慟哭
連日掲載します。終わりまで一気に行きます。
弾け飛んだ【皇】の体が、ゆっくりと落ちて行く。
体はすぐに元に戻るのに、戻った瞬間再び破裂する。
「当然だと思う。パパのマネは出来ないもの」
黒髪の少女が、いや、姿が変わったシリュが、そんな【皇】を悲しそうに見ていた。
俺は、そんなシリュをゆっくりと抱き寄せる。
少しびっくりした顔をしていたが。
そのまま俺の胸に顔をうずめると。
「ごめんなさい。離れてしまってごめんなさい。死んでしまってごめんなさい。体が、、、」
泣きじゃくりながら、あやまるシリュをしっかりと抱きしめる。
「シリュ。おいで、、です」
リュイが手を差し伸べ。
シリュはリュイの胸に移動する。
しっかりと抱きしめる二人を見ていると。
破裂して、再生してを繰り返す【皇】が地面に落ちる姿が見えた。
『EPシステムは、この世界の体じゃ耐えられません』
データベースの声が冷静に残酷に聞こえて来る。
ああ。
そう言えば。
「素体、変更とか、、、聞こえた気がしますです」
リュイが呟くのが聞こえた。
俺はあらためて、あの女神が言っていた事を思い出す。
「神の力を注ぐ事で、出来る事が増えるのです」
その一つが俺達そのものらしい。
【皇】が破裂する音は、泣いているようにも。わめいているようにも聞こえる。
そんな時。
弾けては再生する【皇】の前に、よく知った人間がふらふらと歩いて来ていた。
「なぜ、なぜなんだ。私はただ、会いたかっただけなのに」
そんな声が聞こえてしまう。
一気に老けたように、真っ白い頭としわだらけになってしまった男は、目の前で破裂しては再生するものを見つめる。
「君も、この世界から嫌われてしまったのですね。ほんとうに、この世界は。嫌いです」
そう言いながら。
破裂する血を浴びながら。
肉塊に触れるドンキ。
そして。
肉の塊は、ドンキの中に消えて行く。
「ふふふ。そうですね。そうですよね。無くなればいい。私の思いも。私の気持ちも。何もかも踏みにじるこの世界など。私の事など気にもしない世界など、何もかも無くなってしまえばいい!」
ドンキは両手を空に掲げ叫ぶ。
その瞬間。
ドンキの周りから、爆発的に魔物が生まれる。
【皇】が出していたゲートからも、鳥の魔物、虫の魔物などが無数に出て来る。
今まで、人々の命を支えてくれていた豆が突然巨大化し。
いくつもの冒険者を掴み、飲み込み。
空を覆いつくし始める。
「無くなれ!全て!この世界も!この私も!」
ドンキの叫びは、呪いにすら近い。
その姿を見て、シリュは叫ぶ。
「お父さん!やめて!」
しかし、ドンキはシリュを見ると。
「ああ。アンナ。いや。違う。君はアンナじゃない。アンナは、優しく、それでいて、何も言えない弱い子だった。君はアンナの姿をした、別の子だ!私のアンナじゃない!」
ドンキが頭を掻きむしりながら叫ぶ。
その叫びに呼応するかのように、黒い塊が大量に生まれる。
「危ない!」
リュイが、シリュをかばい、上空へと逃げる。
無数の黒い虫の雲を見ながら、二人は茫然としている。
そんな二人を恨めしそうに見ると、ドンキは俺を睨みつける。
「君は、ナニモノなんだい。君は何もかも持って行くのかい?僕が、私が、俺が、手に入れられなかった全てを持って行くのかい?」
穏やかに、しかし憎悪すら含んだ目を向けて来る。
「僕が、どんな思いでこの世界を乗り切ってきたか、思い知らせてあげるよ!」
ドンキの叫びは、さらなる魔物を生み出し。
その魔物が、別の魔物をゲートから呼び寄せる。
一瞬にして、地面は魔物で埋め尽くされていく。
「もっと。もっとだ!絶望を超えた絶望。諦めを超えた無力感。あがけばあがくほど、沈んで行く闇を思い知るがいい!」
ドンキの叫びは、生きる物の悲鳴にすら聞こえる。
この世界を、必死に生きて来た者の最後の悲鳴。
「親父!」
ファイが、犬鳥で飛んで来るのが見えるが。
一瞬で黒い魔物の雲に飲み込まれてしまう。
「パパ、ごめんなさい。シリュが、悪いの」
シリュが、必死に我慢している。
今にも泣き崩れそうな顔で。
「シリュが、ドンキさんを拒んだから。パパを助けなきゃって、思ったから。だから、ごめんなさい、したの。私、アンナじゃないって。パパの娘のシリュだって」
涙目のまま呟くシリュの頭を撫でてやる。
「大丈夫」
俺は分からすように、つよくシリュの黒髪をしっかり撫でてやる。
「パパに任せろ」
俺はそれだけ言う。
ドンキは今も魔物を生み出し続ける。
空も。
陸も。
きっと海すらも。
魔物であふれかえって行く。
『始まりました。大進撃です』
データベースの冷静な。それでいて、絶望を告げる声が響く。
「これが、、、」
リュイが泣きそうな顔をする。
生まれた魔物も、出て来た魔物もどこか戸惑っているようにも感じる。
数だけ増えていく魔物達。
カウントの総数は見た事の無い数になって行く。
「何もかも、奪っていくのなら、こんな世界など、何もかも、無くなればいい!!!!!」
ドンキの子供のような心の声が。
悲鳴が、慟哭が、世界中に響き渡る。
その瞬間。
全ての魔物の目が、赤く光る。
絶望の10億が、動き出した。




