その後 娘。
「お母さん、馬鹿なの?どこまで脳筋なの?」
筋肉質のリンダさんとは違い、きゃしゃな体つきの女の子が、リンダを問い詰めている。
その女の子に問い詰められて、リンダの目には涙があふれていたりする。
「なかなかきつい子のようです」
リュイがぼそりと呟くのだが。
「リルは優しい子だよ。リンダがアレだがら、しっかりしすぎている所はあるけれどね」
そう言って、笑っているのは、この国の王様だったりする。
西方城塞王国。サイファ。
王都から離れた、西の辺境国として認められている国の王様だ。
けど、その王様が、パパと立ち話をしている今の光景は、見ていてちょっとくらくらするけど。
「キンカの国も、君の物と言ってもいいんだけどね」
バルクルスさんは、そう言って笑って話をしているけど、パパは苦笑いを返すだけだ。
そして、信じられない事に、僕を問答無用で襲ってきたあのリンダさんは、バルクルスさんの奥さん。つまりは、女王様だと言うのだがら、もう、何が何だか分からない。
パパ曰く、「ここは、森の中にあるから、常に魔物に襲われる。だから、強くないと生き残れないんだよ」と言っていたけど。
はっきりいって、そんな事を言われても、女王様が両手剣を振り回す女戦士とか、聞いた事も無い。
「アムの、奥さんのサラも、剣士だろ?」
そう笑っていたパパの言葉を聞くと、そんなものかと何故か、納得してしまうのだけど。
「それはそうと、何の用事で来たんだい?君が何も無くここに来る事は無いとおもうけど」
そう言って笑うバルクルスさん。
「そう言ってくれるなよ。あの時は本当にいろいろと世話になったと思っているんだから」
苦笑いを浮かべたまま、パパは続ける。
「前に、大進攻が起きた場所で、再びゲートが生まれていた。何かが起きている。なら、たびたび大進攻が起きるココなら、何か分かるんじゃないかと思って来たんだが」
パパの言葉に、バルクルスさんは小さく首を振る。
「確かに大進攻は常に起きてると言ってもいいけどね。昨日も30体以上が襲い掛かってきたよ。返り討ちにしたけどね」
カランと音を立てて、ついにリンダさんが、両手を床について、リンさんに、頭を下げているのが見える。
「君の子共もずいぶんと聡明そうじゃないか」
バルクルスさんは、僕の頭をポンポンと叩く。
僕の頭を叩きながら。
真剣な顔になるバルクルスさん。
「本当に、何も分からない。君の事も、ギルドからの連絡も来ているのだけどね」
残念そうに僕を見つめていたのだが。
「君も本命はここじゃないのだろう?」
バルクルスさんはパパを見て笑う。
パパが珍しく返答に困った顔をしていると。
「エルフの里は、変わらずあるよ。ずいぶんと大きくなっているけどね」
バルクルスさんは小さく笑う。
「まぁ、行ってみたら分かるさ。ただ、、、」
「え?エルフさんの所に行くの?リルも行くっ!」
突然、大声を上げてパパを見上げる、リルさん。
「「いや、危ないからダメ!」」
バルクルスさんと、リンダさんが同時に叫ぶけど。
「だって、エルフさんの森って、お父さんと一緒でも入れないんだもん!お父さん、前に、シュン君が居たら入れるんだけどねって言ってたよね!リル、中に入りたいのっ!」
両手を腰に当てて、胸を張って言い切る。
パパが困った顔をしていると。
「連れて行ってくれなかったら、家出してやるからっ!」
その言葉に、慌てるバルクルス。
「いや、でも、本当に、、、森を、、抜ける事に、、、」
しどろもどろで、バルクルスさんは止めに入るのだが。
「お父さん、いっつも言ってたよね?シュン君は最強の冒険者だって!あれは嘘なの?」
バルクルスさんの目を覗き込むように顔を寄せている。
バルクルスさんは、大きく一つ。本当に大きくため息をつくと。
「誰に似たのやら、、シュン君、、お荷物になるかもしれないが、連れて行ってくれないか?娘に、本当に家出されでもしたら、僕は生きていけそうにないよ」
バルクルスさんの言葉に、パパを頭を掻いて苦笑いする。
「娘に甘いのは、シュン様も一緒なのです」
リュイの言葉に、頭を掻いた姿のまま動きが止まるパパ。
うん。知ってる。
シリュにも、ミリにも、パパはすっごく甘い。
せがまれて、なんどもホワイトピック狩りに行くくらいだし。
そんな事を思っていると。
リルさんが、僕の方を向いて来る。
「シュン君の子共?よろしく」
「うん。よろしく」
リルさんが、声をかけてきたから、手を出すと。
「二人とも、くれぐれも、足手まといにならないようにしてよね。特に、私の」
胸を張ったまま。
僕の手を無視して、言い切るリル。
自分の言いたい事を言うと、ぷいと顔をそむける。
「とっても、とってもいけすかないのにゃあ。。。」
にゃあが、小さく呟くのが聞こえる。
「ちょっと、誰に向かって言ってるのか、分からせたほうがいいかも、、」
ギリっと音をさせて怒るシリュ。
というか、シリュが一番怖いと思ったのは、気のせいでは無かったと思うのだった。




