援軍
肉の目玉が、何かを叫んだ時。
神の名前を持つ魔物達が、動き出す。
「そう来るか」
両手で自分の槍の重さを確認した後、俺はニヤリと笑う。
10億の魔物たち。
目の前にいるのは、獣人の町でさんざん手こずったあいつらだ。
絶望しかない状況でも、つい笑みが出てしまう。
その魔物達が、一斉に羽を羽ばたかせ。
巨大な竜巻を。
そう、世界を破壊する大災害級の巨大な竜巻を生み出そうと羽を羽ばたかせる。
突然、その羽ばたき全てが光に包まれた。
ウロボロスの大群の半分近くがその光りに、吹き飛ばされていく。
「主様!大丈夫ですか!」
そう言って上空から、飛んで来たのは、キンカにいるはずの竜族の執事。
俺が見ている前で、目の前に巨大な空中城が現れて来る。
「竜の浮島」
俺が呟くと。
そこから、竜族たちが次々と舞い降りて来る。
「お前たち!主様と、姫様を絶対にお守りするのだ!以前のように、王を殺されるなど、竜の歴史の汚点だ!再びここで、これ以上の汚点を残すでないぞ!」
ギャルソンの言葉に、手を上げて返事をする竜族たち。
竜族たちがこぞって、両手を伸ばし、全員から一斉に発射された魔力は、肉の目玉となったドンキを打ち据える。
外れた魔力は、地面を黒くうごめく大量の魔物を削り切る。
ふと見ると。
地面では、いくつかの場所で、ドームのような七色の結界が生まれていて、そんな竜の無差別攻撃から人々を守っていた。
どこかで見た事のある光の結界。
その光は何処か温かさを感じるのだった。
「長のためだ」
ロアが呆気に取られている中。
突然、竜族とともに降りて来たエルフの男はそれだけ言うと、小さな枝を地面に刺し。巨大な結界を張っていた。
ふと見ると他の場所でも、エルフが結界を張っているのが見える。
「ミュア様のお願いで、持って来た葉だ。大事に使え」
それだけ言う、エルフの長。
他の場所でも同じような事が起きているらしい。
枝からは光が溢れるように結界が広がり。
戦い続きで限界を迎えていた冒険者、兵士達に少しの休憩を与えてくれる。
そして彼らが守っていた、町の人達にも。
その横を、とんでもない熱量の光りが通り過ぎ。
魔物を薙ぎ払って行く。
光りはエルフの結界に当たる事なく通り過ぎて行く。
「このために、修行してきた。エルフは長のため。ミュア様に頂いたこの命で、魔守り人としての役目を果たす」
エルフの長は矢をつがえ。
空中の魔物の眉間を打ち抜く。
王都の冒険者、ロア達が呆気に取られている中。
さらに空中から、無数の炎が飛んで来る。
今まで見た事も無い数のワイバーンから、何かが飛び降りて来る。
その何かは。
空中で一回転し、地面に着地と同時に大剣を振り下ろしていた。
地震でも起きたような衝撃の後、吹き飛ぶオーク達。
魔物を切り裂く大剣。
どう見ても魔物の恰好をした二足歩行する虎は笑っていた。
「ツええやつばっかりじゃねぇか。この世界は、捨てたもんじゃねぇよな」
「シュンさんの子供達を助けないでいいの?」
豹の女性がその素早さを生かして、オークの喉を切り裂く。
「大丈夫だろ。俺達よりもはるかにツええ奴らだ。それに。子供は子供の戦場があるもんだ」
「それを放任主義って言うの」
呆れる女性の魔物を後目に、虎の魔物は剣を構えなおす。
「魔の森の長!タイガが相手してやるって言ってんだ!かかってこいやぁ!」
「助けてもらった。それだけ」
二人の魔獣の先には、ワイバーンから降りてくる同胞たちの姿が映っていた。
「パパの?」
「助けてもらったからね」
ミオの前で、一人の少年と言ってもいい体の小さい虎が、剣を振るっていた。
ワイバーンは、魔物を焼き払い。
空中の敵を蹴散らし始めている。
「強くないと守れない。だから、強くなるって決めたんだ」
虎は、剣を振るい。
ミオを襲おうとしていた、オオカミの魔物を一撃で切り裂く。
「君は?」
その問いに。
「パパの隣で、戦うって決めたんだ。これくらいやれないと、パパのつま先にもなれない」
真剣に答えるミオ。
その爪で、一瞬で切り裂かれる魔物達。
二人は笑うと。
お互いの武器を構える。
「魔の森の長、タイガの息子!ウル!恩義を返すためにここに来た!全てを守ってみせる!」
「シュンリンデンバーグの息子。ミオ。無敵のパパの名前に負けない男になる!」
二人の子供はお互いに笑いながら。
戦場を駆け抜け始めるのだった。
そんな二人を二人の少女が冷めた顔で見ていた。
「なんかかっこつけてるの。恥ずかしいの」
「でも、ちょっとカッコいいと思うのにゃー」
いや一人は、ミオの方を見て顔を少し赤くしていた。
「あれ、お調子者だよ。にゃあなら、別の人の方がいいんじゃない?」
「にゃー。ミリはいつも一緒だから、ミオの事が分からないのにゃー。やさしくて、カッコいいのが、ミオなのにゃー」
「そうなの?あ。危ない!にゃあ、行くの!」
走りだすミリと、にゃあ。
「シュンのやつ、本当にとんでも無いよな」
ヒウマは、次々とやってくる心強い援軍に思わず笑みを浮かべる。
「嫉妬なのにゃん?」
「いや、思ったよりもあいつは、英雄やってたんだなって、思っただけだ」
「ヒウマは、にゃんの英雄にゃん。昔も、今も」
その言葉に少し照れた顔をするヒウマ。
そんな彼らは、見知った臭いが近づいている事を嗅ぎ取っていた。




