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希望<さき>へ

神と呼ばれる物がいた。


神の兵器と呼ばれる物がいた。

その兵器は、悪魔を焼き尽くすために、太陽となった。


「そんな伝説があったなぁ」

タイガは、周りを見て笑うしかない自分を呪っていた。


たまたま。

そう本当にたまたま自分は、目の前にあった虹色の結界の中に逃げ込めた。

もちろん、ヒュウも。

だが。

結界の外は黒焦げの魔物や人だったものの残骸と、焼けただれた建物だけが煙を上げていた。

いや、形が残っているのはまだましなのかも知れない。

巨大な目玉の真下にいたっては、クレーターになっているだけで、しかもキラキラと輝いていた。


目玉は、自分が生み出した魔物も。

地上にいた全ての魔物も。人も。


生きる物全てを焼き尽くしたのだ。

一瞬にして。


「ほんとうに。勝てる気は一切しないね」

結界の中。アムは、空を見上げて呟く。

「で、僕としてはサラの胸は嬉しいんだけど。また敵が来るよ」

アムのその声に、アムをしっかりと抱きかかえていたサラは慌ててその手を離していた。


「無理です」

ライナは、地面にへたりこんでいた。レイアは茫然と空を見ている。

ロアは、自分の手を握りしめる。


魔物に囲まれて、なんとか生き延びていた兵士達。冒険者たち。

なんとか合流しつづけ、300人は超えていたはずだった。


なのに。

今目の前にいるは、50人にも満たない。

そう。

光りの結界に入るのが遅れてしまい、遅れた冒険者、兵士は、一瞬で全て焼き尽くされたのだ。

生き残っていた人々も。


空中の目玉は笑っているようにも見える。

人間の無力さを。


あがいて生きようとする生物をあざ笑っているようにも見える。

「けど、それでも」

ロアは握りしめていたさらに握りしめる。

「僕たちは生きる」


それは、ロアの言葉というよりは、生きる者全ての決意だった。





「とんでもないです」

絶対結界に包まれたまま。

リュイはぼやっとする視界の中、目玉をみつめながら、小さく呟いていた。

目の前の目玉は、いきなり高熱となり。

太陽となった。


今、真っ黒に燃え尽きたような姿になった目玉は、再び高速で再生を始めているらしい。

ぼろぼろと黒い炭が落ちて行くのが見える。禍々しい赤い肉が、うごめいているのが見える。


一回り。さらに大きくなっていく目玉。

地竜に焼き尽くされた手が、一本一本、赤い肉から再び生まれ始める。

【明星】の光りの玉が、目玉の周りを取り囲んで行く。

手の周りから、魔物が次々と新しく生まれて来る。


「パパの羽が無かったら、目がなくなってた」

シリュが震えているのが分かる。


突然太陽のようになった目玉を直接見てしまったために、俺もリュイも、一瞬で目を焼かれてしまっていた。 今は、二人とも再生している最中なのだ。

シリュは、俺の羽を多めに纏わせていたため、傷はついたものの、一瞬で回復できたようだった。


肉の塊に再び一筋の線が見え。巨大な目が開き始めた。

「あいつの目がもう一度、開ききる前に、倒すぞ!」


俺の言葉にリュイも頷き。

俺達は、目玉に斬りつける。


俺の羽が、目玉の手を消滅させ。

リュイの黒炎が、目玉の肉を焼き尽くす。


俺達の槍が、斧が、その体を切り刻む。


俺達が離れた瞬間。

青い光が再び地面から放たれ、目玉を飲み込む。

地竜は、何度でも蘇る。

たとえ、太陽に燃やされ尽くされたとしても。


真っ青な光が落ち着くと同時に、シリュの黒い光が目玉に襲い掛かる。


なのに。


「嫌になるな」

俺は呟くしかなかった。


体を半分以上削ったはずだった。

一撃一撃が、最高の威力を叩き出しているはずだった。

なのに、その体が再び盛り上がり、再生していく。

前よりもその体は大きくなっていく。


目玉は再びしっかりとその目を開く。

光の球が体の周りに大量に浮かぶ。


「くそっつ!」


俺は、無数の羽を降らし。

奴の体を削るのに、端から再生されてしまう。


自分の体を削り取られるような【明星】のスキルがうざったい。


完全に再生した目玉は、にやりと笑っている気すらする。


ゲートから、奴の周りから。再び魔物が湧き出て来る。

「無理か」


俺が呟いた時。

「パパ!」

見知った二人が竜に乗って飛んでくるのが見えた。


「ミオ!ミリ!」

リュイが叫ぶ。


「キュウ」

ふと見ると、俺がずっと乗っていたワイバーンまで、飛んで来ていた。


その姿を見たのか。

目玉が震え始めた。


俺達全員の頭に。

声が聞こえた気がした。


「シラヌ ユルサヌ カゾク ナド イラヌ ナクナレ キエロ  カゾクナド ナクナレ!」

激しい怒りが、空気すら揺らし始める。


俺達がその激しい突風に耐えていると。


再びその体全体がまぶしく光り始める。


また、太陽が落ちて来たかのような、熱攻撃が来る。

「来るなぁ!ミリ、ミオ!」

俺は叫びながら、身構える。

ふたたび、周りの視界がゆらめき始めた時。

遥か上空から、隙間すらない程の大量の黒炎が目玉に着弾する。

あまりに激しい爆撃に目玉を包み始めていた光りが消えてしまう。

その黒炎の正体を見ようと上を見上げると。

そこには、ミュールよりも、数倍大きい、真っ黒い竜が飛んでいた。


「空竜」


イラヌ セワ デハ アルガ。 テ ヲ カソウ カミ ノ ボウソウ ハ カミ ガ トメネバ ナ。


空竜の呟きが聞こえた気がする。


空竜の黒炎の爆撃が目玉を襲い。

地竜の青炎の砲撃が地上から目玉を消し飛ばす。


二つの攻撃を交互に受け、目玉は再び崩れて行く。


しかし。

目玉が突然激しく震える。


ウルサイ ゴミ ドモ ガ! カミ ヲ コエタ カミ ヲ シレ!


目玉の周り全てを囲むように絶対結界が生まる。

2体の竜の全ての攻撃を全て受け止める。


ニヤリと、目玉が再び笑った気がした。

勝った気でいるのだろう。


「神様でも勝てないなら、どうしたらいいの」


再び急速再生していく、いびつな目玉のその姿を見ながらシリュが呟く。


「パパの結界を抜けるのは、パパだけなの」

どうしたら、勝てるのか考えているのだろう。

ミリが小さく呟くのが聞こえる。


その言葉で俺は、気が付いてしまった。


俺の結界を抜けるのは、俺の力だけ。

今、やつの絶対結界を破れるのは俺の羽だけだ。

そして、やつの体の中にある、神の力を破れるのは、、、、




神の力だけではないのか。



そして、俺も神の力を持っているじゃないか。

やってみる価値はある。


そう思った時。

そっと手を握られる。


「私も、同じ力をもらっているです。二人なら、もっと強いです」

リュイが笑う。


俺はそんなリュイの手を力いっぱい握り返す。


子供達を守るために。

もう二度と、子供を殺される事が無いように。

親の責任を果たす時だ。


「ミリ。ミオ。シリュ」

リュイは俺の手を握ったままで。

「もし、戻らなくても、あなた達は生きるです。絶対に」


困惑している子供達を前に。

俺は子供達の頭を撫でて行く。


「お前たちの親になれてよかった。親にさせてくれてありがとうな」

俺はそれだけ言うと。


目玉を再び睨む。

「行くぞ」

俺の言葉に頷くだけのリュイ。


無限に近いEPポイントを。

全て一つの力に。


「消えろぉ!」

「全てを!」


俺達二人の武器が。

光りの羽を纏い。

巨大なハルバードとなる。

斧であり。

槍であり。

光りであり。

闇であり。



二人で振り下ろした、その槍は。

絶対結界を激しいガラス音とともに割り。


目玉に突き刺さる。

しかし、その状態にも関わらず。

目玉はにやりと笑ったように見えた。


再び眩しい光に包まれだした目玉。

「させないよ!」

ミオが、生まれる前の、明星を斬り落とす。

「ミュール!」

ミリの声に、ミュールが黒炎をその口から弾き飛ばす。

生まれる絶対結界を、ミリが掴んだ羽を投げつける事で消していく。

目玉が、驚いた顔をしたとき。


その目玉に、巨大化していた豆のつるが、巻き付いていく。

焼き尽くされたはずのツタが、黒ずんで炭になっていたつるが、目玉を覆い尽くしていく。

慌てて、みずから生やした手で、そのつるをはぎ取ろうとする目玉。

しかし、その手でつるを掴む事は出来なかった。


激しい音を立てて、ツタを駆け上がって来た馬たちが、

慌てている目玉のその手に。自分から掴まりに行ったのだ。


馬を放り投げる先から、次々と駆け上がって来る馬たち。

暴れる目玉。

俺の中の全ての力が、いや。全ての人の思いがハルバードへ流れ込むのが分かった。

全ての力がハルバードへ流れ込む。


リュイとのリンクが切れ。

神の竜人のスキルで作られていた俺の右手が消えて行く。

まだ待ってくれ。


リュイと、俺は光そのものをしっかりと握り直す。

全ての力を持って。


世界に未来を。


光りは、周りの景色すら飲み込み。むしろ真っ黒な、黒炎となる。

そして、俺達の思いを乗せ。

血よりも真っ赤な炎となった。


ハルバードが、激しいほどの赤い光が、目玉を真っ二つに切り裂く。



((おつかれさま))

誰かの声が優しく響くのが聞こえる。

真っ二つとなった目玉が吠えているように見える。



それを確認した瞬間。


国を。

土地を。

何もかもを包み込むように。


巨大な、本当に巨大な光の柱が全てを飲み込んでいったのだった。




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