昆虫の反撃
「で、これだけの顔ぶれが集まって、結局は、君に頼るしかないという結論しか出ないのか」
アムは、さっきまで騒いていた全員の顔を見まわす。
さっきから、目の前に存在している、大量の魔物をどうするのか、ずっと会議を行っていたのだが。
サラは、このまま魔物が通り過ぎるまで耐えるべきだと発言。
ロアは、攻めるべきだと発言。
将軍は、ずっと話を聞いているだけの会議。
他の副官やら、軍師も同じで真っ二つに分かれる意見をまとめる事も出来ない状況だった。
アムの一言。
「シュンなら、どうする?」
突然振られた俺はびっくりしたのだが。
「3日は、炎のカーテンは維持出来る。しかし、それ以降は責任が持てない」
それだけを言う。
しばらく考え込むアム。
「3日は、維持出来ると言う事だね。あのカーテンを維持したまま、戦闘は可能なのかい?」
「黒炎を大量に降らすのは厳しいかもしれない。俺のビットの数が、今まで出した事の無い数になる」
その言葉に、ロアが少し眉を上げるのが見えた。
嫉妬しているようにも見えるが。
「ロアはどう思う?」
アムの声に、ロアは何とも言えない顔をしていた。
答えの出ない沈黙が続く。
アムはしばらく考えていたのだが。
ふと顔を上げるアム。
大きくため息とともに俺の顔を見ていた。
「これだけの顔ぶれが集まって、結局は、君に頼るしかないという結論しか出ないのは、ほんとうに何と言っていいものか」
アムは、さっきまで騒いていた全員の顔を見まわす。
「情けない事なんだけどね。ほんとうに、情けない事なんだけど。これだけ軍をそろえておきながら、本当に情けない事なんだけど」
ひたすら、絶望した顔で俺を見てくるアム。
「君に、全部を託したい。というか、託すしか手は無い」
その後の、アムの言葉に、軍関係者全員が、叫ぶように反対する。
しかし。
「君たちが、あの大軍の中に突っ込んで、帰って来れる自信はあるのかい?」
アムの一言で、全員が口をつぐんでしまう。
「良かったよ。僕の国の隊長たちは、バカがいないようで。絶対無理だよね」
アムは、軍の全員の顔を見わたし。
「君たちが役に立たないと言っているわけでも、使えないと言っているわけでもない。
町にあの大軍が入ってくるような事になれば、君たちには、全力で戦ってもらう必要がある。けど、あの大軍を突破して、原因を調査をしてくるのは、無理があるだろう?」
「国王は、ただの大進攻ではないとお思いですか?」
サラの言葉に。将軍たちを見ていたアムは大扉に目配せする。
「それは、彼に聞いた方が早いかもね」
アムの声に応じるように。
大扉が開き。一人の初老の男が入って来る。
「まず、今回の事。普通ならありえない事だと言えます。今まで、原因なしで、こんな処理が無理な大軍が出る事はありません。そう。キンカ周辺に現れた、クイーンスネークやら、東の海に出た、ティアマトなんて魔物が出て来ない限り」
部屋の中に入って来るなり、歩きながら話をするドンキの言葉に全員が息をのむ。
入って来た人物の特定よりも、彼の口から出た魔物の名前に驚いていた。
「2体とも、伝説の生物だが」
「存在していたのか?」
そんなざわめき声が漏れて来る。
その声に、大きくため息を吐くアム。
自分の国とはいえ。
諜報能力では、キンカの足元にも及ばない。
ドンキやら、ファイがくれた情報の方が圧倒的に多い。
そして、情報の収集力の速さも。
キンカの。
いや、ドンキの足先にも及ばないのは分かっていた。
「それらと戦った、シュン殿が一番よく分かっているはずです」
ドンキは、俺を見て、少し笑う。
全部倒したのは、君なんだから、なんとかなるよね。
そんな声が聞こえて来る気がする。
「もし、伝説の魔物が存在すると言う話が、本当だとしたら」
「キングインセクトの復活ですか」
全員が首を振る。
俺は、聞いた事の無い名前に、こっそりとデータベースを開いてみる。
すると、データベースはあっさりと答えを出してくれる。
キングインセクト。
昆虫の王とまで呼ばれた、巨大なツノの生えた昆虫。その大きさは、山に匹敵するとまで言われている。
全ての虫の魔物の王であり、虫の魔物をを大量に従える事ができる上、自身からも、虫の魔物を作り出すと言われている。
そんな物が復活したのだとしたら、普通の人間にはまったく勝ち目は無かった。
その伝説では、キングインセクトは、半年にかけて世界を蹂躙し、どこかへ消えて行ったとなっているのだから。
「そんな化け物が存在するとするなら、どこからか発見の話が来るはずだ」
全員がその声に頷くが。
「キングインセクトには、カメレオンのような特殊な擬態を持っているそうだよ」
得意そうに話しをするドンキ。
彼は、どれほどの情報を持っているのか。
もし、それが本当だとするのなら。
そしてそれが本当だとするのなら。
「シュン様。受けるべきかと思うのです。もし、姿が見えない敵で、北から来たとするなら、獣人の町が心配なのです」
リュイがこっそりと俺の耳元でささやく。
その声に、俺もしっかりとうなづく。
ミュレの実家でもある獣人の町が壊れていたり無くなっている可能性もあるし、
あの町が壊滅している可能性も出て来る。
「頼めるかな。はっきり言って、地面をはいずって数万の敵と戦いながら、その化け物を探す余裕はこの国の軍隊には無いんだよ。君なら、空からちょいちょいと探せるだろ?」
口調が崩れているアムを見て、苦笑いが出る。
無茶を言っている事を理解して、国王としてではなく、家族として、友達としてのお願いと言う事なのだろう。
「きっちり報酬は出してもらう」
あえて、そんなアムに強めに返してやる。
「不敬な!」
そんな声が出るが、その兵士達を軍団長達が抑えていた。
アムは、してやられたと言った顔をしていた。
無茶を押し付ける気だったらしい。
「4Sの一人として、その依頼、受ける事にしよう」
俺は、アムの顔を見て、あえて仕事としての返事をする。
その言葉に少しほっとした顔のアム。
「なら、国王として、依頼を行う。今回の大進攻の原因を探して欲しい。頼むぞ。【緑竜の】」
アムが唐突に放った最後の一言は、俺に別のダメージを与えていた。
4Sには、 ~の といった称号が付くのは知っていたが。
まさか、俺についていた称号が。
【緑竜の】だったとは。
竜と言われている事に事実ではあるのかも知れないのだが。
少しへこんでしまっていた。




