人魚の里。
「ダメです!」
散々とリュイと言いあいを続けた結果。
結局俺一人で海に潜る事になった。
最終的には、リュイは、海の中で息が出来る魔法を使う事が出来ない事。
ビットが、海の中ではそれほど早く動けないため、黒炎の速度が落ちる事。
水と相性が悪く、黒炎も威力が落ちる事。
そんな事を言い続けていると、やっと納得してくれたのだ。
本当に説得するのに骨が折れた。
俺としては、守り切れない可能性があるのだから、連れて行きたくないと思うのだ。
地上なら、ビットを大量に置いて行く事で、まだ時間くらいなら稼げるはずである。
俺が想定している敵が、4Sクラスである事に気が付いているのか、いないのか。
リュイは、真剣な顔をしながら
「無茶だけはしないで欲しいのです」
とずっと言い続けていた。
「こっちです」
ピッピの誘導で、海の奥へと進んで行く。
「海は本当に落ち着くな」
隣でボソリと呟くカイ。
何故かついてきたこの男は、ダイクの家から、家宝とも言える魔骨の特殊な首飾りを持ち出して来ていたのだ。
なぜか、アヤさんが、にこやかに行ってきなさいと言ってのが気になるが。
カイの首にかかっているのは、水の中でも息ができるという魔法がかかっている首飾り。
津波に巻き込まれても、子供は生きていけるように。
その願いを込めて作ってもらった物らしい。
その願いを聞いて。俺はなんとも言えない顔をしていたと思うのだが。
ついたのか、ピッピの顔が少し緩んだように見えたが、すぐに絶望の表情を浮かべる。
「あそこ、で。。。いやぁぁぁぁぁ!」
ピッピは目の前の光景に叫びだす。
「あのやろう!」
カイは、俺が渡してやった槍を突き出す。
真空の渦が、ティアマトの使いを追い払う。
その口から、大量のサンゴの欠片と。
噛みちぎられた、大き目の魚の足が落ちて行く。
「お、おかぁさん・・・」
小さく呟くピッピの声から、そこが、ピッピの家であった事が分かる。
目から光が無くなるピッピを、真っ先に抱きしめているカイ。
彼を連れて来て良かったのかも知れない。
カイがいなかったら、この小さな少女は、潰れていただろう。
俺は、自分の下に絶対結界を張り。
その上に乗る。
ビットを水魔法で射出し。簡易的なジェットボードを作り出す。
泳ぐよりも圧倒的速さで、ティアマトの使いの前に出ると。
「消えろ!」
その口に向かって、俺が得意とする風魔法を打ち込む。
水中で突然生まれた緑の泡は、一気に膨れ。
真空を生み出しながら爆散する。
切り刻まれた頭を振るうティアマトの使いに対して。
俺はビットの断頭台を撃ち落とすのだった。
「おかぁさ、、おとうぁ・・」
ピッピは、家だったサンゴの前で泣き崩れていた。
カイは、その背中をずっとさすっている。
そんな二人を見ていると、ゆっくりと近づいてくる影があった。
全員が、裸の上半身で、下半身が裸の、人魚たちだった。
「助けてもらって、ありがとうございます」
そう言って頭を下げたのは、少し俺よりも年上に見える青年。
「こちらに」
そう言って、人魚の青年に連れてこられたのは、少し大きめのサンゴ。
その中に入る青年に着いて行き、俺も中に入ったのだが。
サンゴの中を見て、俺は驚いた。
サンゴの家の中は、少し広い空間になっていて、エビや、貝が置かれている。
家具まで、貝や、岩などで出来ていた。
「私たちマーメイド族と呼ばれる人魚は、これらを食べておるのです」
ワカメや、海ブドウなども出て来る。
日本人だから、違和感はないけど、他の国なら食べれる物とは思わないだろうな。
つぶつぶの、グロテスクにすら見える海ブドウを見ながら、どうでもいい事を考えていた。
そんな事を思いながら、海の中で小さく切ったわかめを食べるという、人生初の体験を楽しんでいると。
「最近、突然ティアマトの使いが襲い掛かってくるようになったのです」
ピッピと同じ事を言う、長老と言われる人魚。
彼は、ティピという名前だった。
「昔、ティアマトという恐ろしい魔物がおりました。奴は全ての海の魔物を束ねておりました。
奴の一声で、全ての魔物が、海を覆いつくし。奴の一息で、その全てを飲みつくしたと言われるほどです。魔物は彼の餌であり、支配されるものでした」
「しかし、しばらくして、奴は封印されました。誰が、どうやって。何をして封印したのかは全く不明です。しかし、彼は長い長い眠りにつきました」
「彼?」
「封印したと言われる昔のマーメイドの一人が、ティマトの事を彼と呼んで欲しいと言ったそうなのです」
「それ以来、彼は眠り続けておりました。しかし、彼の周りには、数匹のティアマトの使いと呼ばれる魔物が常に生まれていました」
「ティアマトの使いも、ティアマットと同じく、魔物しか餌にしていなかったのですが」
ティピは、一息つくと。
「突然、私たちを襲うようになりました。どうしてなのか。全く分かりません。しかし、襲われるようになった私たちには、何も出来ません」
ティピは、自分の家の中を見回す。
俺も見回すが。
「見ての通り、私たちは武器を持っていないのです。鋭い爪も。鋭い牙も。水を切り裂く速さも。海の恵みをほそぼそと分かち合って生きて来た種族なのです」
その後で。
頭を下げるティピ。
「何もできません。ですが、助けていただきたい。見返りが欲しいと言うのであれば、ピッピでも、誰であろうと差し出します。ですから。助けてください」
その姿を見ながら、厄介な事になりそうだと本気で悩むのだった。




