その後。 森の奥で
「こんなのまで出て来るとはな」
パパはあきれたような声で、自分が切り飛ばした真っ赤な大虎の首を見ていた。
「それをあっさり倒すシュン様もどうかと思うのです」
ママが、呆れたような声で返事をしているけど。
「絶対、守る必要ない。あれは、化け物よ」
リルに至っては、腰を抜かしたままでパパの姿をずっと見てたりしてる。
せっかく乾いたお股がまた濡れているように見えるのは、気のせいじゃないと思う。
「けど、これではっきりした」
パパの顔が少し怖いと思う。
ママの顔もなんだか少し違う。
パパは、僕たちの方を見ると。
「一回、サイファに戻ろう。お前たちはそこで、、、」
「待ってろっていうなら、嫌だからね!パパの傍にずっといるって決めてるんだから!」
全部を言い切る前に、シリュが反論する。
「絶対に、ついて行くよ!こんな楽しそうな事、絶対にこれから出会えないから!」
リルまで剣を嬉しそうに掲げて叫んでいる。
けどね、リル。
さっきまで、腰を抜かしてて、さらには、漏らしてたりしてたのを知ってるから、説得力も、何にもないと思うよ。
僕はそんな事を思ってしまう。
思うだけで、口には出さない。
絶対に、女の子たちに寄ってたかって文句を言われるのが分かっているから。
パパはそんな女の子たちを見て、ママの顔を見て。
「無茶だけはしないこと」
とシリュと、リルに言っていた。
「一番無茶をするのは、シュン様なのです」
嬉しそうに返事をしている二人よりも、ママの小さく呟いたその言葉が一番僕の中でしっくり来ていたけど。
それからは、もう、びっくり大会と言えばいいのかも知れないくらい、驚きの連続だった。
「何、なに?あの巨大な蛇は!?」
リルの声に目を向けると、首は一つしかないけど、バジリスクを思い出すくらい巨大な蛇が数本の木をまたいで絡まっていたり。
ジャイアントバッファロー顔負けの大きさのオオカミが、お昼寝をしていたり。
ここは、本当に王都の西の森なのか疑問に思うような魔物とばっかり遭遇してしまう。
どれもパパやママが一振りで倒したり、シリュの黒い光線魔法で薙ぎ払ったりして進んで行く。
「力を見せつける場面を作って欲しいなぁ」
リルがそんな事を言っているけど、僕だって一回も戦闘らしい戦闘はしていないし。
にゃあも、隣であくびをしてるくらい暇だった。
ただ、疑問に思う事がただ一つ。
ここまで、一回も亜人。そう呼ばれる者たちに会っていない事だった。
ゴブリン。オーク、コボルト。
この3種は亜人と呼ばれている。
町を作り、集団で襲ってくるからつけられた呼び名なんだけど。
奥に行くごとに、パパも何かを警戒し始めている。
なんでだろうと思っていると。
パパが突然立ち止まり、武器を構える。
ママもその横で武器を構える。
「やはり、、か」
パパの声が震えていた。
そこで僕が見たのは。
斧を持ったオーク数匹に守られるようにして、紫色に光るゲートに祈りをささげている犬の顔をして小人たちだった。
「え、え、絵本で見たことある。コボルトと、オークじゃない」
リルが、嬉しそうに声を上げる。
「ばかっ」
僕がリルの口を急いで塞いだけど、遅かった。
「にゃあ!一回離脱しろ!」
パパはそれだけ言うと、槍を持って敵の集団に走り出す。
「だから!無茶はしないで下さい!」
ママの声が森に響く。
僕はピリピリとした嫌な感覚を感じて、リルを思いっきり抱き寄せると、地面を蹴っていた。
「だからっ!高いのは、だめぁぁ」
泣き声を胸の中で聞きながら、下を見ると僕がさっきまで立っていた場所に矢が刺さっている。
「シリュ!右の木の上!」
空中から僕が声をかけるのと、シリュが無数の氷の矢を飛ばして、僕が指さした木を完全に凍らせるのはほぼ同時だった。
「危なかったにゃあ」
遅れて飛び上がって来たにゃあに乗る。
「リルは、乗せるのはちょっと嫌だけど、我慢するにゃあ」
「にゃあ!」
「いやぁ!動かないで!飛ばないで!降ろしてぇ!おねがぃぃい」
何かを呟いていたにゃあに、咄嗟に指示を出す。
ピリピリした感覚は続いてる。
空中で身をよじり。
飛んで来た矢を避けるにゃあ。
「何かいるようなにおいがしないにゃあ」
にゃあが困惑しているのが分かるけど。
何か、すごく、すごく嫌な予感がする。
「にゃあ!シリュの前に降りて!」
「いやぁぁぁ!降りないでぇぇ!ねぇぇぇ!」
「リル煩いにゃあ!」
僕の言葉にまったく疑問も感じずに一気に落下するにゃあ。
妹のシリュの前に降りた時、目の前に光る物があった。
とっさに自分の爪で斬り落とす。
目の前で毒どくしい緑色をした矢が二つに折れて落ちて行く。
「にゃあ?」
びっくりするにゃあの上で。
僕は両手を振り回す。
次々と飛んでくる矢を全て斬り落とす。
とたんに、今まで感じなかったほどの殺気がこちらにせまって来るのが分かった。
僕は、にゃあの背中を蹴るようにして、飛び降り。
空中で回転しながら、その巨大な殺気を叩き落とすように両手の爪をぶつける。
空中で、小さな竜巻のような風が巻き起こり。
鉄で出来た矢が、空中でバラバラになるのが見えた。
「すごい、、、」
「関心するのはいいけど、リルも降りて欲しいのにゃあ。リルのお股が冷たいのにゃあ」
綺麗な動きに、頬を赤くして見とれているリルと、呆れた声を上げるにゃあの声が聞こえて来て、僕は思わず、噴き出していた。