ムシ型要塞
「竜と言われて、しょんぼりしているシュン様は可愛いです」
リュイに、空中でそんな事を言われてしまう。
子供達は、王都に置いて来ているので、今はリュイと二人で飛んでいる。
子供達は着いて来ると聞かなかったのだが。
「はっきり言います。今は、パパとママに任せなさい。あなた達が来ても、邪魔なだけです」
リュイがはっきりと子供達に伝えたため、子供達は思いっきり泣いたり、傷ついた顔をしていた。
が。
「怪我でもされたら、ママが泣いてしまいます」
そのリュイの一言で、子供達は納得させられてしまった。
本当に。母親は強いと思う。
そんな回想をしている間も、すぐ横で巨大ススメバチの魔物がビットに真っ二つにされて収納されていく。
昆虫の魔物なんて使い道が無い気もするんだが。
そんな事を思いながら、真っ黒にうごめく地面を見ながら俺達は飛んでいた。
地面は全て魔物で埋め尽くされている。
『総数変更。600万前後」
そんな声が頭の中に聞こえて来る。
600万の魔物が地面を埋め尽くすとこうなるのか。
改めて下を見て、少し震えてしまう。
600万。普通なら絶望の数。
しかし、これから来るのは億の大進撃。
そう思うと、絨毯のように魔物がいる状態の数十倍、数百倍と言う規模に泣きたくなる。
「大丈夫です。リュイも、竜です。だから、シュン様も竜で間違いは無いです」
いろいろと気を使って慰めてくれていたのか。
リュイの慰めの言葉が、なんだか分からない事になっていた。
俺はリュイを見て、少し笑う。
リュイは、顔を赤くして必死に慰めてくれていた。
抱きしめたいな。そんな事を思っていると。
『射撃!!』
そんなアラームが頭に響く。
「リュイ!」
俺は叫びながら回避行動をとる。
リュイも、反対へと避ける。
俺達の横を、プラズマのような巨大な光線が通り過ぎて行く。
その光は、ゆっくりと地面に落ちて行き。
大量の魔物を巻き込んで、地面ごと消滅する。
真っすぐの道が出来ていたが、すぐに魔物に埋め尽くされて道は見えなくなる。
『超長距離からの、魔法攻撃です』
そうデータベースは言って来るが。
「魔法とか、そんなレベルじゃないぞ。今のは。都市を狙われたら、流石に魔法結界だけじゃ防げない。宇宙船の主砲か?」
「今のは、少し危なかったです」
リュイの顔にも少し焦りが見えている。
そのプラズマ魔法が打ち出された方を見てみると。
ビリビリと山が光っていた。
いや。何もない場所が、山のように光を放っていた。
その光る山の下には、魔物が一匹もいない。
光りはどんどん中央に集まり出し。
「リュイ!!」
俺の言葉に、リュイは俺のワイバーンに乗る。
ワイバーンの周りに、球体型の絶対結界を張る。
その全てを風魔法で固定。
その瞬間。
紫の光りに包まれた。
一瞬で通り過ぎた光。
気が付けばリュイが俺の体を守るように俺にしがみついていた。
『ギリギリでした』
データベースもほっとした声を出す。
全球体型の結界を張る予定だったのに、結局半球しか作れなかった。
空中がまだぱりぱりと放電しているのが見える。
「シュン様!」
間髪入れずに、第3発が飛んで来る。
最初の一撃よりは、小さい無数の光線が絶対結界にはじかれていく。
どれも、普通の魔法使いなら、貫かれて終わりの攻撃ばかりだ。
最初の一撃など、避けれる人間なんかいないと思う。
光りが落ち着いているのが見える。
3セットの連続攻撃か。
そう思っていた時、リュイが俺の胸の中で小さく呟く。
「攻撃の少し前の瞬間だけ体の一部が見えたです。なら、攻撃のタイミングは分かるかもです」
今のリュイは170cmはあるのだが。俺の胸に埋まる彼女は身長が小さい頃と変わりはなかった。
「分かった」
リュイの頭を撫でながら。
俺はワイバーンを飛ばす。
顔を真っ赤にさせながら、リュイは魔物を見ている。
「来るです!」
その声に応じて、結界を発生。移動を止め、3連続の攻撃を全て受け止め。
再び進む。
何度目か。
「来るです!」
その声を聞いた瞬間。
結界が、魔物の甲羅のような、分厚い外殻の目の前で展開。
絶対結界にはじかれた敵の一部の攻撃が巨大な魔物の外殻を焼く。
暴れる魔物。
暴れながら、その姿が見えた。
光学迷彩と言ってもいいのだろう。
透明になっていた巨大な魔物は、超巨大なダンゴムシに、4本のツノが生えていた。
うち、2本がバリバリと放電し、向きを変えられた光がレールガンのようなプラズマを発射する。
残り2本がすぐに光り出し。
プラズマの光りを辺り一面に発生させる。
ダンゴムシの両側にある目のような黒い点が光り。
紫の光りが無数に飛び回る。
「まるで、要塞だな」
絶対結界に包まれたまま、俺が呟く。
「ヨーサイ?です?西の砦とはまったく違うと思うです」
リュイが聞き返して来る。
俺は苦笑いするしかなかった。
俺が言っているのは、漫画で良く見た、宇宙要塞だからだ。
だからこそ、弱点も分かる。
切断結界が、レールガンの付け根に向かって飛んで行く。
再び、ぱりぱりと充電を始めたその付け根を切り裂くと、巨体が暴れ出す。
魔物の魔力が暴発でも起こしたのか、根本が焼き焦げるのが見えた。
焦げた臭いとともに、2本のレールガンとなっていた角が焼き落ちて行く。
「要塞は」
ビットがその焼かれた場所に突っ込んで行く。
「接近して」
焼かれた場所から、切断結界が、体内へと侵入していく。さっきより暴れ出す巨体。
「内部から破壊する」
身を守るための迷彩も使えなくなったのか。
姿が丸見えのまま狂ったように暴れだす巨大な魔物。
しばらく暴れていたかと思うと、突然全身から液体を噴き出し始める。
液体が出終わった後。暴れる事もなくなり、地面にその巨体を沈めていった。
動かなくなった魔物はピクリとも動かない。
「終わったですか?」
リュイが呟く。
その瞬間。
背中がぱっくりと割れる。
「それは、違反だろ?」
俺は思わず呟いてしまった。
ダンゴムシの背中から出て来たのは。
4本の小さな触覚を持った、ゲジゲジいや、アシダカ。
しかし。今までのアシダカと違うのは。
紫色のそいつは、俺の目の前にその姿を見せていた。
つまり。
奴は飛んでいたのだ。八枚の羽を持って。




