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うるさい。


目ざわりな男はいまだに笑っている。

俺は、黒い炎を片手で打ち出す。


竜の形をした炎は、男を包み込み。

しかし、笑いながら男は、無数の武器を俺の中に生み出して来る。


自分の心臓に転送されて来る武器を察知して、俺は体をずらし。

自分の体ごと転送された武器を自分の羽で消滅させる。


一瞬で消え去る脇腹も、同じ速度で元に戻っていく。


「さすが、さすがだよ。竜の王。神の使い」

男は笑いながら、俺が放つ竜を避ける。


避けきれなかった腕が、足が破裂するかのように消滅するのに、すぐに復活してしまう。


面倒だ。

俺も、あの男も。


絶望が、怒りが。


全ての色を黒く塗りつぶしていく。

全てを消し去ろうと俺は自分の持っている力の全てを解放しようとしたとき。


「やめてくださいです」


背中から羽交い絞めにされてしまった。


暴れるのに、何故か振りほどけない。

「シュン様が間違えたら、私も一緒に償うです。シュン様が闇に沈むなら、私も沈むです。でも、子供達が泣くですよ」


優しい言葉が、ひどく耳障りだ。


子供は、俺の子供はいま、腹を引き裂かれたじゃないか。

そう言いたかった。


だが、言葉に出来ない。

目の前で見たのに、口にする事で現実だと認めたくない。

なのに、怒りだけは。

悲しみだけは、後からあとから湧き出て来る。


「大丈夫。シュン様の苦しみは、私の苦しみ。一緒にいつまでも抱えていくしかないのです」


その言葉から、絶望が感じられる。

しかし。

心の中に、ほんの少し。

ほんの少しだけ、炎が見えた気がした。


「闇を引き受けるのは、私です。黒を受け持つのは、私です。だから、シュン様はいつまでも、炎であってください」


俺の中の明かりが、少し大きくなる。

「シュン様が闇に落ちるなら、私は炎になります。明かりになります。だから、」


あなたが

闇に堕ちたら、私が照らします。

私が

闇に堕ちたら、あなたが照らしてください。


それが、相石であり。

家族なのです。



ああ。

リュイが泣いている。


いや。

俺の心が、血を流している。


なのに。


「マスター。一人が抱える事はありません」

「私たちも、一緒にかかえるの」

「だから。もう一度・・・・」



俺の中で聞こえる多くの言葉が聞こえて来た時。


「お父さん。。。ただいま。。。」


俺が今一番、聞きたかった声が聞こえてきた。

いや。

声は違う。

姿は違う。


しかし、俺には分かった。


犬鳥と同じ、大鷲のような羽を羽ばたかせて、飛んでいる知らない少女。


しかし。

「シリュ」

リュイの泣き声が聞こえる。


俺は思わず叫ぶ。いや。

号泣している事に初めて気が付いたのだった。



シュンの叫び声とともに。

いや、泣き声とともに。


世界が光に包まれた。


一気に光が広がる。

黒い羽は、綺麗に輝く光となる。


黒い光は弾け飛ぶかのように消え去り。

虹色の光りに、町全体が包まれる。



「え」

「ママ、やった!パパが戻ってくれたの!」


ミリが叫ぶ。

凄まじい犠牲を出しながら、なんとかバジリスクを食い止めていた西方都市の兵士達は、全員空を見上げていた。


突然降って来た、七色に光る羽は最悪の敵だったバジリスクの体を綺麗に消し去って行く。


今まであれだけ苦労していたのに、いともあっさりと。


暴れるバジリスクの毒も、消化液も。

何もかもを消し去っていく。


「本当に。彼は無敵だね」

アムの呆れた声が状況を的確に表現していた。


「そういえば、ドンキ様は何処に行ったのですか?」

アムを微笑みながら見ていたが、一人いなくなっている事に気が付いたサラが呟く。


だが、誰一人その行方は知らなかった。




町の中。

大量の魔物と、大量のトラ型の魔物に囲まれていた冒険者たちも、空を見上げていた。


町に降って来た虹色の羽は、目の前の魔物が夢だったかのように全てを消し去って行く。

「う、腕が動く・・・」


完全に折れて動けなくなっていた片手を動かしている冒険者がいる。

「目が、見える」

潰された目が見えるようになったと言う冒険者がいる。


「奇跡ってのは、起こるんだな」

冒険者はぼそりと呟いていた。



「ロア様」

冒険者たちと道を作っていたライナが立ち止まる。


町に降り注ぐ七色の羽。


あまりに綺麗で、この世のものとは思えない景色。


「シュン、、、君か?」

「多分、そうだと思います」


失った右目が、温かい。

シュンの優しい光に包まれているような感覚。


「いつまでも、優しすぎる人ですね」

ライナは、自分の無くなった目を押さえながら、涙ぐんでいた。





「ふざけるな!ふざけるなぁ!」


【皇】は混乱していた。

殺したはずの娘が、何故飛んでいる?


堕ちたはずの男が、何故戻って来た?


全てを壊して。

世界を無くして。

帰る道を作るはずだった。

この世界に行く場所が無くなれば、別の世界へ。別の星へゲートは繋がる可能性があったのだ。

そこを通って、自分は帰るはずだった。


元いた場所へ。

途中、どれだけの世界を壊そうとも、どれほどの星を消そうとも。

帰るはずだった。


なのに、全てが終わってしまう。


「ふざけるなぁ!!!」

【皇】は自分が持つ武器全てを、突然現れた少女の体の中で具現化させる。


無数の武器に切り刻まれるはずだったのに。


七色の羽は、少女を一切傷つけず。

武器だけを消滅させる。


「ふざけるなぁ!」


狂ったように【皇】は自分のステータス表示を開く。

EPシステム。


今までエラーとなっていたそのスキルが使えるようになっている。

あの男の娘を取り込んだためだろう。


【皇】は笑みを浮かべる。

今、地面にいる全ての魔物を犠牲にして。


俺は最強になる。



【希薄】の力で、魔物の中に【明星】を送り込み。

【空間】の力で、目に見えない場所の魔物にすら送り込む。


一瞬で大量の魔物を殺し。

1千万も達したEPをステータスに振る。


「これで最強だぁ!」

【皇】が叫んだ時。


皇の耳に、いや。

体の中から声が聞こえた。


「「パパのマネはダメだよ」」


その瞬間。


【皇】の体は、はじけ飛ぶように破裂した。






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