宴を楽しむものたち
「やはり、すばらしい。4Sを継承されたとの事で、これから、等しくお付き合い願えればと思いますな」
「いやいや。敬と一緒に私もお付き合いいただければと思うのです。そういえば、わたしには娘がおりましてな。背が伸びず、子供のような子なのですが、ぜひ、シュン様にお会いしたいと言っておるのですが」
祝賀会。
王都の絶体絶命状態から、助かった喜びから、アムは城で祝賀会を開くと言い出したのだ。
しかも、城の中庭やら、ワイバーンを係留している広場まで解放して、町の人間まで呼んでの大祝賀会だ。
俺のワイバーンを見て、子供達がはしゃいでいる声と、大人たちがおびえている声が聞こえて来る。
俺をいつも乗せてくれるワイバーンは、まだ本調子じゃないから、あまりストレスを与えたくはなかったのだが。
「ワイバーンを従える4Sの一人。それが、どれだけ皆の希望になるか考えた事あるかい?」
にこやかにアムに言われてしまっては、断る事も出来なかった。
(君も、王族の一人として、民の心を安心させる手伝いをしてくれよ)
あきらかにアムの笑っていない目は、そんな思いを伝えて来ていた。
「シュン様は、わたしがお守りしますから、大丈夫です」
貴族にからまれ、娘を紹介しようとやっきになっている所に、リュイが近づいてくる。
俺の腕に手をからませ。
にっこりと笑う。
俺は180近くまで背が伸びているのだが、リュイも、融合後の身長は、170近くある。
竜の姫の体と融合しているからか。
そのスタイルは、モデル顔負けだった。
その上に、幼くも見える、小さい顔が乗っているのだ。
圧倒的な美少女と言ってもいいリュイを見て、すごすごと引き下がる貴族たち。
「釣られたらダメです」
リュイに本気で怒られる。
もともとドワーフでもあるリュイは、樽一杯は飲んでいるはずなのだが、まったく酔った気配はない。
俺も、だいぶん飲んだ気がするのだが、まったく酔わなかった。
こんなところにもリュイと同期した影響が出ているのかも知れない。
そんなとうでもよい事を思っていると。
「国王様、拝見!」
そんな大声が聞こえる。
アムは、これでもかと綺麗な服を着ていた。
「今回の騒動は、みなも良く知っているだろう!多くの犠牲が出た。魔物が存在する以上、これからも出るだろう!だが、わたしは、魔物に巻けるほど、やわな国を作ったつもりは無い!この国に住む全ての民は、わたしの誇りであり、わたしの支えである!」
「そして、私たちは、神から使わされた剣がある!盾がある!彼は、わたしの友であり、剣であり、盾である!そして、我が妹の連れ合いでもある!彼が、私の傍にいてくれる限り、この国は、繁栄し続けるであろう!」
アムは、少しいたずらっぽい目で俺を見る。
俺を使って、皆をまとめるつもりらしい。
「帝国に!民に!冒険者に!そして。シュンリンデンバークに栄光あれ!!!」
アムの声の後。
一斉にあちこちで乾杯が始まる。
俺に近づこうとしていた貴族たちは、俺にさらに近づこうと話しかけようとしてきていた。
その時。
『シリュが!!』
データベースの声が聞こえた。
俺と、リュイは目を合わせる。
二人同時にマップを展開する。
1万人近くいる、城の大広間に、シリュがいない。
俺は咄嗟に大広間からバルコニーへ、そして暗い夜の町へと飛び立つ。
リュイは、すぐに、美味しいごはんを小さい口に詰め込めるだけ詰め込んでいる、双子を捕まえていた。
何が起きたのか。
まったく分からなかった。
「おう!俺と勝負しろ!」
何人目だろうか?
シリュは、ため息を吐いていた。
貴族の子供達になぜか何回も戦いを挑まれたり、話しかけられたりと、忙しすぎてご飯もゆっくり食べる時間が無い。
くりっとした目を回しながら、シリュは、目をつぶる。
ビットが生まれ。
勝負を挑んできた貴族の男の子は一瞬で尻もちをついていた。
まさか、本気で魔法を使うわけには行かないので、魔法障壁で軽く押してあげただけなのだが。
「卑怯な!」
なんて騒いでいるその子を無視して、その場を離れる。
あまりにもいろんな人に話しかけられすぎて、お父さんと、お母さんを見失ってしまった。
「探さなきゃ」
不安になりがら、シリュはビットを出し、自分の両親を探そうとする。
ビットを出し、目をつぶり、探索する。
すぐには、お父さんも、お母さんも見つけれなかった。
少し休もうと目をつぶっていたシリュが再び目を開けた時。
目の前に、ソレはいた。
黒い体。
服を着ているようにも見えるのに、裸にも見える。
足だけが異様に太く感じる。
本当に人間? 魔物? 分からない。
明らかに、この場にいる誰よりも異質な空気。
「だれ?」
シリュが叫ぶ。
なのに、声は口から外へ出てくれなかった。
その時になって初めて気が付いた。
これだけ異質な存在なのに。
場違いな人なのに。
だれも、彼に気が付いていない。
「君のお父さんと縁の深い者だよ。そう。ほんとうに、深くなってしまった。もっと早く、始末しておけば、良かった」
男はうっすらと笑いを浮かべる。
シリュは、危険を感じた。
「助けて!」
叫んだつもりが。
口は開いても、声は出ない。
自分の事も、相手の事も皆が見えていないのか。
だれひとり、シリュ達を見る人すらいない。
「やっと手に入れたんだ。【希薄の】忘れ形見を。すごいと思わないか?その力のおかげで、君と、僕は、今時空がズレているんだよ。本当にすごいことだと思わないかい?」
男は笑う。
シリュは、震えることしかできなかった。
「さぁ。ピースはまだまだ、足りない。君の中にある、彼の力を僕にくれないか?」
男は小さく笑う。
「君の子供でもいいんだよ」
男は、どこまでも邪悪に染まっていた




