その後。 無い手がかり。
「だからって、豆の森に行くのは危険だよね?」
僕の言葉に、ミリは小さくうなづく。
「無茶なの。というか、死ぬだけなの。ミオが死んでもミリはシュンパパがいれば全然いいけど、パパとママがとんでもない事になりそうだから、絶対に死んでほしくないの」
ミリは本を開きながらそんな返事を返して来る。
つい先日の森での出来事を調べようと思った僕たちだけど、僕は何をしたらいいのかまったく分からない。
「そこにいられても邪魔なの」
ミリはさっさと自分の倉庫から出して来た本を開き始めている。
ミリは何冊か本をそのまま書き写して持って帰っていたりする。
それも、国の城の中にある書物を。
前の大戦でほとんどの本は消えてなくなってしまっていたけど、かろうじて残っている本は全て国庫に入れられて、国書として持ち出し禁止になっている。
そんな本を、国王の親戚という、肩書を使って読み漁り、書き写して持って帰っているのだ。
前に、怒られるから止めるように言ったら、とんでもない反撃を受けてしまった。
ミリ曰く、
「ここにある方がもったいないの。意味がないの。人に見られて、読まれるから本なの。ならここにあるだけ無駄なの。それをささっと外でも読めるようにするのは、本当にいい事で、お金をもらいたいくらい、立派な事なの」
そんな事を言われてしまっては、反論のしようもなかった。
そんな書き写しの本を読み出すミリ。
こうなると、まったく僕の言葉も聞こえなくなるのが妹だ。
僕はため息をつきながら、ミリの部屋を出るのだった。
とりあえず。
冒険者のたまり場であり、依頼をうけるギルド館へと入って行く。
「あ!ミオ君!よかったー。無事だったんだ。豆の森の中に入っていったって聞いて、皆心配してたんだよ!」
受付をしてた女の子が、僕を見て、声をかけて来る。
「皆じゃなくて、テオが。でしょ?」
少し背の高い、年上のお姉さんが声をかけて来た女の子をからかう。
テオと呼ばれた、受付の女の子は顔を真っ赤にしていた。
その瞬間。
ぞわっと、背中に違和感を感じる。
そっと後ろを振り返ると、猫耳の女の子がこっちを睨むように見上げていた。
「いろいろ手を出すのはいいけど、にゃあがミオの一番にゃあ。それは譲れないにゃあ」
おじさんの所の娘であるにゃあはそんな事を言いながら、僕の背中を軽く撫でる。
その度にぞわぞわと背中に違和感が走る。
少し、その手に殺気がこもっているのは、気のせいじゃないよね。
「うん。いろいろと大変だったけど。とりあえず、心配かけてごめんなさい」
女の子に素直に謝ると、その子はブンブンと顔を振り出す。
「そういった所が、天然の女たらしなのにゃあ」
にゃあの呟きが背中から聞こえた気がしていた。
「で、、、別の亜族が一緒に行動していた記録、、、ねぇ、、、」
お姉さんは、僕の言葉を聞いて、頬杖をついたまま資料をめくっていた。
「今まではそんな報告ないわね。あったらすぐに冒険者への警告として張り出す案件だしね」
お姉さんは返事をしながらいろいろな資料を引っ張り出している。
「でもね、亜族がからんだ大きな事件って、あなたのお父さんが関わった事件ばかりなのよね。
ゴブリンの大攻勢。オークによる、村の壊滅。ゴブリンによる、町への侵略行為」
話を聞けば聞くほど、パパの凄さを実感してしまう。
僕なんて、何もやってないのに。
「巣の壊滅やらも、シュンさんが絡んでいる案件ばっかりね」
「うーん。ここじゃ何も分からないわねぇ。ああ。そういえば、大量の魔物がごちゃごちゃ発生した最初の事件と言われてる、北の坑道の再調査の依頼があるけど。行ってみる?」
僕とにゃあは目を合わせる。
北の坑道。
普通なら馬車でも数週間はかかる距離だけど。
「にゃあなら、すぐにゃあ」
そっと返事をしてくれるにゃあ。
にゃあの速度はとんでも無くて、馬車というか、ロックバードの荷車よりも圧倒的に早い。
あの大戦の前には6本脚の馬という生物もいたけど、魔天使にまきついた豆を駆け上がってきて、全部の馬が魔天使と一緒にいなくなってしまった。
だから、にゃあのお母さんであるにゃんとにゃあ。あとはパパのワイバーンがこの国最速を競う乗り物ランキングの上位に入っている。
にゃんおばさんも、にゃあも乗り物扱いされるのは嫌なんだけど。
「どうする?にゃあさんがいるから、行ってみるのもいいかと思うんだけど」
僕とにゃあはもう一度顔を見合わせる。
そして二人でうなづいて返事をする。
「で、テオはここの仕事をしっかりして頂戴よ。こそっと自分の武器を持って出ようとしても無駄だからね」
お姉さんの言葉に、びくっと震える女の子。
その手には長い棒が握られていたのだが。
「ぜったいに。許しませんからね。というか、ギルドマスターからも怒られるからね」
お姉さんのその言葉に。
テオと呼ばれている女の子はちいさくなって、自分の|棍
そして、大きくなったにゃあに乗って、北へと走り出すのだった。
町中を、、、、




