その後 エルフの里。
「すごい!すごい!すごい!」
隣ですごいを連続して言うだけの機械となっているリル。
でも、僕もそれに返事も出来ずに目の前の光景に圧倒されていた。
数日森を歩き続けて。
いきなり広い場所に出たと思っていたら、目の前にあったのは、空まで続く七色の光のカーテン。
何で今まで見えなかったのかすら不思議なくらい、空からかかっている光のカーテンは、穏やかな雰囲気で、ゆっくりとゆらめいている。
「すごい、埋もれるのに、通れないの!」
リルが、何も考えずにそのカーテンに突進して、カーテンの中に埋もれてしまい、弾き飛ばされている。
その光景を見て、笑っているパパ。
パパは何も思っていないみたいだけど。このカーテン、入り口が無くない?
僕が、パパを見上げる。
「大丈夫」
パパはそれだけ言うと、左手をカーテンに向かって伸ばす。
それだけで。
カーテンが、自然に二つに分かれた。
僕たちが驚いていると、パパとママは気にせずそのカーテンの隙間へと歩き始める。
「あ、待って」
僕は急いでパパを追いかける。
僕と同じように、茫然としていたシリュと、にゃあも慌てて後を追いかける。
そして、光のカーテンを抜けた先で。
「はわぁ、、、、」
リルがまた、気の抜けた声を出していた。
森の中にさっきまでいたのに、そこに生えていた木よりも巨大な木がいくつも生えていて、その木に大きな家が作られていた。
木そのものがまるで山のようにすら見えて来る。
ツリーハウス。
そう呼ばれる物だと言うのは、ミリに聞いた事はあるけれど。
実際に見てみると、それは、何か触ってはいけない物のような気にすらなるくらい、神秘的だった。
いや、元になっている木そのものが、うっすらと光っているのも、家自体が光りを反射しているのも、見た事もない光景だった。
僕たちが何も言う事も出来ず、また立ち止まっていると。
「長さま。おかえりなさいませ」
ふと、そんな声が聞こえた。
僕たちが目を向けると、パパに向かって頭を下げているのは長身のエルフ。
いや、良く見ると、家にいるエルフも。
家への階段を登っていたエルフも。
全てのエルフが、頭を下げている。
長っていうより、神様の扱いじゃない?
そんな事を思いながら、パパを見ると、パパも困った顔をしていた。
珍しい。
「えーと、それよりも、少し聞きたい事があって来たんだ」
パパは、困った顔をしながらエルフに問いかける。
「どんな事でも。調べものであるならば、一族全ての力を使って探し出しましょう。戦いであるなら、どんな手段を用いても、駆け付けましょう」
竜の空中城に乗ってまで、大進撃の中心へ駆け付けてくれたエルフたちだから、その言葉に嘘は無い。
僕は、少し震えてしまう。
「ねぇ。シュン様って、ナニモノ?」
リルが真剣に聞いてくるけど。
僕だって、良く知らない。
とんでも無い人だって事だけで。
「なるほど。ゲートが再び生まれており、それをコボルトが起動していたと、、」
エルフの長。
いや、長代理と本人は言っていたけど。フルは、ハチミツのジュースを勧めてくれながら、話を聞いて小さく頷いていた。
「最近の森も何やら騒がしくはあります。ジャイアントバッファローのような大きな魔物が良く出るようになったのですが、、、おそらく、【名の無い魔物】がこの森にもいるようなのです」
フルは立ったまま、僕たちの前で真剣な顔で答える。
「【名の無い魔物】です?」
ママが首をかしげる。
「はい。私たちエルフがそう呼んでいる魔物です。この森では数百年いなかった魔物達をそう呼んでいます」
「その魔物の特徴は?」
パパが真剣な顔で聞いている。
何か、心当たりでもあるのかな?
そんな事を思っていると。
「四ツ目の、我らの住処の木と同じくらいの大きさの魔物です。見かけたのは、一回のみですが、何処にいるのか、何をしているのかは分かりません」
フルさんの言葉を聞いて、パパは机に目線を落とす。
「魔の森の住人、、、」
その言葉に、思わずパパを見るママ。
「知ってるですか?」
「ああ。俺が、一番最初に殺されかけた魔物だ。多分、エルフじゃ、絶対に勝てない」
パパは小さく呟く。
ママはその言葉に震える。
パパが勝てない敵って、あの目玉とか、キングインセクトくらいしか思い浮かばない。
僕も思わず目を見開いていた。
「ああ。俺がまだ弱かった時の話だからさ。今なら大丈夫、、、だと思う」
小さく笑うパパ。
「だとしたら、ここにも、あるのか。。。」
パパの言葉は、とっても暗かった。
子共たちが寝静まった後。
ゆっくりと町を探索しながら、俺はある場所へと歩き出す。
「何処へ行くですか?」
その途中で、ピンクの髪の最愛の人に見つかってしまう。
「ああ。ええと、、」
言葉を濁していると。
「ミュアさんの所ですか?だったら、リュイも行くです」
リュイに真剣な目で見つめられてしまう。
「リュイも、ミュアさんといろいろとお話したいです」
笑うリュイを見て。
俺は笑い返すしかなかった。
二人でうす暗い道を歩いて行く。
しばらく歩くと。
ふわふわと、虹色の玉が浮かび始める。
その玉に導かれるように歩いていると、突然巨大な、いや町とも言ってもいいくらいの大きさの大樹にたどり着く。
ゆっくりと、その木に近づき。
俺はその木に触れる。
光りが溢れ、七色の光りが、七色の玉が、嵐のように吹き荒れる。
「おかえりなさい」
小さな。
青い髪と、緑の瞳の少女が、笑っている。
「ただいま」
俺は笑うが。
「リュイさんが怒るから、手短に行きますね」
ミュアは笑いながら、とある方向を指さす。
「あの先に、ゲートが出来ました。魔の森とつながっています。もう少ししたら、バジリスクもこの森にやってくるでしょう」
その言葉に、俺は息を呑む。
「最悪を産んだ意思が。最悪を望む意思が再び生まれています」
その言葉に思い浮かぶのは、二人の顔。
最愛を殺され。最愛に会いたくて、最後の道を間違った二人。
「なんとか出来るのは、あなただけです」
「でも、もう力は無い」
俺の返事に小さく笑うミュア。
「あなたの力は、あなたの中にありますよ。誰も奪えない。誰にも奪われない力が」
俺の頭を抱き寄せると。
「リュイさんと約束しました。私たちは、あなたを守ると。あなたを、支える壁となり。あなたを押し上げる壁となる」
俺は、体の無い少女を見上げる。
「そろそろ、リュイさんに怒られそうなので、これくらいにしときます。忘れないでくださいね。シュン様。あなたは、一人じゃない」
笑いながら消えて行くミュア。
その手を再び掴もうとして。
俺の右手が空を掴む。
「力は想い。想いは力。私の力は、あなたのために」
囁くように、笑うように。
ミュアの声は空へと消えて行ったのだった。
「シュン様」
突然かけられた声に、思わずびっくりする。
隣を見ると、少し顔を膨らませたリュイが、こっちを睨んでいる。
「今晩、、分かってるです?」
リュイが本当に怒っている。
思わず、俺はそのままその場に何故か土下座していたのだった。




