表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
255/312

赤い、赤い絶望

閲覧注意です。 一気に暗くなります。

目を離さなければ良かった。

城の中だから安全だと思っていた。

魔物の倒して、落ち着いていたから危険はないと思っていた。

良い訳はいくらでも浮かぶ。


ただ一つ。

油断していた。


俺は後悔と悔しさで破裂しそうなになりながら、空中からシリュを探す。


『シリュ、該当なし』

データベースも焦ったような声をしている。


(いません)

双子のそばを離れる事は出来ないため、リュイも、ビットをフル活用してさがしてくれているのだが、シリュを見つける事が出来ない。リュイの心の泣き声が聞こえる。


そんな時だった。


シリュが。

暗闇の空に。


空中に。


つるされていた。


その横に浮かぶ男が笑っている。

黒い体に、異様なほど太い足。


その男がシリュの片手を持っている。


「手に入れた!手に入れたぞ!全てを超越した男と、全てを内包した女の遺伝子を!!」


俺はその光景をまるで映画のスクリーンのように見ていた。

空中に浮かぶ男の手を。

シリュを持つ手とは反対の手に握られている肉の塊を。


シリュの。

ぽっかり空いたお腹を。

ぼたぼたとしたたり落ちる血は、誰のものだ?


男は。かつて【皇の】と呼ばれたその男は手の中の肉塊に貪りつく。


その小さな塊を飲み込む音が、永遠のように感じる。


光りがなくなった目が。シリュの体が。娘の体が落ちて来る。


俺はシリュを受け止める。

お腹に空いた穴が、冷たい体が。

現実を押し付けて来る。


守ると誓ったのに。

こんなにあっさりと。

俺の心が、悲鳴を上げる。


(人は一瞬で死ぬよ)


そうだね。

本当に一瞬で死ぬ。


狂ったように笑う男をゆっくりと見る。


(ダメです!!!!!!!!)

リュイの声が聞こえる。

しかし、それすら遠くなる。


『助けて!誰か!ダメ!マスター!!』

聞いた事のある声が頭に響く。


気にもならない。


(戻って来て!)

そんな声が聞こえる。


黒い小さな竜が、俺に体当たりをしてくる。


うるさい。


その竜を片手ではたき落とす。


加減をしなかったから、破裂したかもな。


俺は笑う。

心の中に、体中に。


絶望と一緒にこみあげてきた黒い感情は、留まる事を知らない。


「さぁ。これで、お前も、俺と一緒だ」


黒い男が何かを言っている。


うるさい。


何もかも。

目ざわりだ。


王都の一部が光った気がしたが。


俺は自分の絶望を、解放した。





「ママ?」

号泣しているリュイを見て、ミオとミリが不思議そうに見る。

しかし。

その二人をしっかり抱きしめる。


「痛い」

「痛いの」

二人が小さく呟くが。

リュイは止まらない涙を流し続ける。

二人が、不思議そうな顔をしていると。

「ダメ!!!シュン様!!!!!誰か!!!助けて!!!!!」


リュイが突然叫び出した。

その場にいた全員が怪訝な顔をした瞬間。


リュイの周りと、アムの周りで、ガラスが割れるような激しい音が響く。

「アム様!!!」

サラがアムの傍に走る。

ロアや、ライナ、レイアもアムの傍に走る。


そして、アムの周りの絶対結界が割れては張り直される。

「全員、リュイさんのそばへ走れ!!!」

アムが叫び、走り出す。


大広間は絶望と、叫ぶ声で埋め尽くされる。

突然降ってきた黒い羽は、触れた手を。

顔を、消しゴムで消すように消滅させていく。

唯一、絶対結界のみが、相打ちになる形で、その羽を消滅させていく。


黒い羽は、町を。

人を、全てを飲み込んで行く。


「ママ。これ」

「パパ?どうしたの?」

ミリとミオは気が付いたらしい。

「大丈夫。パパはママが守るから」


リュイはさらに小さく呟く。

走ってくるアム達に絶対結界を張りながら。





「くくくく。本当に、優しくないよね。この世界は」


自分の胸を貫いた腕を優しく撫でる、男。

俺は怒りと、絶望で歪んだ目で、前の男の顔をうっすらと笑いながら見る。


「うるさい」


ばさっと、男を貫いた自分の腕から黒い羽が膨れ上がる。


黒い羽は一瞬で、男を消滅させる。

なのに。


たったひとかけら。

たったひとかけらの肉から、男は逆再生でもするかのように復活する。


「さすが。君の遺伝子。神に愛された。いや、神そのものの体をもらった男だね」


【皇の】は笑いながら空中に立っていた。

「君自身も知らなかっただろう?僕も、この前知ったからね」


「君の片手をもらった時にね。気が付いたんだ。これは、神の体だとね。なのに、君の息子の体も食べたのに。君すら食べたのに。君の力は何故か発動しなかった。考えたよ。なんでだろうってね。もしかしたら君の娘ももらえば、発動するんじゃないかと思ったんだが。大当たりだね。今、本当に力が満ち溢れているのを感じるよ。本当に、君は化け物だね」


しゃべりながら、俺にさらに片手を吹き飛ばされ、しかし一瞬で再生する。

自分の片手を愛おしく撫でる【皇の】


「全てを総べる者にやっとなれたよ。これで、やっと行ける」

笑顔をずっと浮かべている【皇の】いや、【皇】と言うべきか。



「全てを消し去って。この腐った世界に復讐して、戻ろうじゃないか!!君も来るがいい!!この体をくれた君なら、一緒に帰る権利を上げようじゃないか!!」


上空に、巨大な。

本当に大きな、紫の光りが生まれる。


ゲート。

そう言われる物。


そこから、何万。何千の魔物が降って来る。

地面に落ちた魔物は、潰れ。

さらにゲートとなる。


無数のゲートから出て来る無数の魔物達。


黒い羽で消されてしまった家に。

城壁に。

魔法結界に。


その狂気を止める事は出来ない。


「さぁ。復讐の始まりだ!!!」


【皇】の声は、国中に響き割るようだった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ