その後。 無敵の家族。
ぞわっつと背中を這うような嫌な気配。
その気配の先を探して、何もない空を薙ぎ払う。
爪に何かをひっかけた感覚と一緒に、ゴブリンの腕が突然空中に現れる。
「まったく。ゴブリンアサシンとタイマン張れるとか、どんな子供なんだよ」
ガルスのおじさんが小さく呟くのが聞こえるけど、そんな事もかまってはいられない。
右手を振るい。左手で、見えない武器を弾き飛ばす。
「見えない敵は苦手にゃあ」
にゃあは僕の後ろで小さくなっているだけだけど。
「右から血の匂いがするにゃあ!」
咄嗟に右側を薙ぎ払う。
ゴブリンアサシンの首が綺麗に飛んで行くのが見えた。
「ゴギャ、ゴギャッ!」
突撃してきていたゴブリンが突然立ち止まり、後ろに下がり始める。
そのゴブリンを押しのけるように、オークが出て来るのが見える。
「おいおい」
その威圧感に、僕は思わず数歩下がってしまっていた。
「ゴブリンだけじゃないってか」
パパの口調がおかしい。少し笑っているようにも見える。
「ダメですから!一緒にやりますです!」
リュイママがパパを叱り飛ばしていた。
その声に、パパは自分の頭を掻いている。
「いつも言ってるです」
ママの声は真剣だ。
そう。
僕たちは守られるんじゃない。
守るんだ。
シリュまで、大きく頷きながら両手をオークに伸ばしている。
僕たち、家族のただ一つの約束事。
『守られるな。守れ』
僕は、振るえる足を叱り飛ばして走り出す。
「にゃあっ!ミオっ!?」
「行くぞ」
パパの槍斧が、僕より早くオークの頭をとらえる。
しかし、その一撃は、オークの巨大な剣に受け止められる。
ガリッというおかしな音が聞こえる。
「少し待て!」
パパの叫びに一瞬足を止めた瞬間。
パパが爆発した。
「何がっ!」
アミュの叫び声が響くと同時に、オークの怒りの声が聞こえる。
爆発した瞬間、ママがオークの脇腹を切り裂いていたらしい。
「シュン様から聞いてるです。爆発?が出来るオーク。それが、」
オーク上位種。
オークナイト。
パパの話を思い出しながら、僕はオークナイトの足を切り裂く。
さらに叫び声を上げ、剣を振り下ろすけど。
僕はもうそこにはいない。
誰もいない場所が、弾け飛ぶ。
「倒されたと思ってくれるなよ」
パパの声が、オークナイトの首を斬り落とす。
しかし、首が落ちるより先に斬り抜けた傷がみるみる回復していく。
「無敵かよ」
茫然としているおじさんの声を聞いていたけど。
パパは笑っている。
ママも笑っている。
「「終わりだ」です」
オークナイトの傷から、黒い炎があふれ出す。
「とどめっ!」
シリュが魔法を放とうとする。
今にも放たれそうになっている黒砲。
しかし、その手を、良く知った手が止める。
「シリュ、それは悪手なの。今、パパとママの黒炎が効いてるから、あいつは回復できないの」
妹を止めたのは、僕の双子の妹。ミリ。
「今吹き飛ばしたら、せっかくの黒炎まで吹き飛ばす事になるの」
「ミリ?」
「どうやって?」
僕たちの疑問は、空中から放たれた黒い炎が教えてくれた。
「おかあさん?」
僕の呟きに、空中で大きく声を上げるミュール。
僕たちが茫然としている中。
黒い竜から放たれた黒炎に、オークナイトは一気に焼き尽くされたのだった。
「いろいろ調べてて、ちょっとめんどくさい事になりそうなのが分かったの。だから、急いで来たの」
どうしてミリが?
僕が疑問を言う前に、ミリは両手を腰に当てて、胸を張って答える。
そんな僕たちの前で、オークナイトがついに倒れ込む。
その姿にを見て、オーク達まで足を止める。
「勝ったか」
アティが呟きながら、弓を下ろした時。
当り一面に緑色の霧が立ち込め始めた。
見れば、ゴブリンも、超回復力を持っているオークまで苦しんでいる。
「致死毒だ!しかも、広範囲!絶対に吸うな!」
パパが叫ぶ。
しかし。
「大丈夫なの」
ミリは自分が持っていた陶器を投げる。
割れた陶器から、青い煙が立ち上り。
緑色の霧を全て消してしまった。
「広範囲の解毒薬なの。バジリスクにも効くように作ってあるの。コレがコボルトの薬に効かないわけないの」
ミリはしたり顔で僕に教えてくれる。
そして、遠くにいたはずのコボルトアルケミストが、僕たちの目の前に引きずり出される。
ミリが首を掴んで持って来たのだ。
「このミリ様に、薬で勝とうなんて、数万早いの」
ミリはそれだけ言うと、コボルトアルケミストに瓶を投げつける。
コボルトアルケミストは、悲鳴を上げながら燃え上がるのだった。
けど知っている。
ミリは。
妹は先の戦いで、役に立てなかった事を本当に後悔していた。
妹の特技は、【神獣化・足】
凄まじく早く走れるけど、攻撃力があるわけじゃない。
僕みたいになんでも切り裂ける能力【神獣化・爪】を持ってるわけじゃない。
だからこそ。
妹は、書物をあさり始めた。
薬という薬を調べ始めた。
ドンキさんの書物まで全部読んで、パパの解毒薬を作れるようになって。
本当に、とんでもない量の本を読み漁って、手に入れた能力。
【製薬】それが、妹のミリの新しい能力だった。
コボルトアルケミストが死んだ事で、ついにコボルトまで足を止める。
最後には、全員の亜人が逃げ出し始める。
「出来る限り、倒した方がいいの!」
僕たちは一斉に飛び出す。
「勝ってしまった。この数と、上位種の勢ぞろいだと言うのに」
茫然と次々と狩られていく亜人たちを見ながら呟くアティ。
「あの家族は異常を超えて、もう、別の何かだ。絶対に敵対するんじゃないぞ」
自分の父親の、呆れたような声に、彼女はただ頷く。
あの家族にと戦ったら。国一つくらい簡単に無くなりそうだと思いながら。




