苦行の果てに
つらい。
空間収納と言うチート魔法を取ろうと思ったんだけど、まさかの5,000P。
課金できるものなら、さっさとして終わりにしたくなる。
そんな事を思いながら、出合い頭のイノシシの頭を一撃で叩き潰す。
俺は、レベルシステムから抜け出してるから、めちゃくちゃ戦ったところで、レベルが上がるわけでもない。
つまり、EPを使わないと決めた以上、敵を倒した所で強くなるわけじゃない。
けど。
やればいいんだろっ!
半分キレながら俺は魔物狩りにいそしむのだった。
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「帰ったよ~」
俺は、ふらふらになりながら、宿に帰って来た。
やったよ。ほぼ仮眠しか取らない状態で、15日間戦い続け、9000匹を倒した。
周りの魔物の出現率が高かったのも大きいと思う。
この世界では、平地では、魔物は基本湧かない。
言ってしまえば、ビル街がある現代世界で森に入って、鹿や、猪を見つけるくらいの感覚。
レアモンスターを見つけるくらいの感覚で、魔物を探すのだから、本当に地獄だった。
平地にわかない事に、疑問を持った事は今までなかったけど、今回にいたっては、何で魔物が居ないのか、怒り続けるくらいだった。
データベースと、マップがあって、本当に助かったと思いながら、とにかく見つけた敵は全部狩りまくったのだが。
何はともあれ、空間収納はもちろん。魔法球のスキルも取る事が出来た。
けど、せっかく取った魔法球のスキルがあまりにも使えなすぎて、泣きたくなってしまった。
しかし、そんな事を延々と考える余裕すら与えてもらえない。
「お帰りなさいっ!」
目が全く笑っていないライナに、右腕を掴まれる。
まったく離すそぶりもなく、しっかりと抱きかかえられている右腕と目が座っているライナに恐怖を感じていると。
左腕まで、レイアに掴まれた。だが、レイアはすぐに顔をしかめる。
「シュン臭い。すぐに体を拭く事っ!拒否したら、私たちが無理やりシュンの体を拭くよ」
「そうですねっ!シュンくんの体を拭いてあげないとですねっ。すみずみまで」
いや、ライナ、いろいろ大変な事になりそうだから、すみずみまではやめて欲しい。
見つめる先も危ないからやめて欲しい。というか、自分で出来るし。
ほっとくと、二人に本当にすみずみまで、洗われそうなので、あわててオケとお湯を部屋に持って来てもらうようにお願いする事になってしまった。
あ、体を洗っている間は、もちろん二人には外に出てもらっていたよ。
恥ずかしいから。
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体を拭き、少し落ち着いて来たので、俺はゆっくりと空間収納魔法を使う。
自分の手を空中にかざすと、黒い渦が空中に浮かぶ。
手を黒い渦に入れると、牛の魔物の肉が一ブロックほど、手の上に乗って出てきた。
そして、それを見ながら、盛大にため息をはく。
外で、しばらくぶりの夜営をしていたのだが、俺は火の魔法が使えない事をすっかり忘れていた。幸い、生肉を食べる事に抵抗はないから、食事はできたけど。
「なんでか思い出せないけど、火は、じっと見てるとざわざわするんだよな」
そんな事を思う。
正確には、冷や汗が出て火の前にいる事が出来ないのだ。
だから、レイアとの訓練中は、ほとんど全部の攻撃を受けてしまう。
体を拭き終わって裸のまま、俺は自分の手をじっと見る。
理由は思い出せない。
何かあるはずなんだけど、思い出せなかった。
そんな状態で、ぼーっと自分の手を見つめていると、ガチャと
ライナが入って来た。顔が会うライナと俺。
そして。宿の中に、激しい悲鳴が響き渡った。
「いや、これからの事を考えたら、それはそうなんですけど、まだ早いというか、気持ちの整理がまだと言いますか」
ぶつぶつ言いながら、フリーズしてしまったライナを置いて、俺は普通に服を着ていた。
レイアは、ライナを見ながら、苦笑いをしたままだ。
レイアは戦闘にならなきゃ、意外と常識的というか、落ち着いていると思う。
ライナの天然具合が飛び抜けているだけのような気もするが。
ライナが、別の世界に行ってしまい、まだ戻ってこないので。
仕方が無いから、部屋に食事を運んでもらい、レイアと二人で、遅めの朝食を食べる事にした。
薄めの塩味で味付けされた肉のスープが胃に優しい。
「で、試したかった事はできたの?」
唐突に聞いて来るレイアに、目を見開くと、
「あれだけ、試合の後から外に行きたがってじゃ無い。手紙もあったしね」
と、普通に返された。
「はは。二人には、隠し事はできそうもないね」
俺は、苦笑いを浮かべた後。
「手に入れたよ。空間収納魔法と魔法球」
「は?先輩の必勝スキルの二つだよね!それ!他の人には、取得不可能な技だよね!?」
「できそうだったから。そうなんだ。あの二人以外はこの2つの魔法使えないのか」
俺が納得しながら、普通にご飯を食べている姿に、深くため息をつく、レイア。
「収納魔法なんて、何でそうなるのかすらわからないし、魔法球て、どう使うのかも、ロア先輩が来るまで、全く分からなかったらしいし。何で訓練したからって使えるようになるのか、シュンも良くわからない」
ため息しか吐き出さず、レイアは目の前のスープをつついていた。
「はっ! シュンくん!子供は2人は作ろうねっ!」
そのタイミングで、突然再起動したライナの一言は、俺たち二人をスープの海に沈めたのだった。
いつ結婚したことになったんだよっ!
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「校長っ!冒険者のギルドマスターが怒鳴り込んで来てますっ!」
ノックもせず、突然担任が校長室に入って来た。
「何の用事だね?」
ゆっくりと、紅茶を楽しもうとしていた校長は、コップを手に持ってまま、担任を睨み付ける。
「うちの学生と思われる少年が、町の周りの魔物を全て狩り尽くしたそうですっ!」
「はぁ?」
頭のはげた校長は、その言葉に、飲んでいたコップを落として、目をまん丸にして、呆気にとられたのだった。




