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その後。 ささやかな騒動。

「最近、パパが仕事しないんだ」


俺の工房に来た獣人の男の子はそんな事を言いながら足をぶらぶらさせている。

俺としては、少し殴り殺したい気持ちもあるのだが、いかんせん、目の前の男の子は、この世界を救った英雄の子共だ。


下手に手を出したら何を言われるか、分かったものじゃない。

「で、何をして欲しいんだ?ミオ」

ため息と一緒に声をかける。


「ヒウマおじさんなら、パパのやる気を取り戻してくれるんじゃないかと思って」

満面の笑みでそんな事を言われても困る。


ついこの前、近くで起きたゴブリンの巣の討伐に出たシュンは、ビット無しであっさりとリュイと二人で巣を壊滅してしまったのだ。


今までと違い、強力な武器を持つようになった冒険者は、もう魔物に負ける事は少なくなっていた。

だから、ゴブリンなんて今の冒険者からすれば相手にもならない敵である。


シューターなんて上位種は別だが。

そんな状況ではあるが。

二人で巣をあっさり壊滅できてしまうあの夫婦は最強だと思う。

シュンに至っては、【片翼の】なんて呼ばれているほどだ。

正確にはリュイといつも一緒だから、隻翼の。なんだろうが。


「だから、お願い」

ミオは真剣な顔をしている。


「まぁ、気になる話を聞いているが」

俺は笑顔の中に、絶対に引かない強い性格をにじませている、友の子共に根負けするのだった。




「いいのかにゃ?」

にゃんが声をかけてくる。

「仕方ないだろ?」

俺は、頭を掻きながら自分の妻に返事をする。


「ただいまーーー!」

その時になって、娘が帰って来る。

家に入るなり、一瞬止まり。

「ミオが来てた?来てたでしょ??!」

と詰め寄られる。

俺が返答に困っていると、にゃんが娘のにゃあに何かを言っている。


その瞬間。

「お父さんのばかぁ!!!」

そう言い残して、娘は出て行ってしまう。


「やっぱり、まずかった、、、か」

娘に嫌われて、初めて自分の行動がまずかったと気が付くがもう遅い。


「あたりまえにゃ、、、」

にゃんに追い打ちをかけられ、ますます落ち込むのだった。



「この先かなぁ」

王都。そう言われていた町は粉々になっていたり、あちこちがガラスのように溶けてたりする。


今も家が建ったり、壁を作り直したりと復興に必死である。


「なんの因果か。まさか、攻め滅ぼそうとした町の人間に助けてもらってるんだからな」

そんな事を呟きながら歩いている兵士もいる。

今、王都の復興のほとんど、西方城塞都市の町の人たちが行っているらしい。


それに対して、文句を言った人達は全員北の鉱山町へと追放されたとかなんとか。


アムおじさんは、時々容赦なく人を切ると怯えられているらしい。

まぁ、僕に対してはおじさんはやさしいし。

サラさんも大きなお腹を抱えて、嬉しそうだし。


「あ!ミオくん!!」


そんな町を歩いていると、遠くから声をかけられる。

真っ白な髪の毛の少し胸の大きい女性。

「一人なの?お仕事?」

ロアさんのお嫁さんの一人である、レイアさんはにこやかに声をかけてくれる。

「ん。。うん。ちょっと、言えない仕事なんだ」


僕が冒険者になった事はレイアさんも知っている。

冒険者の学校も溶けて無くなったから、年齢制限や、学校に行かないと冒険者になれないといった昔の風習は無くなっていた。

だから、僕みたいに、12歳になってなくても冒険者になれたりする。

にゃあもだけど。

というか、ギルドの中にある、大手クランのリーダーがロアさんで、レイアさんはその妻だから、僕よりももっと冒険者についても、依頼内容についても詳しい。

ロアさんも、レイアさんも、さらには、もう一人のお嫁さんであるライナさんも。

ギルドの依頼はほぼ全て把握していると噂されている。

本当かどうかは知らないけど。


じっと見られて、少しそわそわしてしまう。

「まぁ、依頼内容は言えない事もあるから、深くは聞かないけど。個人的な依頼は受けちゃだめよ?分かった?」

レイアさんはそう言って、グローブのはまった手で僕を指さす。


僕は何度もうなづいて返事をする。

「ならいいけど。よっこいしょ」

そう言いながら、大きくなり出したお腹を抱え上げながら立ち上がるレイアさん。


ロアさんは今もクランで仕事に出ているらしい。

レイアさんと、ライナさんは二人とも妊娠しているらしく、ずっと町にいる。


「私も二人目が欲しいのです」

リュイママがそんな事を言ってたのを思い出す。


「うん。だから行くね!!」

僕はそう言い残して走り出す。


「なんか、隠してるような気がするんだけどなぁ」

レイアはそんな事をいいながら、走っていくミオを見ていると。


「にゃっ!レイアさんっ!ミオ見なかったっ?」

小さい獣人がレイアに声をかけてくる。

「あら、にゃあ。どうしたの?」

珍しく息を切らしている小さい猫の子にびっくりしていると。

にゃあはとんでもない事を伝えて来る。


「ありがとにゃあ!」

それだけ言い残してまたミオを追いかけて走って行くにゃあ。


「面倒な事になりそうな予感がするわね。買い物どころじゃなさそうだわ」

レイアは小さく呟くと、ギルドの本部へと歩き始める。

「ロアは出てるから、誰かに伝えないと、、、」



「ん?」

突然執務室の扉があけられる。

ビックリしたサラが、剣を探っているのが見える。

けど、剣は持ってないよ。

危ないから、絶対持たせてないしね。

そんな事を思っていると。

「国王!気になる情報が! 豆の森に、オークが巣をつくり始めたと情報が入りました!」

その言葉に、顔を青くするサラ。


「それは、、、まいったね。ロアは?」

「東の港町に派兵中です。海の蛇が再び出たという噂の真相を確かめるために」


報告に来た兵士は、直立不動のまま答える。

あの動乱の時、執事というか僕の副官もあっさりと死んでしまった。

けど、この兵士は前の副官よりもしっかりと情報を集めて来てくれる。

伝達係にしておくのは、もったいない人物だ。


ただ、サラの目が今にも兵士に襲い掛かりそうなくらい殺気に満ちているのは気のせいではないと思う。

そう。この兵士。

実は女性だ。

ラキネ シュリフ。


元紅石隊の一員で、シュリフ家。

つまり、前将軍シュリフの娘であり、ライナの姉に当たる。


「すごく優秀なんだけど、、、サラがねぇ、、、」

僕の周りに女性がいる事を凄く嫌がるのだ。

重婚なんて、普通の事なのに。


僕は、報告された大問題よりも、今、目の前で起きているなんとも言い難い問題にそっとため息をつくのだった。


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