
「あれ、あれ!何ですか!」
タヤが必死に空を指さす。
そこにいたのは、飛んでくる巨大な黒い竜。
「ああ、あれは、、」
そこまで言いかけて、ふと思い出す。
ああ。タヤは、大進撃が起きた時、安全な場所で、娘のロラの面倒を見てくれていたから、知らないのか。
「厄介な。いや、英雄様の登場みたいだね」
いろいろ思うところはある。彼の全てを許したわけでは無い。
「少し嬉しそうですよ?先輩」
タヤが不思議そうな顔で僕を見つめていた。
巨大な竜は、空き地に静かに降り立つ。
「もう少し、穏やかに来てもらえると助かるんだけどね」
僕の言葉に、彼は。英雄と呼ばれる男は少し苦笑いを返したのだった。
「お久しぶりです。あのゴブリン討伐以来でしょうか?」
金髪の少女のような女性が笑いながら、簡単な焼き菓子を出してくれる。
「そうですね。あれ以来です。お元気です?」
リュイが、その焼き菓子をすぐに食べながら、返事をする。
「ええ。元気ですよ。私も、ロラも。ローナも。レイアも、アロも」
返事をしながら、二人でしゃべり出す、ライナとリュイ。
そこに、レイアも加わり、3人で、いや、何故か、ミリまで加わって、4人で話をし始めていた。
「女子会だね」
ロアは笑いながらその光景を見ている。
「で、あんな派手な登場をした理由は何なんだい?急いでいたように見えたんだけど」
真剣な顔でこちらを見るロア。
「ああ。実は」
俺は、これまでのいきさつを話すのだった。
「耳ー!その耳、本物なの?」
僕はというと、パパとロアさんが話をしている間、なぜか、ロラに付きまとわれていた。
「本物だよっ!」
「じゃあ、わっ!したらびっくりする?」
「そりゃ、突然叫ばれたらびっくりするけど、、ちょっと!もふもふしないでよっ!」
ロラと話をしていたら、突然、アロと言う、レイアさんとロアさんの子共にまで、耳を触られてしまう。
ミリめ、、こうなる事が分かってて、ママたちの方へと逃げたんだな。
ライナさんたちと楽しそうに話をしているミリを恨めしそうに見ると。
ミリは、ベッと小さく舌を出しているのが見えた。
うん。確信犯だった。
「だめなのにゃあ!しっぽは触りまくりものじゃあいのにゃあ!」
ぺちぺちと2歳くらいの小さい子供が、にゃあの尻尾を叩いて遊んでいる。
にゃあも、どうしていいか分からず、すごく困っている顔をしている。
タヤさんの子共だと言うその子はすっごく可愛い顔で笑うので、にゃあも本気で嫌がっている感じじゃなかった。
「ミオの耳は、私の物なの!勝手に触らないで!」
リルがとんでも無い事をいいながらロラの手を払っていたりするけど。
「ミオの全てをもらいたいのは私も一緒なんだがな」
アディまで、ぼそりと何かを言っている。
ロラって僕と同い年くらいなのにっ。
そんな事を思っていると。
「獣人の子は成長が早いからな。ミリももう子供が産める年ではないか?リルも西方都市の生まれであろう?彼女が感じて来た苦労は私たちでは理解しがたいであろう」
アディが笑いながら僕の心を読んだかのように返事をしてくれる。
そっか。森の中と言ってもいい場所にある西方都市。
半年に一回は、大進攻が起きるという環境で生活してきたリル。
苦労してるのかな。
笑ったり、怒ったりと忙しいリルを見ながら。
ロアさんの子供達にもふもふされながら、そんな事を考えてしまったのだった




