その後 魔の里
「この辺りだと思うんだが」
パパは、小さく呟きながら、地面に降り立つ。
僕もパパの後を追うように降りたお母さんから降り立つ。
シリュや、リルも降りて来るのが見える。
「もう鳴れたから、大丈夫だもお!」
必死に大きい声を上げているけど、足が震えて歩けない状態なのは黙っておいてあげたほうがいいだろうね。
「これが、魔の森か、、」
何故か付いて来たアティが周りを見回していた。
時々、にゃあが、アティにまで毛を逆立てているのは、気のせいだと思う。
「この辺り、、魔の森の西側なの」
自分のカバンを大事そうに持っているミリが周りを見回す。
僕にとっては、ここが何処かすらまったく分からないのに、ミリの土地勘と言うか、地図を見る能力はずば抜けていると思う。
それにしても。。
「暗いな。私の矢が敵まで届けばいいのだが」
アティが暗い顔をするほどに森は暗かった。
「まぁ。森だしな」
パパは気にしないという感じで、森の奥へと歩き始める。
ママは、そんなパパの腕を掴んだまま放さない。
よっぽどこの前のゲート事件が辛かったんだと思う。
「ふらふらと何処かへ行かれると、私が持たないです」
ママの顔は真剣だった。
そんな二人のを皆が慌てて追いかけようとした時。
突然、森が揺れ出す。
いや。
木が、自分で避けて道が出来ていく。
「いや、確かに、この辺りだけど。来るのが速すぎないか?」
パパが頭を押さえている。
誰一人その意味が分からない。
けど、突然。
目の前の地面が盛り上がり。
木が突然現れた。
いや、木なんてものじゃない。
一本の林。そう言いたくなるくらい、僕たち全員が手を伸ばしても半分にもならないくらいの巨大な物。
しかも、その木は、ゆっくりと枝を僕たちの方へ。
正確には、パパに向けて降ろしたのだ。
しばらく、パパと、その木は見つめ合う。
「トレント、、魔樹。。。本当にいたのね、、」
ミリが、興奮した顔で、その木を見ている。
僕もパパのお話で聞いた事はあった。
森や、林と思うほどの巨大な生きた動く木。
それが魔樹。
「本気か!?」
パパが突然大声を出す。
ママもびっくりした顔をしていた。
「そうか。良かった。しかし、介入はしないはずじゃなかったのか?」
「それは、本当か?」
「枯れた、、、のか、、、」
「はあ?放置してたのか!?」
「本気か、、?あれは、、、いや、、もしそのまま残っているなら。。」
そんなパパの独り言が続いた後。
巨大な木は、枝を上に振り上げる。
いや、立ったのだと思う。
そして。
僕の頭の中に一言が響く。
「英雄よ。英雄の友よ。英雄の子よ。頼む」
その一言と同時に、巨大な木が突然消える。
さっきまで横に倒れていた木は全て何もなかったかのように、目の前にしっかりと立っている。
「シュン様?」
不思議そうな顔をしているママの頭を撫でると、パパは真剣な顔で前を向く。
「魔の里に用事が出来た。そこまで移動しよう」
「なんだ?俺んとこに用事か?」
突然声を掛けられ、びっくりして振り返る。
僕の真後ろに、僕よりはるかに大きい、虎が立っていた。
まったく気が付かなかった。
僕が目を丸くしていると、他の皆もびっくりした顔をしていた。
「なんだよ。顔を忘れちまったのか?」
にやりと笑ったように見える。
「いや、久しぶりだな。タイガ。元気そうで何よりだ」
「いや、俺も会えて嬉しいぜ。ちょうど、飲み明かす相手が欲しいと思ってた所でよ」
その大きな手で、パパの胸を押す虎。
「で、そっちの子がお前の子か?」
笑っているのは分かるけど、僕は体が引き締まるのを感じていた。
本能が。獣の嗅覚が、この人には勝てないと教えてくれる。
「なんだ?緊張しているのか?」
「そりゃ、突然真後ろに立たれて、そんないかつい顔を見せられたら、うちの子たちですら大泣きするよ」
「そう言ってくれるなよ。それと、お前は、里に戻れっていっただろうが」
「あら、あんた一人じゃ、話し合いもままならないだろうと思って来たんだけどね。まぁ。相手がシュンさんじゃ、気の使い過ぎだったけど」
「ヒュウも元気そうで」
「あら、私の名前まで憶えてくれてたとは。嬉しいね。久しぶり。シュンさん。それと、大戦じゃ、うちの子共が世話になったね。あの人に似て突っ込むから、大変だったでしょ?ウルの世話は」
思わず懐かしい名前を聞いて、びっくりしてしまう。
大戦の中。大量に湧いたバジリスクやら、なんやらの大群の中を一緒に駆け抜けた獣人の少年。
僕の戦友と言ってもいい。
たしか、、ウルが言っていた、のは、、
「おう。俺が、ウルの親のタイガだ。あの大戦じゃ、町の真ん中近くにいたんだがな」
「空中戦は出来ないから、私たちは地面でお留守番だったけどね」
笑う二人。
「あの時は、ミリも同じような物だったの」
ミリの呟きが聞こえる。
「まあ、と言うわけだからよ。俺の里に用事があるんだろ?連いてきな」
タイガは笑いながら歩き出す。
僕たちはその後を付いて行く事にする。
「だからよ。あの大戦で出会ったあの白い虫?がこの辺りでも出ててよ。この辺りにはアイツはいなかったはずなんだがな。まぁ。一刀両断にしてやったぜ」
豪快に笑う虎の顔を見ているとなぜだかホッとしてしまう。
「を?」
タイガさんが顔を向けた先に、木の上に建てられた家の数々が見えて来る。
「ツリーハウス!」
ミリが嬉しそうに顔を輝かしている。
「何だ?嬢ちゃんは、ツリーハウスが珍しいのか?シュンは、無反応だったのによ。まあ、地面に家を建てたら、魔物にしょっちゅう襲われるから、うざったくて、上に建ててるだけなんだがよ」
タイガは自分の鼻を掻くしぐさをしながら、苦笑いをしている。
僕はというと。
にゃあの手を握り返しながら、幻想的な木と家が一体化しているような不思議な風景に見とれていたのだった。
反対の手をリルが握っていたりしていたけど。




