最後の審判
「無理ぃ!」
「泣き言言わないの!」
双子が叫ぶ。
目の前に突然のように現れたのは、無数に近い魔物達。
飛ぶ昆虫型の魔物も、鳥型の魔物もいる。
虫型も、オオカミ型も。
「これは、覚悟を決める時かな」
アムが小さく呟く。
「出来る限り守ります。生き抜いてください」
サラは、唇を引き締める。
町を守っていた兵士達がどれだけ残っているのか、知る事も出来ない。
知ったところで、町の中もまっ黒になるほど魔物に埋め尽くされているだろう。
いまさら、何も出来ないし、あの場所にいたら、確実に死んでいる。
双子は強い。
妹は敵をしっかりとかく乱し、兄は確実に魔物を仕留めていく。
西方都市から来た兵士達も圧倒的に強いのだが。
「数が多すぎっす。円陣体系で、交代で戦闘するっす!下手をしたら、3日以上戦う事になるかも知れないっすよ!」
チェイの適格な指示は、兵士達の顔から笑顔を奪っていた。
「これは、無理かも知れないっすね」
軽い隊長の顔が、真剣そのものになっていた。
「ロア様!」「隊長!」
ライナと冒険者たちの叫び声が響く中。
「魔法使いを中心に、結界を張って欲しい!武器は惜しみなく使って使い捨てていい!」
ロアはそんな事を叫ぶ。
まただ。
また、【予知】が発動しなかった。
「こんなスキル、使い物になりはしない」
ロアは、自身のスキルを自分の中で切り捨てる。
ビットを発動し、ゆっくりではあるが冒険者のフォローに4つのビットを全て回す。
カマキリ型の魔物を切り捨てた時。
目の前に現れた魔物の大群に、全員が動きを止めていた。
「嘘だろ?」
「ここでこいつらかよ」
泣きそうな声が聞こえる。
目の前に出て来たのは、異常な再生能力を持つ、オークの群れだった。
「シリュ!」
「大丈夫」
シリュが、魔物の大群に襲われたと思ったのだが。
リュイが使う絶対結界のビットで包まれ、シリュには傷一つ無い。
シリュを包み込んだと思った魔物は、シリュを包む絶対結界に触れると同時に、黒い炎に包まれ焼き尽くされていく。
「シリュは、大丈夫です!」
リュイの声に安心し。
俺はドンキを、いやドンキだったものを切り裂く。
しかし醜く体の輪郭をゆがませたドンキは自分が切られても、笑っている。
斬られた場所から血が噴き出し。
それが、さらなる魔物と変化し。
襲い掛かって来る。
咄嗟にビットを出し、黒炎で焼き尽くす。
魔物を倒し終わった時、斬りつけていた傷は完全にふさがり、さらなる肉の塊が傷の部分に盛り上がっていた。
「お父さん!やめよう!」
シリュが叫ぶが。
ドンキはもう、言葉すら忘れたのか。
怒りの声しか聞こえない。
その右腕が振られ。
俺は咄嗟に後ろに下がっていた。
俺がついさっきいた場所に、大量の魔物が突然出現する。
その魔物をリュイの黒炎が焼き尽くす。
「【希薄の】転送か」
俺は苦い顔をしていたと思う。
そんな時だった。
シリュは目をつぶると。
自身の前にビットを発動させる。
4つの光りがシリュの前で回転を始める。
「シリュ?」
リュイが何をするの?と聞く前に。
回転するビットから、真っ黒な巨大なビーム砲のような魔法が発動した。
それは、ドンキのまだ人を残していた腕を吹き飛ばし。
地面にいた魔物すら一直線に薙ぎ払う。
「はぁ。はぁ」
一発撃つだけで、完全に息をきらしているシリュ。
4属性魔法を完全に同一に、同量の魔力で混ぜ合わせた、言わば、無属性の魔法砲。
「天才か」
思わず呟いてしまった俺に。
『マスターの子供ですから』
何故か、誇らしげにデータベースが声をかけてくる。
「お前まで、ワタシ、ヲ、ヒテイ、スぐが、ぐぅ、ぐぅぅ!」
これ以上ないほどの叫びを上げたと思うと。
ドンキの体が膨れ上がる。
3倍以上に膨れ上がった姿は、肉の塊といってもいい。
肉の中央に、ドンキの顔だけが浮かんでいるのが、やけに生々しかった。
「来ますです!」
ドンキの顔の目が見開き。
その口が開き。
光りのレーザーが飛んで来る。
俺は咄嗟に避ける。
リュイも、息が上がっているシリュを抱えてその光を避ける。
無数にも近い光線が乱れ飛ぶ。
攻撃が一旦治まった後。
ドンキから無数の触手とも見える手が生まれて来た。
「おいおい」
俺はその光景に思わず呟く。
その手一つ一つから、ポンポンと光の球が生まれ出す。
「【明星】」
俺の呟きとともに。
俺達の下にあった町の一画が、一瞬で溶ける。
そこにいた、冒険者も、町の人間も、魔物も全てを巻き込んで。
真っ黒な地面が、一か所。ぽっかりと穴を開ける。
しかし、それも一瞬。
黒い波は、その穴をすぐに埋めてしまう。
そして。
無数に近い、【明星】が光り。
無数のレーザーが、再び放たれる。
「きっついです!」
リュイが珍しく、声を荒げて叫んでいた。
絶対結界で防いではいるのだが、【明星】の効果までは防げない。
シリュに回復をかけ続けながらの結界張りはかなりつらいと思う。
「ドンキ!」
俺は、もう一度ドンキを切り裂く。
無数の手の数本を斬り落とし。
その顔に槍を突き立てる。
しかし、槍はドンキの顔の前で止まってしまった。
『絶対結界。盗まれました』
データベースの声に焦りが生まれる。
まったく動かない自分の槍を後目に。
ドンキの顔がにやりと笑い、肉の塊の中に沈んでいく。
代わりとばかりに、巨大な目が肉から生まれて来る。
巨大な目に、羽にも見える無数の手。
「ナクナレ。ホロベ。ハカイ ハ スクイ ナリ」
ドンキの欠片の一つもなくなったその声は、世界中に響き渡る。
【明星】の光りが、黄金から、暗闇に反転し。
ゲートとなる。
ゲートから、二つの頭を持つ竜が数えきれないほど出て来る。
魔物の竜。
「ウロボロス」
俺が何度も吹き飛ばされたその竜が、空中を埋めて行く。
上空から落下していく、巨大な二股の蛇も見える。
地面に落ちると同時に、猛毒と、消化液をまき散らし、再生を始めて行く。
そして。
白いアシダカがゲートから何体も出て来る。
そう。
羽を持ったアシダカが。、、




