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その後 坑道の町

「もう少しだにゃあ」

走りながら、大きな黒い猫が叫ぶ。


「そうだね!」

僕も声を張り上げて返事をする。

にゃあの背中に乗って、半日程度。

僕たちはもう少しで王都の北にある、ホクと呼ばれている坑道へと近づいていた。


ここは昔、鉄やら銅が良く取れたらしく、地面にそのまま穴が開いていたり、ちょっと小高い山のすそに穴があけられていたりする。

地下は穴というか、地下に道が縦横無尽に伸びているらしい。


けど、あの大戦以降、ここは完全に放棄されていると聞いていた。

あの大戦の中。

もちろんここも大量の魔物に襲われたわけで。


鉄を採っていた坑夫たちも、半分以上が死んでしまっているという話だった。


僕も必死に戦ったから分かるけど、あの数は絶対に相手にしていい数じゃないと思う。

良く生き乗れたものだ。と一緒に戦った兵士達に声をかけられたあと、僕はこみあげてきた恐怖で泣いていたほどだったもの。


パパは、そんな僕たちをゆっくりと抱きしめてくれていたけれど。


「こんな場所に何しに来た?」

巨大な穴と、さらには、ガラスのような岩に覆われた大穴を素通りして、町の入り口になっている柵を通り過ぎた時、突然声をかけられた。

振り向くと、大きな、男の人がこちらを見ている。


筋肉が凄い。

タイガおじさんといい勝負かもしれない。あっちは、魔獣と呼ばれる魔物の姿をした人だけど。


「もう一度聞く。何しに来た」

そんな事を考えていると、男の人が低く声を出す。

その肩に担がれているのは巨大な斧。


ママの斧とは全く違うけど、でも、なんとなく懐かしい香りがする斧だ。


「あ、えーっつと、冒険者ギルドからの依頼を受けて来たんですけど」

なるべく、言葉を選んで僕は返事をする。


威圧は感じるけど、殺気は感じないから、戦う気は無いんだろうと思う。

けど、気が変わったら嫌だしね。


人とは戦いたくないから、逃げるしかなくなるし。

「冒険者?依頼?そんなの、、、ああ。坑道の話か」

男の人は小さく呟くと、一人で納得してしまう。


まじまじと僕を見ると。

「そういう事ならとりあえず、坑夫の宿に来てもらおうか。ああ。俺の名は、ガンだ」


男の人はそう言うとついて来いと歩き出す。


僕はにゃあと顔を合わせ。

男の人の後をついていくのだった。




「何だ?知り合いか?ガン」

宿に入るなり、男の人と同じくらい筋肉の塊の男の人達が僕の方を見て来る。


「獣人か、使い物になるのか?」

そう言ってくる人もいる。

「坑夫じゃない。冒険者だそうだ」

ガンのその言葉に、多くの坑夫の男達は、残念そうにため息を吐いて再び酒をあおり出す。


「すなまんな、この前の大進攻のおかげで、仲間が大量に死んでしまってな。人手不足で、仕事もままならないんだ」

ガンはそう言いながら奥へと歩いて行く。


酒場とも思えるような空間の奥、一番目立つ場所で酒を飲んでいたのは、どう見ても騎士と思われる男の人。


「ん?ガンか。どうした?」

騎士の男の人はガンさんを見た後、僕たちの方を見る。


「冒険者だそうだ」

「ああ、あの依頼の件か」

それだけ言うと、飲んでいたお酒のジョッキをテーブルに激しく置く騎士。


「挨拶が送れたな。俺は、アラス。元騎士だ」

男はジョッキを見つめたまま、自虐的に笑う。


ガンは何も言わずにただ立っている。

しばらくして、アラスはゆっくりと顔を上げる。

「すまなかったな。いろいろと昔を思い出しててな。それよりも、依頼の話だったか?」


机にもたれかかるようになりながら、男は酔った目で僕を見つめてくる。

「誰かに似てる気もするんだが、まぁいいか。依頼についてだが、全く何も分からん」

アラスは投げやりにそういうと、再び酒を飲む。


「魔物が坑道に再び多くなって来てて、仕事にならんから、こうして坑夫たちは飲んで暇をつぶしている。俺も、騎士崩れとして、なんとかしようとしたんだが、結果、これだ」

酒を掲げて笑う。


「お前みたいな子供に何ができるわけでも無い。俺ですらまったく何も分からんのだからな。まぁ。原因不明でしたで、帰ってもいいぞ」

自虐的に笑い続けるアラス。


「僕は、ギルドの依頼とは別に、もう一つ調べたい事があって来たんです」

追い返されてたまるか。

僕は何とか言葉をひねり出して、反論する。


「あ?」

不思議そうな目で僕を見るアラスの目をしっかりと見返す。


「亜人。亜族。そう呼ばれている、ゴブリンと、オークが一緒に住んでいたからココの魔物にも何かあったのかと思ったんだけど」

僕がそう言うと突然笑いだすアラス。


「そりゃ、大変だ。ゴブリンは、一部隊なら簡単に壊滅させてくれる。オークにいたっては、1体いるだけで、部隊壊滅は必死じゃないか。一緒にいたって、絶望でしかないじゃないか」

笑うだけのアラス。

そして、ひとしきり笑うと。

「そんな話は聞いてないが、坑道の奥に何かある可能性は否定できない。確認どころか、そこまで行けたら。。確認が出来るかもしれんな」


突然シラフになったアラスが真剣な顔をする。

だが、その顔も酒をあおる事で一瞬で崩れ去る。

「お前みたいな子供に出来たら苦労はしないけどな。はっはは」

笑うアラスの顔を見ながら、僕は坑道へと入る覚悟を決めていた。



「行く気か?」

ガンと名乗った男の人が僕を見る。

僕が小さくうなづくと。

「案内はいるだろう。俺を雇わないか?」

そんな事を言い出す。

「坑道の中は、巨大な迷路だ。小さい道に入ったら一生出て来れない可能性もある。俺がいると何かと役に立つ」

斧を持ち上げると僕を真剣な目で見つめるガン。

「報酬は、魔物の素材。一部でいい。どうしても欲しい素材がある」

ガンの言葉に、にゃあと顔を見合わせる。


にゃあは、「いい条件だと思うにゃあ」と全力で言っているように感じる。

結局僕は、彼に道案内をお願いするのだった。

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