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その後 リル

「次っ!」

リルは、僕より小さい体の割に、巨大な剣を振り回していた。


「流石、リンダの子共だな」

パパがそう言って笑うくらいには、立派に振り回している。


僕も最近やっと体も大きくなってきたと思っているのだけど、そんな僕よりも頭2つ分くらい小さいくせに、自分の体よりも大きな剣をブンブンと振りまわして魔物を切り裂いている。


少し赤みを帯びた髪の毛は短く切り揃えられていて、少し青みがかった目と相まって、とても綺麗に見える。

「イテッ」

リンに見惚れていたら、突然、頬っぺたをつねられた。

「戦闘中なのにゃあ」

にゃあが膨れたまま僕を睨んでくる。


いや、だけどさ。

圧勝じゃない?

パパと、ママが出るまでも無く。

シリュの魔法と、リルの剣で湧いてきていたイノシシの魔物達はもう全滅しかけていたりする。


「終わりっ!」

リルが、剣を一振りすると最後のイノシシが切り裂かれる。


「確かに強いのは認めるにゃあ」

にゃあもぼそりとそんな事を言っている。


「そろそろ、日も暮れそうだし。野営にしようか」

パパの一言で、野営に入る事になった。


「違うでしょ!?こっちが外へ置く石でしょ!?」

なんでも仕切ろうとするリル。


「うるさいなぁ。なんで一人で来たんだよ」

野営用の焚火を作りながら、僕が呟くのを聞きつけたのか。

リルは、僕に詰め寄って来た。

「仕方ないでしょ!お母さんはあれだから、ついて来たら、余計に大変な事になるのは絶対確定なんだし!お父さんは、国を離れる事が出来ないんだし!」


いや、娘にとことん詰められるリンダさんって。。

そんな事を思っていると。


ピリピリと足元がしびれる感覚が起きる。

「敵っ!」

にゃあの声より先に。


僕は、リルを抱えたまま、空へと飛びあがっていた。

うわぁ。軽い。右腕に感じる柔らかい感覚を感じながら、

そんな事を思って下を見ると。

ミミズの魔物が僕たちのいた場所から顔を出していた。


せっかく、その巨大な口を開いたのに、獲物を吞み込めなかったからか。

ミミズは一つうねるとさらに頭を伸ばして、僕の方へとその頭の伸ばして来る。

リルはと言うと。

僕の首に両手を回して、何も言わずに必死に目を瞑っていた。


僕は右手で、リルをしっかりと抱きなおし。

左手を伸ばす。


一撃。

回転しながら、ミミズを切り裂く。

僕の爪は、アイアンゴーレムの甲羅すら簡単に切り裂ける。


3つに切り裂かれたミミズが、地面に倒れて行くのが見える。



空中でもう一回転して、軽く優しく着地する。

「不意打ちとは、卑怯なやつにゃあ」

にゃあが、斬り裂かれて、地面に倒れたミミズをつついていた。

ミミズの体液があたり一面にあふれているのに、まったく動じないあたり、にゃあらしいと思う。

シリュといえば、ローブの裾を上げて、嫌そうにその液体を避けているのが見えた。


ふうと一息出すと、リルがいつまでも僕の首を抱きしめたままなのを思い出す。

「終わったよ?」

僕が声をかけるも、リルはブンブンと首を振る。

手を離してくれないので、右手は彼女を抱きしめたままのだけど。

「えーっと」

僕が困った顔をしていると。

「ダメなの。本当に高い所はダメなの」

そんな事を言いながら僕にさらにしがみついてくるリル。


なんとなく、彼女の服と下着が濡れているのが分かってしまった。

「ほら、ミミズの液体が服についたみたいだから、着替えないと」

僕がリルに声をかけると。


彼女はやっと目を開けて。

顔を真っ赤にして、僕の頬を叩く。

「変態!」

そんな声を残して、見えない場所に移動して、ママに手伝ってもらいながら着替えをしているリル。


「女たらしの彼女は辛いのにゃあ」

にゃあが、焚火の火の調節をしながら、ぼそぼそと何かを言っている。


「それがお兄ちゃんなのよね」

シリュも呆れた顔で火を見つめている。


僕はというと。

そんな女性陣の横で居心地の悪さを感じながら、立ったままゆっくりと燃える火を見つめるのだった。





夜も暗くなって来た時。

皆も寝静まり、僕は一人で見張りをしていた。

にゃあも、さっきまで一緒に見張りをするにゃあと頑張って起きていたけれど、今は隣で心地いい寝息を立てている。


僕が炎を見ているとゆっくりと隣に誰かが座って来る。


「あ、、ありがと」

それだけ言うと、何も言わなくなるリル。

「うん」

会話らしい会話も無く、二人で火を見つめる。

「私ね、、、、ううん。何でもない」

何かを言いかけて止めるリル。


「うん」

再び沈黙が続いた後。


リルの顔が突然近づいて来る。

「とりあえず、さっきは本当にありがとうね」

それだけ言うと、リルは毛布をかぶって横になる。


僕の頬には、柔らかく、温かいぬくもりだけが残っていたのだった。





青春、、かな。

俺はそんな子供達の姿を薄目で見ながら微笑む。


いつからだったろうか。

薄ら笑いではなく、微笑む事が出来るようになったのは。

残虐からではなく、心から笑顔が出るようになったのは。


「君のおかげかな」

隣の、ピンクの髪の女性に小さく呟く。

「もう一人作るです?」

突然隣で寝ていた彼女は目を開けてこっちを見ていてびっくりする。


「相石は、離れないですよ」

笑う彼女に、思わず微笑みが生まれる。


そんな彼女を抱きしめながら、思わずにはいられない。

子供達にも。

大事な自分の欠片が見つかりますように。

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