審判を覆すものたち
空中に浮かぶドンキだった目玉は、イラついていた。
なぜだ。なぜだ。
この世界は、やさしくない。
やさしさなどひとかけらも無い。
愛する者は、切り刻まれ。
もてあそばれ。ゴミのように捨てられた。
泣いても、わめいても。
誰も助けてくれなかった。
だから、全てに復讐するつもりだった。
この世界に。
絶対に崩せない幸せを作る事で、復讐とするつもりだった。
自分が、鬼となろうとも。
なのに。
一人が男が、この世界が異世界である事を思い出させてくれた。
死んだ人間が生き返る。
そんなファンタジーを目の前で見てしまった。
見てしまった以上、その望みにすがりつくのは当然だった。
最悪の死に方をした娘に。
もう一度。
最悪しか見なかった娘に。
幸せを。
地獄の中、何も出来なかった自分から。
贖罪を。
自分が壊れた原因でもある、最初の娘に。
最高の笑顔を。
なのに。
全てをかけて生き返った娘は、娘では無いと言う。
そうか。
平等に優しくないと思っていたのは、間違いだったのだ。
この世界から優しく微笑んでくれる人間もいたのだ。
くやしい。
不平等が。
与えられる者と、奪われる者の差が。
恵まれた者はどこまでも勝ちの人生となるこの世界が。
絶望を超えて。怒りを超えて。それは、憎悪となる。
なら。
全部、ぜんぶ。
壊してやる。
「なんか、あんな化け物、見たことあるんだが?」
「なんたら神話にあった、天使じゃないかしら」
タイガは、空中に浮かぶ羽が生えたように見える目玉を見上げる。
無駄にタフなオーク達は、いともあっさりと二人の魔獣に、切り刻まれ足元に転がっている。
その肉を食べながら、のんびりとヒュウが答える。
その先で。
3つの悪魔のような竜の羽と、大鷲の羽を持つ者が、巨大な目玉と戦っている。
激しいスパークが時々起きているのは、時々プラズマが走っているからだろうか。
「あの中には入れねぇな」
「入るつもりなら、一人で行ってね」
「つれねぇなぁ」
がっかりしながら、剣を構えなおすタイガ。
「でも、ゆっくりはさせてくれねぇみたいだしよ。退屈はしなくて済みそうだぜ」
「食事くらいゆっくりさせて欲しいのだけどね」
ヒュウも立ち上がる。
目の前には、次の魔物の波が迫って来ていた。
オオカミや、6つの目を持つ赤い虎が群れとなりこちらにやっている来るのが見える。
二人が武器を構えなおした時、その横に、少し年を取った剣士が並び立った。
女性も二人、その剣士の後ろに控えている。
「ん?あんたも転生かい?」
タイガは、男に笑いかけるが。
「そう思っていたけど、僕は、転生者ではないみたいだ。自分でもいやになるくらい弱いからね」
ロアの返事にタイガは豪快に笑う。
「ここまで生き残って来たんだろ?なら十分ツええよ。この世界は、残酷で、何も残してくれねぇ。こんな世界で、生き残って、息してるってだけで、十分ツええよ」
タイガの笑いに。
ロアはつられて笑っていた。
「気をはる事もねぇ。死ぬ時は死ぬもんだ。だが、その時に、誰か一人でも覚えてくれる奴がいたら、それでいいじゃねぇか。墓の前で、酒でも飲んでくれりゃ、俺は言う事はねぇよ」
タイガの剣はブレない。
「強さ、、、か」
ロアは、小さく呟く。
タイガの剣を振る姿を見ながら、つくづく思う。
自分は何を求めてきたのだろうか。
ふと、何かが視えた気がした。
「ライナ!右方向に、氷の矢!冒険者を左に寄せろ!」
その言葉の後。
右から、ウロボロスが降りて来る。
竜巻を生み出しそうになったその腹に、ライナの氷が突き刺さる。
ひるんだウロボロスが、動きを止めた時、すぐさま飛んで来たワイバーンがその首に噛みつき。
再び空中へと持ち去って行く。
右側を大量の巨大ムカデの大群が通り過ぎて行く。
いつの間にか、左側に寄せた冒険者たちと、別の場所で戦って、こちらまで押し返されていた兵士たちとが、完全に合流していた。
魔法使いたちに、回復をしてもらっている兵士達をみながらロアはさっき感じた直感を思い出す。
「あんたも、十分ツええんじゃねぇのか?」
笑うタイガに。
ロアは、自分の剣を握りしめる。
ロアのスキル【予知】は、いつの間にか【状況予知】に変わっていたのだった。




