始まりは赤色だった。
赤い。ただ紅い。目の前には、赤しかない。紅、朱、赤、濃紺
10才の誕生日は昨日だった。お父さんが笑いながら持って来てくれた美味しいお肉を、お腹いっぱい食べた。
夜遅くまで、お母さんの布団でいっぱいお話しをした。
お父さんにいつまで起きてるのかと、ちょっと怒られた。
今日のお昼に、隣の11才になったエリに大人になったら、結婚してあげるてプロポーズされた。
その後、二人でおいかけっこして遊んだ。
なぜ、なぜ、なぜ。
何で、村はこんなに赤いの? 僕の服はなんで紅いの?
豚が、何で斧をもって歩いているの?
あそこにエリの左手と、ぬいぐるみが置いてあるのは何で?
お父さんの半分はどこ?
なぜ、なぜ、なぜ?
ただ、何が起きているのか分からず。
家の前で、立ち尽くす僕。
オークの群れが来た!と叫んで、お父さんが棒を持って出て行ったのは覚えている。
出ていっちゃだめとお母さんに言われたのに、家から飛び出たのまでは覚えている。
何かが聞こえる。
人の叫び声だ。
豚が目の前に来た。斧が振り上がる。
紅い。目の前が全部赤い。
誰かが叫んだ。何かを叫んでいた。突き飛ばされる僕。
僕の前で、お母さんが2つにちぎれた。
小さく、おかあさんの 口が
「い き て 」
その姿を見た時、僕の時間は戻ってきた。
叫んだ。僕は。力一杯、叫んだ。
何が起きているのか、まったく理解できないまま、叫んだ。
[強制介入開始。力を前倒しで流入します]
何かが聞こえた。
僕の前に振り下ろされた斧は、僕の真上に突然現れた光の壁に受け止められる。
僕は、それにも気が付かず。ただ叫び続ける。
僕の上から突然光の柱が落ちて来て、周りに広がっていく。
広がった光は周りにいた豚を吹き飛ばし、ちぎり飛ばしながら、全てをかき消して行く。
赤い色を塗り替え、白い光がすべてを覆いつくす。
白しか見えない世界の中で、僕は泣いた。その場にへたりこんで、泣いた。
白い光が収まり。
空から雨が降って来て、土砂降りとなっていく。
僕の涙も町の煙も、全て流していく。けど僕の涙は止まらなかった。
僕は、力つきて、寝てしまうまで泣き続けたのだった。
[力の流入終了。個体名シュンリンデンバークに対し、レベルシステムからの変更完了。EPシステム定着。サポートシステム、【データベース】定着。個人仕様用音声補助メニュー、定着。補助スキル 補助システム、定着。世界との乖離を修正。シュンリンデンバークの素体変更完了。記憶の継承は失敗。設定年齢まで保留]
意識が無くなる前に、そんな言葉が聞こえたような気がしたけど、何がなんだかわからなかった。
僕が意識を手放す前に思っていた事は、、、ただ、ただ、寂しい。
どれくらいの時間が経ったのか。
燃え尽きた村に、ダチョウのような生物に乗った一団が村に入って来た。
銀色の鎧にそろえられたその一団は、騎士団のようであった。
「遅かったか」
到着と同時、ヒゲを生やした男性が小さく呟く。
「すぐに、生存者の確認を」
副長らしい、女性が指示を出す。
その声に、隊員全員が一斉に村に散らばって行く。
「ひどいありさまだな」
ヒゲの男は、周りを見回す。あちこちに、黒焦げの柱が突き立っている。
村の家は全て燃えているらしい。残っている家を見つける事は難しい。
石造りの倉庫ですら、壁は崩壊し、屋根が崩れ落ちている。
道や、地面にあちこちに落ちている、赤く染まった水だまりと人だったモノの欠片たち。
綺麗な女性の足が見え、一瞬生き残りかと思ったが、その足は付け根から上が無くなっていた。それを確認して、隊長は目をそらす。
「生き残りの子供を一人発見しました!」
隊員の一人が叫びながら報告する声が聞こえる。
「その子供一人だけか?生き残りは他にはいないか」
隊長はぼそりと呟く。他の隊員は首を振っていた。
「とても、生き残っているとは思えない状況です。子供一人、生き残っていることこそ奇跡でしょう」
「両親は?」
副隊長である女性騎士が隊員に問うも、
「近くに、母親と思われる腕は落ちていました」
「もう、いい」
その一言で全てを理解した副隊長は、片手で、部下の報告を止める。
「魔物は、本当にいないのか?これだけ損害を一晩だ。少なくても巨大な魔物の10匹くらいはいた可能性があるが」
「はい、全く姿が見えません」
「森に帰ったと思いたいが」
騎士団長は周りを見回すと、決断したのか。すぐに指示を出す。
「全員、撤収するぞ!夕方までは村人の遺体を集めて、聖炎による、葬送を行う。その後、急ぎ近くの町へと帰還する!行動開始っ」
「はっ!」
「隊長、いいのですか?王都は、調査終了次第、すぐに帰ってこいと言われていましたが」
「ああ。私にも、娘がいてな、近々騎士団に入るのだが、その部隊の防衛範囲がこの近くなのだよ。レイスやら、スケルトンが出たら、かわいそうだからな。親バカと言ってもらってかまわん」
笑い顔もなく、淡々と呟く。
「隊長が、追悼の儀礼を行う時の言い訳はいつも苦しいですね」
にこやかな笑顔を一瞬隊長に向ける、副隊長。
騎士団の面々は、黙々と町の真ん中に遺体や村人のカケラを集めて行く。
その後、数人により、聖炎を使用した死者の送りが行われた。
「隊長、あの子供は?」
「いつも通りだ。孤児は修道院に入れるしかあるまい。」
送り火を見続け、返事をする隊長。
そして、その送り火を見届けた後、騎士団は騎乗し帰って行ったのだった。
一人の男の子を連れて。