その後。 キンカ領主
「おかえりなさいませ」
キンカにある僕たちの館に降りたお母さんは、そのまままた空を飛んで行ってしまった。
「ミリが、心配なんだと。また、調べものに没頭して、ご飯をろくに食べて無いらしい」
パパは苦笑いを浮かべていた。
「ミリは、いつもそうなのです。早く調べものを終わらして、帰って叱ってあげないとダメだのです」
ママも本気で怒っている。
その後ろで、リルが、真っ青な顔で「絶対yダ。絶対のらいの。あんなの乗り物じゃない」
なんて呟いている。
洩らさなかっただけ、成長してるのかも。
そんな僕たちを後目に、僕たちの家で務めているメイドさんたちが、全員僕たちの前で頭を下げていた。
そして、その先で。
「おかえりなさいませ。シュンリンデンバーグ様」
そう言って頭を一番下げているのは。
「ファイ、領主の姿も板について来たな」
パパが笑っていると。
「早くこっちに戻って欲しいんですがね。俺に、こんな重大な仕事が務まるわけないのは分かってるでしょ?俺はあくまで、連絡係と、いいように使われる下っ端なんっすよ」
フェイは、ぶつぶつと呟いている。
この町の領主だったドンキ。
彼は、道を誤ってしまい、魔天使になって世界を滅ぼそうとしてしまった。
それを、パパ達がなんとか防いだのだ。
ただ、あの騒動の後、ドンキさんが住んでいた、領主の館は跡形もなく吹き飛ばされてしまった。
その原因は、僕の妹だったりする。
「お父さんの研究は、人を不幸にするから」
悲しそうな目で、吹き飛んだ館を見ていたシリュは、僕の知っている妹じゃなかった。
そんなこんなで、今領主の館となっているのは、僕たちのために建てられた館だったりするのだ。
フェイさんもあの場所にいたのだけど、あの時、犬鳥が暴走して魔天使に突っ込んでしまい、振り落とされたらしいのだ。
ただ、堕とされた場所が、柔らかい場所だったため、助かったと言っていた。
けど、どこに落ちたのかは、今も教えてくれない。
「思い出したくも無いからね」
それだけしか、言ってくれなかったのだ。
領主の服を着ているフェイさんは、本当にドンキさんのように見える。
「で、何をしに戻って来たんですか?まさか、領主を変わってくれるとか、嬉しい報告ですか?」
真剣な顔で聞いて来るが。
「いや、この辺りに、亜人の町が出来たと聞いて、調べに来たんだ。ちょっと頼まれごとをしててな」
パパの言葉に、本気でがっかりした顔をするフェイ。
「そうでしょうよ。シュンさんが、この町を統治するのが一番いいはずなのに、俺みたいな奴に放り投げて引退しちまうんですから。ええ。ええ。分かってましたよ」
ひとしきり愚痴を言った後。
「聞いた事はあります。ただ、この平原の中、調べに行くのがどんなに危険か。それは分かってもらいたいと思います」
フェイさんの言葉が変わっている。
「ああ。それは、分かっている。平原はどこまでも続く。下手に冒険者を派遣すれば、絶対に戻って来れないほどに」
キンカがあるフェイロン共和国の平原は、悪魔の平原とも呼ばれているのを聞いた事がある。
どこまで行っても続く平原は、どこまで歩いたか分からなくなり、木一本すらない視界は、方向を見失ってしまう。
しかも厄介な事に、夜はオオカミの魔物が群れで襲ってくるようになってしまい、夜に歩くのは自殺行為だと。
これも、この前冒険者ギルドの中で聞いた話だった。
フェイさんは一つため息を吐くと。
「北に、とんでもなく大きなゲートが生まれた場所。覚えていますか?」
パパはその言葉に小さく頷く。
「その場所に、ゲートを囲むように村が出来ていると聞いた事があります。3つの亜人の村が」
暗い顔のまま、フェイさんは続ける。
「北の方にいた遊牧民が、全て消えました。帝国で聞いた亜人の話と一致します。おそらくは、そうゆうことかと」
「数を増やすための道具にされたか」
パパの小さい呟きが聞こえてしまう。
「本当は、領主を引き継いで欲しいんですが。絶対にしてくれなさそうなんで」
フェイさんが悪い顔をしている。
「その村と、ゲート、ぶっ潰してもらっていいですかね?」
とんでもない依頼に、シリュが声を上げようとすると。
「俺じゃなくて、シリュさんでも、ミオさんでもいいんですよ。領主になってくれるなら」
うっすらと笑うフェイさんが怖い。
危機察知の能力とは違う意味で、僕の背中がぞわっとしてしまった。
シリュも、咄嗟にパパの後ろに隠れていたりする。
「それも、ダメなら、お願いしますね」
フェイさんが、怖い笑顔で迫ってくる。
僕まで思わずパパの後ろに隠れてしまい。
思わず二人して頷いていたのだった。
「なんであんな依頼受けるのよ!」
リルが、めちゃくちゃ怒っているけど。
あの笑顔を向けられている時、泣きそうな顔をしてママの後ろに隠れていたのは知ってるんだけど。
「あれは、仕方ないにゃあ。流石に断れないにゃあ」
にゃあも、しきりに自分の顔を両手で撫でていたりする。
相当怖かったのか、まだにゃあの尻尾が逆立っていた。
その顔を見て、また僕まで震えが来てしまう。
そんな僕たちを笑いながら見ているパパ。
「でも、どうしますです?あそこまで相当遠いです」
ママが、困った顔をしている。
「ちょっと当てがあるから、聞きに行ってみようかと思う」
そう言いながら、パパはさっさと歩き始めてしまう。
そんなパパに置いていかれないように、僕たちも慌てて後を付いて行くのだった。




