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その後 家族

「爆走して行った?」

苦情を言いに来た町の人の話を聞きながら、ヒウマは頭を抱える。


娘が街中を爆走して行ったと言われてしまい。

呆気にとられてしまう。


轢かれそうになったと苦情を言う老人の言葉を聞き流しながら、

「何をしにいったんだ?」

ヒウマは頭を抱えたまま娘をどうするか考えるのだった。




「ただいま」

シュンが家に帰って来た時。

ミリは本を開いて、ウンウンとうなっていた。


「調べものです?」

リュイの言葉も聞こえていない。


娘が調べものに没頭し始めると止まらなくなるのは知っている。

夫婦は顔を見合わせて、娘の悪い癖に小さく笑い合うのだった。





「えー!何それ!」

黒髪の少女は、ギルドの受付で聞いた話に思わず叫んでいた。


「だから、シリュちゃん。ミオちゃんは依頼を受けて行っちゃったの」

「無理でしょ?坑道って、つまり、洞窟でしょ?ミオって狭いところじゃ、まったく使い物にならないよ!」

「え?そうなの?なんか、自信ありそうだったけど」

ギルドのお姉さんの言葉に、目をくりくりと見開くシリュ。



「あの馬鹿はいつもそうなの!お母さんと一緒で、何も考えないんだから!」

シュンと、リュイの娘のシリュは大きくため息を吐くと。

「パパとママに報告しないと。あの馬鹿。本当に何考えてんの」

シリュは、ギルドに来た理由も忘れて飛び出て行く。


「あーシリュちゃん。行っちゃった。治療のお願いしたかったんだけどな」

ギルドのお姉さんはその後ろ姿を見ながら残念そうに呟く。


もともとシリュちゃんを呼んだのは、大勢の治療をお願いしたかったからだったのだけど。

【暴緑】と二つ名がつくくらい有名な回復役であるシュンの娘である彼女は、父親に負けないくらい、魔法を上手に扱う事が出来る。こっそりと【七色】という二つ名が付いているくらいだ。


冒険者の資格もない少女に二つ名がついている事はまずありえない事なのだが。

彼女は特別でもある。まだ14になるかならないかくらいなのに、あの大戦の中、シュンとリュイの最強夫婦の二人と一緒に何万の敵と戦っていたほど、超優秀な魔法使いだ。


まだ小さい背中を見ながら、小さくため息をつき。

そして、ふと振り返る。

「テオ。だからダメよ」

こそこそと、出て行こうとする少女に声をかける。


自分よりも長い棒を持った少女はびくっと体を震わせて、ギルドのお姉さんを見る。

「仕事しなさい」

その一言で、しゅんと体を縮こませた少女は小さくうなづく。

その姿を見ながら、お姉さんは小さく呟く。

「また、ライナさんにお願いするしかないかなぁ。早く戻ってくれたらいいのだけど」

出て行った小さな魔法使いは絶対に兄を追いかけて行くと自信を持って言える。

それがあの家族だ。

「依頼の振り分けがまた難しくなるわねぇ」

お姉さんの言葉は重たい現実だった。





「はぁ。相変わらず、無鉄砲なのです」

リュイが、シリュの言葉に呆れた声を出す。

「無茶だと思う。バカだと思う」

シリュは容赦なく言葉を連ねていた。


シュンは悪態をつく娘を見ながら少し笑っている。

口は悪く言ってるが、今にも追いかけて手伝いに行きたいのが見え見えである。

なんだかんだで、兄思いなのだ。

「ワイバーンは、まだ治療中なんだよな」


足が無い。そう言おうとしたとき。

「キュー」

そんなシュンの背中に黒い小さな竜がとまり。

シリュの腕の中に納まる。


「あーミュールがいたか」

シュンがその小さい娘の腕の中にいる小さい竜の頭を撫でてやると、嬉しそうにキュルルと鳴く。


「行ってらっしゃいませ。館と、ミリ様はお守りいたしますゆえ」

ふと裏口から入ってきた一人の竜人が、ゆっくりと頭を下げる。


ギャルソン。

竜人の国の偉い人だったらしいのだが、いろいろあって、シュンの家の執事をしていたりする。

「姫様方と離れるのは寂しいですが、庭の子もまだ治療中ですゆえ」

そう言ってにこやかな笑みを浮かべるギャルソン。


庭の子と言っているが、シュンの足となっているワイバーンの事だったりする。

子と言えるほど小さくはないのだが。

ギャルソンにとっては、全てのワイバーンが自分の子共のような物だったりする。

伊達に何万年も生きてはいない。


にこやかに笑うギャルソンにお願いをして。


調べものに没頭して、まったく周りを気にしなくなっているミリを置いて、シュン達は出発するのだった。


「本当に。ゆっくり出来ない方々ですな。世界はまだ姫様たちを必要としておられるのでしょう」

飛んで行く巨大な黒い竜を見送りながら竜人は独り言のように呟く。

そして、ふと屋敷をふりかえると、スーツのような服の襟を整え直す。


「さて。食事すら忘れてしまわれるミリ様にいかに食事をしていただくか。このギャルソンの腕が試されますな」

にこやかに笑うギャルソンは背筋を整え。


もう一人の無鉄砲で、周りが見えなくなる厄介な姫様をいかにして説得するか。

真剣に悩み始めるのだった。


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