戦いの後。寄り添う者たち。
「愛羅舞竜・終!」
リュイは、空中から再び火の鳥を生み出していた。
残党狩り。そう言ってもいいと思う。
地上にあふれている無数の魔物を焼き尽くす火の鳥。
時々、唇を奪われるのは、気のせいだと思いたい。
データベースが、『やりすぎです。もういいと思います。今、そのキス必要ですか?』
などと突っ込みを入れてくるのも気になる。
その全てを無視して、リュイはうきうきで、自分でビットを生み出し。
そのビットから黒炎を辺りにばらまき敵を殲滅させ。さらには、追加といわんばかりに何度も火の鳥を生み出している。
心まで一つになったせいか。
リュイが、はしゃいでいるのが分かる。
リュイのはしゃぎっぷりに冷めていたりしたけど、やっぱりリュイの高揚に引っ張られてしまう。
「炎竜」
俺は、それだけ言うと、自分で火の鳥を生み出す。
別にスキルの名前を叫ばなければ使えないと言ったルールは無い。
リュイからは、「言って欲しいです。私と、シュン様の絆のスキル名です」
と聞こえるのだが、あえて無視する。
「ひどい。嫌いになるです」
そんな気持ちすら聞こえて来る。
ドンキの言った通り、キングインセクトがいなくなると、魔物が増えなくなったのだ。
今、ビットでの攻撃、二匹の火の鳥の攻撃で、地面は本当の意味で火の海となっていた。
森ではなく、ひらけた平地で良かったと思う。
森なら、大火災待ったなしだった。
殲滅戦が落ち着いてきたので、リュイのステータスを見たのだが、俺とほぼ同じステータスになっていた。
全てが万越え。さらに、スキルまで一緒になっている。
リュイのスキルは、俺が使える。俺のスキルはリュイも使える。
さらには、リュイが倒した敵からもEPが入ってくるため、すでに二人合わせてEPは300万近く溜まっている。
普通の飛ばないアシダカが、リュイの斧の一振りで縦に真っ二つになるのが見えた。
地面に降りれば、二人のどちらかが張った絶対結界が、円を描くように回っており、全てを切り裂いて行く。
リュイが作った絶対結界は、敵を求めて飛んで行く。
「シュン様。シュン様の見ていた世界が見えるって、楽しいです」
自分でビットを自由に動かして喜ぶリュイ。
カマキリの魔物が飛んで来たところを、槍で殴って叩き落とす。
ふと見ると、嬉しそうに飛びまわるリュイを見て俺も思わず、笑顔になる。
辺りを飛んでは、戻ってきて俺に抱き着き。再び飛んで行き、敵を殲滅する事を繰り返すリュイ。
はしゃぎすぎだと思う。
しかし、そのテンションのおかげか。
魔物はすでに半分以下になっていたのだった。
日も落ちかけた夕暮れ時。ほとんどの魔物が殲滅されて魔物の数もまばらになって来た頃。
ふと、気になる空き地が空中から見えた。
俺は、ビットをその場に残したまま、その気になる場所へと飛ぶ。
俺が着地したところは、完全に朽ち果てた村だった。
近くにあった森とも呼べない丘は、すでに無くなっていた。
地面は黒く、ほぼ何も残っていない。
忘れないでと言わんばかりに、家の土台だった木々が、地面に突き刺さっている。
ゆっくりと俺はその中を歩き。
クレーターの中心を見つめた。
その中心。
そこに、小さな小さな何かが落ちていた。
半分埋まっていたそれを拾ってみると、見覚えのあるもの。
手作りの熊の腕の無いぬいぐるみ。
俺はそれを抱きしめる。
幼馴染。そういっていいものか。隣のよく笑っていたあの子を思い出す。
何も残っていない。
それでも。
俺が動けないでいると、そっと後ろから抱きしめられる。
「大丈夫です。私がいるです」
リュイが、泣いていた。
俺の代わりに。
誰もいない。
何も残っていない。
それでも、思い出はたしかにある。
「ああ。大丈夫」
俺は自分の胸に回されたリュイの手を握り返す。
俺にも家族が出来た。
守る物が出来た。
「行って来る」
そう言って、斧を持って出て行った父親。俺を守るため、俺の身代わりになった母親。
「今度は、守るよ」
俺は、クレーターの中で改めて自分の両親に誓う。
俺を守ってくれた母親。勝てもしないと分かっても出て行った父親。
彼らのように。
俺も、全力で守る。
家族を。
心を新たにしていると、後ろからささやかれる。
「私たち家族は、守られるのではないです。あなたを守るのです。そのための私で、そのための子供達です」
リュイの言葉は優しく。俺はリュイに抱きしめられていたまま。
「間違えないでくださいね」
その言葉に。俺はただ、動けないでいたのだった。
透き通るほどの綺麗な星空の下。子供達には、見せられない顔をしながら。
「「「遅い!!!」」」
王都に帰るなり、迎えてくれたのは子供達の怒りの声だった。
それを聞いて、俺は、リュイと顔を合わせ。
二人で笑っていた。
「おかあさん?変わった?」
シリュが、リュイを見て首をかしげる。
「ママ、強くなりすぎなの。勝てないの。パパだっかん作戦不可能なの」
ミリが小さく呟いている。
「ママが、怖い。絶対逆らったら死ぬ」
ミオが震えている。
そんな子供達を撫でまわしながら。
「ただいま」
それだけを伝えるのだった。
「ありがとう。それだけしか言えないね」
アムは、俺に向かって小さく頭を下げる。
王都の炎のカーテンはすでに無くなっていた。
ほぼ魔力が尽きる事のなくなった俺とリュイのビットは、無数に飛び回り、未だに魔物を殲滅させているのだが、今では、冒険者も町の外に出て、狩りに参加する程度には落ち着いていた。
「一日経たずに解決してしまうとは」
あきれ顔の将軍は、ただただ首をすくめる。
サラは、珍しく、何故か胸が大きく開いたワンピースを着ていた。
腰に申し訳程度の剣を刺しているのだが、あきらかに違和感がある。
ロアはというと。
ライナと二人で、俺にずっと頭を下げている。
「会議の後。ライナにこってりとやられたのよ。アムを守れたのはシュンがいたからでしょ。っつてね。今回も。シュンがいるのだから、あなたはやれることをやりなさいってね」
レイアが、俺に近づいてきて、ぺろっと可愛く舌を出す。
俺は苦笑いを返すしかなかった。
それで、冒険者たちがこんなに早く、討伐に出ているのか。
俺が納得していると。
傍にいたリュイが、レイアと親しく話をしている事に、やきもちを焼いていた。
お互いの感情が丸わかりなのも、どうかと思うが。
まぁ。隠し事は絶対にできなくなってしまった事だけは確かだった。
そんな事を思いながらも、騒動はひと段落したのだった。
王都の中。
誰も入れないと思われる、厳重な地下牢の一室。
すでに使われなくなったその場所で、小さな明かりがともっていた。
「同期とは。そんな事、考えもしなかった。別の個体に同じ特徴と、同じ機能を付与する。なんとすごい事か」
初老の老人は、薄暗い部屋の中興奮していた。
「ならば、彼らと同期できれば、希望はあるのか?いや、彼らの子を使うのもありか」
目の前には、何かの液体に浸された少女の体が浮いていた。
「ここでしか、作れなかった。最後の個体。なんとしても、、、」
初老の男は小さく呟く。
その手には、目の前の少女と同じ似顔絵が握られていたのだった。




