その後。 いつかの風景。
「あの時、あの大亀、ちょっと苦笑いをしてたような気がするのにゃあ」
にゃあは一生懸命、シリュに話をしている。
シリュは、そんなにゃあの話を少し笑いながら聞いている。
けど、時々目が泳いでいるあたり、聞き役も大変そうだった。
「それで、なんで、、」
ガンがパパの顔を見る。
パパは、笑いながら答える。
「あれが、出たって聞いたから、かなり急いで来たんだ」
パパが顔を向けているのは、亀が消えて行った壁。
「あれは、一体、、」
ガンは地竜と出会った衝撃から戻れていないようだった。言葉がとぎれとぎれになる。
「地竜。そう呼ばれている、神様の一体、かな」
パパはそう言って苦笑いを浮かべている。
パパの称号には、「地竜に認められし者」なんてのがあるらしい。
僕も称号の一つは欲しいと思うのだけれども。
「それよりもです」
僕ほ低い声に、びくっと震える。
声は、僕を抱きしめている人から聞こえて来る。
ゆっくりと上を見ると。
怒ってる。めっちゃ怒ってる。
「ご、ごめんな、、、」
僕が言い終わる前に、僕は力いっぱい抱きしめられる。
「痛い!痛いから、ごめん、ごめんなさい!ママ、もうしないから、ごめんなさい!」
痛い。本当に痛い。
竜人の体を持っているママの力は多分、パパといいとこ勝負だ。
今にも、絞め潰されそうな痛みが全身を覆う。
にゃあはと言うと、、、
シリュにまだ必死に話かけている。
ああ。これは、、。
僕は、くたっと力尽きるまで、ママに締め上げられたのだった。
「本当にごめんなさい」
僕は土下座して、両親の前で謝っていた。
今も、パパの魔法でもある、緑色の光りが僕を包んでいたりする。
本当にパパの回復魔法は凄いと思う。
死ぬほど痛かった体の痛みはもうなくなっている。
「それはそうと、魔物の大群を見たと言うのは、どの辺りなんだ?」
パパが呟くと、ガンが顔を奥に向ける。
「まさか、、あの場所か、、」
パパの言葉に、頷くガン。
「また、案内お願い出来るか?」
パパの言葉に、ガンは笑って返事をするのを見ていた。
パパと合流してからは、本当に何もなかった。
うん。
楽勝とかそういう物じゃない。
ロックゴーレムの一体すら出て来ないのだ。
多分。魔物が、怖がっている。パパを。
そう思えるほど、何にも会わずに奥へ、奥へと歩いて行く。
しばらく歩いていると。
突然、広い空間に出た。
とにかく広い。
天井も、奥も。
視えないくらい広い、巨大な広場。
そこにいたのは、犬の頭をした二足歩行の亜人。
「コボルトっ」
シリュが驚く。
こんな所にコボルトがいるなんて、聞いた事がない。
コボルトは、こっちを見ると。
驚いた顔をした後。
何かを叫ぶ。
とたんに、奥から骨の犬。
骨のトラ。 骨の蛇が出て来た。
ぎゃあぎゃあ言いながら、骨の魔物軍団に指示を出すコボルト。
骨の魔物達が、コボルトの命令を受けて、こちらにとびかかって来る。
そして、バラバラに砕け散っていた。
ママの巨大な斧に。
パパの巨大な槍斧に。
斧を持ち直したガンが、茫然としているけど、その気持ちは分かる。
僕なんて、構える事すらできなかったから、ガンさんの方が、よっぽど動きが早かったと思う。
ただ、パパと、ママが異常なだけなんだから。
「ぎりぎり見えるスピードとか、ありえないにゃあ」
にゃあまで感心してしまっている。
一瞬で使い魔を倒されてしまったコボルトも茫然としていたが、すぐに気を取り直したのか。
後ろを向いて、何かを作動し始めた。
紫色の光りが何もない空間に生まれる。
「ゲートっ!」
パパの叫びに、にやりと、コボルトが笑った気がした。
しかし、その笑顔は白い物につつみ込まれる。
バリバリと、咀嚼音を出しながら、出て来る白い魔物。
その後ろから、巨大な白い魔物を追いかけるように出て来るムカデ達。
白い魔物は、こちらを一瞬見つめると。
パパの槍斧に弾き飛ばされていた。
「アシダカはちょっときつい」
パパの愚痴が聞こえる。
無数の足を動かしながら、巨大な白い魔物。アシダカは、飛ぶ。
その下を一気にすり抜けると、パパが魔法を使うのが見える。
「ミオは、ムカデをなんとかするです!私は、シュン様の応援に行くです!」
僕が茫然とパパの戦闘を見ている間に、ママは数匹のムカデをすでに倒していた。
でも、次から次から出て来る魔物達。
「ミオ!しゃんとして!」
炎の竜巻が、ムカデをまとめて吹き飛ばす。
シリュは、あの大戦の後、合成魔法が使えるようになっていた。
それは、この世界に無かった、大型範囲魔法が使えるようになったと言う事。
天才。そんな言葉じゃ足りないくらいの天才だ。
僕はそんな妹を持っている事が本当に嬉しい。
【神獣化・爪】
両手から爪を伸ばす。
「乗るにゃあ」
にゃあが、背中を貸してくれる。
僕はにゃあに乗ると、一瞬で黒い風となる。
手当たり次第、目につく魔物は全部斬りつけるのだった。
しかし、パパも、ママも。誰一人として、気が付いていなかった。
ゲートがもう一つ開いていた事に。




