世界を。
絶望にも近い数の魔物の中。
ガラスが無数に割れる音をさせながら、とある一団が王都の町を駆け抜けていた。
「星流剣!」
アムの声が響き渡る。
普段ならありえない、6連撃が魔物を切り刻む。
「アム様は、守ります!」
サラも、蟻を一刀の下、切り裂いていた。
ビットが、蟻の進路を魔法でふさぎ。
「いっけぇ!」
レイアの爆音が響き渡る。
激しい音とともに、燃える魔物の横を、目にも止まらない速度で走っていく小さい影。
まったく追いつけない影にいらついていたトラは、小さい影を見つめたまま真っ二つになる。
「ミリ!右を!」
「ミオも!もうちょっと倒して欲しいの!」
ミリが駆け回り。ミオが切り裂く。
二人の連携で、明らかな道が出来始めていた。
その道を確保するかの如く。
黒い竜が、黒い弾を吐き出す。
その道を走るアム達一行。
「あと少しだ!王都から抜けれるぞ!」
アムの声が聞こえる。
絶望の数の魔物と、絶望を振りまく黒い羽はまだ降り続けている。
しばらく走り。
王都を後少し出れると言ったところで、一団の中でしんがりを務めていたロアは、突然立ち止まった。
「ロア様?」
ライナが怪訝な顔をすると。
「ライナと、レイアは行ってくれ。僕は、ここに残る」
その言葉に。
ライナは、自分の杖を無言で振る。
無数に生まれた氷は、ロアの後ろにいた熊の魔物を一瞬で氷漬けにしていた。
「どうせ、町の人を助けたいと言うのでしょう。着いていきます。私はあなたの妻ですから」
「当たり前だろ?冒険者もいっぱいいるんだ」
レイアも笑っていた。
二人の言葉に、ロアは苦笑いを浮かべていた。
「今の顔、シュン様にそっくりですよ。ロア様」
笑うライナ。
そう。人は絶望を前にすると、笑うのだ。
ロアは、そんなどうでもいい事を考えていた。
「シュン様!」
真っ黒な。
そう言うしかない、自分の相石に叫ぶリュイ。
聞こえていないのか。
シュンは、無言で片手を突き出す。
ビットが一瞬で集まり。
黒い鳥が片手から高速で飛び出す。
その光を、まともに受けながら、笑っている男。
再生阻害の力があるはずの黒炎をくらってなお、高速再生していくその体が、不死を物語っていた。
男の攻撃は、全てシュン様には届いていない。
速さが違う。なのに、倒せない。
「ははは。僕を、俺を、私を殺して見せてよ。殺してみろよ!」
まるで、目の前の男は、何人もいるかのようだ。
殴られ、はじけ飛ぶのに復活しては、笑っている。
シュン様の左足が、突然現れた巨大な刃物に切り離され、一瞬で再生する。
まるで現実とは思えない戦い。
その二人の姿に思わず震えるリュイ。
二人とも、人では無い。人でも竜でも無いナニカだ。
「人でなくても」
私はあの人を守る。あの人の相石なのだから。
笑う【皇】の背中に、力いっぱい斧を振り下ろす。
「は?」
呆気に取られている男の顔はシュン様の一撃で、一瞬で真っ二つになる。
二人で切り刻む。
そう。細胞の一つすら残らないように。
「ふざ、、おい、、おまえら、、、」
【皇】が叫んでいるが、気にもならない。
子供を殺された私たちの怒りはこんなものじゃ治まらない。
それこそ。塵すら残らないほど切り刻んだ後。
「まったく。切られたらやっぱり痛いんだから、手加減はして欲しいものだよ」
男は私たちの上空で笑っていた。
「死なない同士の戦いだ。楽しもうじゃないか」
笑う男に。
私たちは怒りを乗せて襲い掛かる。
空が一瞬。紫に光り。
激しいプラズマの光りが空を包んでいた。
「抜けた!!!」
ミリが王都の城壁を抜けた時。
その足を止めていた。
「ミ、、リ、、、?嘘だろ?」
ミオもその手を止め、茫然とする。
そう。目の前には、本来いない魔物。
二つ頭の蛇がこちらを睨んでいた。
最強最悪の魔物。
毒と、生物を溶かす力を持った悪魔。
バジリスク。
「いや、勝てるわけが」
ミオは小さく呟く。
その脅威は、寝物語に良く聞いていた。
父親の強さと一緒に。
その二つの口が開き。
溶解液が二人に飛んで来る。
命中する寸前。
布が目の前に広がる。
その布にバジリスクの溶解液は当たり。
止まっていた。
「ほら。急ぐぞ!」
ふと後ろを見ると。
黒い猫に乗った黒髪の男。
「ヒウマのおじさん!」
「ほら、行くぞ!」
「幼馴染の腐れ縁にゃ~。乗っていいにゃ」
黒い猫より少し小さい猫が呟くようにしゃべっていた。
「にゃう?」
「いいから、乗るのにゃ!」
怒り気味にしゃべる猫に思わず笑いが出る。
一緒に怒られて、一緒に笑った幼馴染。
ヒウマとにゃんさんの子供。
にゃあだった。
ミオは、笑いながらにゃうに乗る。
「振り落とされたら、承知しないにゃ!」
叫ぶにゃあ。
「分ってるよ!」
ミオは叫び返しながら、飛んでくる溶解液を避けるにゃあにしがみつく。
「飲むの!」
突然、手の中に現れる薬のビン。
戸惑っているミオを急かすにゃあ。
思わず一気飲みする。
そして、吐きそうになった。
「にがぁ!」
「毒の中和剤にゃ!文句言わないのにゃ!」
叫ぶにゃうに、ミオは口を拭く。
「いっくにゃ!」
「おらぁぁぁ!」
二人の獣人は一気にバジリスクに突っ込んで行く。
「あの無鉄砲さは、ヒウマゆずりなの」
呆れるようにその姿を見ていた、にゃん。
「だが、いいじゃないか」
全てを諦めた。
家族のために、強くなる事も。英雄になる事も。
しかし。
「死ぬわけにはいかない」
ヒウマは、その顔を引き締める。
もう一人の息子。
テンマがきちんと仕事をしてくれている事を祈りながら。




