その後 動き出す事態 1
頭をありえない速度で振り回されて、くらくらしている中で、パパと、おじさんの声が聞こえて来る。
「どう思う?」
「普通はありえない。いや、今まで無かった事だ」
「だよなあ」
二人は何かを不思議がっている。
僕は頭がくらくらしているのと、にゃあが泣きながら僕をなめているのが気になって全然その話が入って来ない。
「あの時ですら、無かった事だと思うのです」
ママもその会話に入って来ている。
「これは、案件として冒険者ギルドに話をするべきかな」
「必要だと思う」
「ちょっと危険な臭いもするのにゃん」
大人たちの会話を聞き流しながら、僕はそのまま眠りに落ちていくのだった。
気が付いた時、僕は自分の家のベッドの中だった。
「まったく。本当に後先考えないで動くのはどうかと思うの」
目が覚めた時、目の前にいたのは、僕の双子の妹。
ミリだった。
「ミオの事なんて一切書かないからね。無茶しても誰も喜ばないの」
ミリはいつからだったか、死んでしまった僕たちのお母さんの口真似をするようになっていた。
なの。が口癖だった僕たちのお母さん。
ちょっととんでもない事を教えてくれたりもしてたけど。
「シュン様を落とすには、押して、押しまくったらいいの。ミリも、シュン様の子共を作るの」
お母さんはそんな事をずっと言っていた気がする。
僕たち兄弟は獣人で、お母さんも獣人だった。
獣人は、兄弟、親子で結婚する事も、子供を作る事も普通にする。
別にそれが悪いとも思わない。
ただ、リュイママに聞かれると、頭をぐりぐりされる。泣くまでされる。
だから、絶対ミリはリュイママの前ではその事を言わないようにしていた。
「で、何か収穫はあったの?」
ミリはそれでも興味津々に聞いて来る。
「うん。ゴブリンと、オークが一緒にいて、死にかけたよ」
僕はそれだけ言うと、あの恐怖を思い出して思わずぶるっと震えてしまう。
それを聞いたミリはしばらく考え込む。
「オークと、ゴブリン。一緒にいた・・・?なんで??別種族の亜族は絶対一緒にいる事はないのに、、?」
独り言を言いながら考え事を始めるミリ。
正直、ミリは本当に頭がいいと思う。
最近は図書館や、本がある所に通い詰めていたりもするし。
だからこそ、パパの事を本にしようなんて思うのかも知れないけど。
「オークと、ゴブリンは大軍?」
「ううん。ゴブリンが少し多めで、オークは一体だけだった」
「使役?使い魔?それは、コボルトの専売よね?」
ミリはしばらく腕組みをしながら考え続けるのだった。
「はぁ。あの大戦を生き残って、喜んでいたら、またとんでも無い問題を持ってきたもんだな」
「あの大戦の中、生き残っていた、マスターも大概だと思うけどな」
ヒウマの言葉に、肩をすくめて返事をするギルドマスター。
国王のアムの育ての親でもある彼の名前はほとんどの人が知らないと思う。
恐らく、育ててもらったアムしか知らないのではないだろうか?
ミュレが生きていたら、聞けたかもしれないけど。
冒険者のギルドマスターとして忙しくしている彼の名前は、ギルドマスターとして知られているだけだ。
「で、君の見解はどうなんだ?シュン」
突然話を振られて、顔をあげるシュン。
「あの大戦の中でも、オークはオークだけで群れていた。ゴブリンもいたんだろうが、コボルトにいたっては、あの大戦の時には参戦すらしていなかった」
「だよな。あいつらは、本当に仲が悪いのか、絶対別の種族と一緒に行動する事は無かった」
それが、今回は、ゴブリンと一緒に戦っていたオーク。
異常だと思うのだが。
「ひとつ考えられるのは、使い魔の技術がゴブリンに流れた」
シュンの言葉に顔を触りながらうなるギルドマスター。
「俺もそれしかないと思う。どう見ても、仲間ではなく、使われている感じだった」
ヒウマの言葉にギルドマスターは顔を上げる。
「シュン、ヒウマ。引退気味の君たちにお願いするのは気が引けるんだが、調査をお願いしてもいいか?これは、本当に厄介な事になりそうだ」
その言葉に、シュンとヒウマは小さく頷いて了承するのだった。
「使い魔!それしかないと思うの!」
ミリは突然顔を上げると、叫び出す。
僕が呆気にとられていると。
「使い魔の技術を持っているのは、コボルトと、数名の冒険者だけなの。でも、その技術があったら、オークを使う事は出来ると思うの」
ミリの言葉に、僕は呆気にとられてしまう。
別の生物を使う?
顔に出てたのか、ミリは僕に近づく。
「パパが、ワイバーンに乗って空を飛んでるのと一緒なの。相手が納得したら、いろいろ手伝ってくれるようになるの。でも、それを強制できるのが、使い魔の技術なの」
ミリの真剣な言葉に僕も顔がひきしまっていく。
もし本当なら。とんでもない事になりそうな気がする。
「絶対に、見逃したらダメな気がするの。これは調べる必要があるの」
ミリの真剣な顔を見て、僕は何か大変な事が起こりそうな予感を感じていたのだった。




