その後 集落
「絶対ダメ!こんなの無理だからぁ!」
リルはジャイアントバッファローの背中で暴れ続ける。
「高い所は、本当にダメだってばぁ!あ、あ、」
顔が真っ青になり。
思いっきり虹色の何かを吐き出す。
「リル!それ以上寄ったら落ちるにゃあ!」
「危なすぎるから、縛っちゃおう」
シリュの言葉は妹ながら、容赦がない。
結局、リルは両手を縛られて、落ちないように誰かがその紐を持っておくことになったのだった。
「着いた?着いたの?」
紐で縛られてぐったりしているリルが、小さく呟く。
「うん。ついたみたいだよ」
僕の言葉に、リルはついに力尽きたのか、動かなくなってしまった。
「後で、回復してあげよう」
パパが少し悪い事をしたと、優しくリルの背中を撫でていた。
ジャイアントバッファローの背中で、散々暴れて、散々吐いた彼女は、もう動けないと思う。
そして、僕たちの目の前には、巨大な紫色の光りを放つ巨大な壁と、その周りを取り囲むように作られた、3種類の集落が見えていた。
それぞれの集落で、ゴブリン、コボルト、オークが、それぞれのペースで動き回っている。
一番走り回っているのは、コボルトか。
「ありえない」
シリュが、その光景を見ているにも関わらず、首を振る。
シリュの言葉に、全員が頷いていた。
「俺も、噂に聞いただけだったからな。こんな場所、見た瞬間死んでしまう」
ガルスさんも、小さく呟いていた。
「これは、、流石に、、無理か、、」アティさんも、小さく呟いている。
「人がさらわれたとか、そんな話は無かったのか?」
その異常さに、思わずガルスさんに問い詰めているパパ。
「知らねぇよ。ただ、最近、冒険者がよく行方不明にはなっているみたいだったがな」
ガルスさんが冷や汗を流しながら答える。
「これに乗ってなかったら、皆もう死んでるにゃあ」
ぶるっと震える小さな体を抱きしめて上げる。
たしかに、このジャイアントバッファローに乗ってなかったら、一瞬で僕たちは囲まれて彼らの餌になったいたと思う。
魔物の臭いが、その巨大な姿が、僕たちを完全に隠してくれていたのだ。
「討伐は、、無理か」
パパは小さく呟くと。
「帰るぞ」
それだけ言った時。
「にゃっ!」
にゃあの悲鳴のような声が聞こえた。
「なんででっ!」
ママの声がかぶる。
暴れないように、手を縛られていたリルが。
動けないはずのリルが。
ジャイアントバッファローの背中から落ちて行く。
「紐っ!」
慌てて紐を掴むシリュ。
しかし、無常にも、リルを傷つけないようにと少し緩めに縛っていた紐はリルを支えてくれない。
落下するリル。僕は彼女を空中で捕まえ、地面に着地する。
ほっとした皆の気配を感じた時。
思いっきり聞きたくない咆哮が聞こえて来る。
僕の前で、無数の矢が弾き飛ばされる。
「にげ、、、られないか。ガルスと、アティを逃がす事に専念しろ!」
パパが叫びながら、降りて来る。
「今更、逃げられるわけねえだろ!」
ガルスさんの声は悲鳴にも近い。
こっちに完全に気が付いてしまった亜人達が一斉に向かって来る。
無数のゴブリンの矢。
ドスドスと走ってくるオーク。
骨の魔物に乗っているコボルト。
「だめっ!」
シリュが、ビットを発動させる。
6個のビットは妹の前で回転を始める。
「やれることはやってみるです」
ママも両手を突き出している。
「黒砲!」
シリュビットから、6色の光りが伸び、合わさり、巨大な黒い光となって、迫って来るコボルトを薙ぎ払う。
「竜砲!」
ママの声とともに、光が伸び、飛んでくる矢を全て弾き飛ばし、ゴブリンの集落と思われる場所に着弾する。
「女性陣は強いのだな」
アティが呆れたような声を上げながら、矢をつがえる。
一度に3本放たれた矢は、シリュの黒砲から逃れたコボルトの頭を貫いていた。
「リュイ!」
パパが突然ママを呼ぶ。
その声に何も返事をせず、すぐに斧を取り出すママ。
ママの前に、僕が良く知っている物が浮かんでいた。
ためらいもなく、そのビットを叩くママ。
ビットは黒い光をまとって飛んで行き。
オークの頭を吹き飛ばしていた。
「ビット?」
僕は思わず叫ぶ。
パパのビットは、あの時、魔天使と一緒に光りに消えたと言っていたはずなのに。
いや、よく見たら、ビットはまた生えて来たパパの右手から出ている。
「数には限りがある!」
「大丈夫です!」
何も言ってないのに。
何も聞いて無いのに。
確実にオークだけを打ち抜いて行くママ。
「やっぱり、シュンパパとリュイママさんは、かっこいいにゃあ」
僕もそう思う。
二人は、本当に、二人で一つなんだと。
「来る!」
パパはそれだけ言うと、一瞬で斧槍を振り下ろしていた。
何も無い空間から、血が突然吹き上がる。
遅れて来る、ぞわっと背中を這う嫌な感覚。
「ゴブリンアサシンもいるぞ!ミオ!頼む!」
パパの声に、僕は気を引き締め直す。
何もない空間に嫌な感覚が浮かんでいる。
そこに向けて、何も考えずに爪を振るい。
僕の爪は、激しい血しぶきを上げながら、まっさらな空間を切り裂いた。
血をまき散らすゴブリンの姿を浮かびあがらせながら。




