圧倒的絶望
無数の魔物の中。
「無理っす!もう少し、まとまるっす!」
チェイの声が響き渡る。
数万の魔物に囲まれてしまった状態で、兵士達は身動きすら取れない状態に追い込まれていた。
円を描くように陣を張り。
それでもすこしずつ外側からすりつぶされて行く。
そんな絶望にも近い状況の中で、兵士達がまだなんとか戦えているのは、ヒウマの持って来た武器があるからだ。
西城塞王国から持っていた、氷の剣。炎の剣。
そう呼ばれている、シュンが過去に作ってくれた武器の模倣品。
しかし、今兵士に配られている武器は、それよりも圧倒的に強い。
辺り一面に、電撃が走り、敵の動きを一瞬止めてしまえる武器。
着弾地点に氷のトラップを張る事の出来る杖。
これだけ囲まれている中。
敵の足止めをしてくれる、その武器がどれだけの命を支えている事か。
「少しずつ、交代していくっす!」
それでもじりじりと死者を出し続けている西方都市の兵士達は、疲れ切った顔をしている。
前衛と後衛を交代させながら、少しでも休憩できるように指揮を執り続けるチェイ。
もう、限界っすね。
疲れ切った顔をしながら、チェイが自分の覚悟を決めた時。
突然、爆発とともに光りの柱が目の前を走り抜けていく。
無数の魔物を吹き飛ばした光は、さらに次々と着弾し、地上を走って行く。
「何すか!?」
驚くチェイの前で、ゆっくりと降りて来る羽の生えた執事。
「ギャルソン!」
嬉しそうに叫ぶミオとミリ。
「ぼっちゃんたちは、主様の元へ行ってください。ここは私が引き受けます」
ゆっくりと頭を垂れるギャルソン。
顔を見合わせる二人に。
「主様が困っておられるようです。ですが、私たちでは、あの場にいる事すら不可能です。主様をお願いいたします」
丁寧に頭を下げ続ける、ギャルソン。
まだ困惑している二人の前に、黒い竜が舞い降りて来る。
「みゅ」
巨大な体に見合わず、可愛く鳴く黒い竜に、二人を目を合わせる。
「行ってください。主様をお願いします」
黒い竜に乗り空中へと飛び立っていく子供達を見ながら、ほっとした顔をするギャルソン。
「戦略的撤退っすか?」
小さくなっていく姿をじっと見ているギャルソンに、チェイが声をかける。
ギャルソンは、小さく口元を上げる。
「あなたも、分かっているでしょう。これは、さすがに無理です」
周りには、まったく減った様子すらない魔物の群れ。
「シュンの周りなら、まだ生き残れる可能性は高いっすね」
珍しく、苦笑いを浮かべるチェイ。
「姫様を守り、その子を守るのは、私の務めですので」
襲い掛かってくる魔物の姿をギャルソンの目がとらえる。
「ですが、私も何もせず、唯、ここで消える訳にはいかないのです。竜族の古参として。姫様を守る者として」
片手を振るだけで、小さいレーザーが魔物を薙ぎ払う。
「本当に心強いっすよ」
笑うチェイ。
二人の目の前には、魔物の壁しか見えなくなっていた。
「このまま、ゆっくり右側への援護を強くしていけ!」
ロアは、叫びながら冒険者を兵士を指揮していく。
ロアの部隊は、個別に戦って孤立していた兵士達を取り込みつづけ、どんどんと大きくなっていっていた。
「左側は、しんがりになる!気合を入れてくれ!」
そんな事を言いながら、左側に近い場所で、蜘蛛の魔物を一刀の下に切り伏せる。
「今回は、無茶ばかり言うねっ。ロアはっ」
レイアの拳が魔物を燃やす。
「ひぃ!」
逃げ遅れたのか。
部隊の移動に遅れて、取り残された兵士の一人が叫んだ時。
その周りの敵が一斉に凍り付いていた。
「でも、魔力は無限にはありません」
泣きそうな顔をするライナ。
その顔を見ながら。
「大丈夫。もう少しだ」
自信を持って言い返すロア。
その目が見つめているその場所で。
魔物に囲まれていた町の生き残りの人を守るように。
巨大な虹色の結界が新しく張られるのが見えた。
虹色の結界があちこちに張られているのが見える。
ワイバーンが、竜人達が。
敵を蹴散らしていた。
しかし圧倒的に数が違う。
100匹倒しても、一万が襲い掛かって来る。
今はなんとかなっているが、すぐに壊滅する状況なのは分かる。
俺は目の前に浮かぶ、巨大な目玉を見つめていた。
無数の手を生やしたソレは、今も無限に魔物を生み出していた。
ゲートから。
その体から。
「もうやめて。お父さん」
シリュはまだ話しかけているが、もうその魔物にドンキの意思は残って無い気がする。
シリュの前で、絶対結界に受け止められ弾け飛ぶ光線。
断続的に、目玉の攻撃は続いている。
最初のような、光線の乱れ打ちが無くなったのが、逆に不気味に感じる。
もちろん、やつの【明星】のスキルも発動している。
自分で生み出した魔物を溶かし。
それでも、溶ける数を超える魔物を生み出し続ける。
俺は、自分の槍を構えなおす。
自分でもにやりと笑いが出るのが分かる。
目玉はその俺の笑みに、対して。笑い返したかのように見えた。
全ての【明星】の光りがこっちを向いた気がする。
無数の光りの玉から無数の光線が放たれる。
その時だった。
地面から放たれた青い光がドンキだった目玉を包み込んだ。
巨大な目玉の周りにいた全ての魔物と一緒に。
【明星】の光りの玉をも全て巻き込んで。
突然襲って来た余りの熱気にびっくりしている、リュイとシリュ。
しかし俺には、この光には見覚えがある。
何回もこの攻撃を受けて来たし、見て来た。
ふと下を見ると、見覚えのある大亀がゆっくりと地面からその姿を出し始めていた。
「地竜」
俺が呟くと。
ヤレヤレ。 コレモ ワシノ セイカ
そんな声が聞こえて来る。
気だるさすら感じるその動きで、大亀はその口を開く。
そして、再び。
高熱で溶けた目玉を青白い高熱の光りが包み込む。
しかし、二回目のその光は盗まれた、絶対結界に弾かれていた。
目玉しかないのに。
そいつは笑っているように感じる。
目玉自体が、白く光り始めた。
弾け飛んだはずの明星の光りが一つに集まり始める。
周りの視界が、ゆらめきぼやけていく。
激しいアラームが頭の中でけたたましく鳴り響く。 頭が痛い。
「ヤバイ!」
「にげろぉ!」
誰の声だったか。
目玉は突然爆発したかのような光を生み出した。




