中休み。
昨日で、一般の対戦は終わり、本日はお昼休み。
「シュンくんっ!ごはん食べに行こうっ!」
俺は、ライナに思い切り手を引っ張られて、食堂に向かっていた。
レイアは、女子生徒に囲まれて、動けなくなっていた。
「お姉さまっ!コレ食べてくださいっ!」
「お姉さまっ!私の服にサインくださいっ!」
などと言った声が聞こえて来る。
ライナにも、男性陣のファンが近寄ろうとしているのだが、ライナ自身が俺にぴったりくっついているので、他の男達は近づけないでいた。
ライナに引っ張られたまま、椅子に座る。
まだ注文してないんだけどなぁ。と思った時、ライナが両手に持っていた、バスケットを机の上に置いた。
「作ってきたので、食べてくださいっ」
キラキラとした目でこちらを見るライナ。
中には、いつもお昼に食べている、肉サンドの豪華版が入っていた。
イノシシの肉に、この世界のレタスのようなちょっと苦い葉っぱ。パクチーみたいなものか。柔らかい噛みきれるスポンジのような食感のトマト。こっちは俺は食感が苦手だった。
トウモロコシみたいな植物を粉にしてスティック状にして揚げてあるポテト。
さすがに、ごめんなさいとは言えず、俺はサンドにかぶりつく。
うん。普通に美味しい。
「美味しい」
俺が呟くとすごく嬉しそうに、満面の笑顔を見せるライナ。
さすが、舞氷の聖女、、かわいい。
可愛いと思ってしまい、照れもあって、ライナの顔がまともに見れなくなった俺は、必死にサンドの処理に取りかかる。
まわりから、殺意の波動が飛んで来るが、あえて無視する。
ぼそぼそと、「あれが食べれるなら、死んでもいい」
と不穏な発言も聞こえるが、気にしない。
かわいい娘の手作り弁当なんて、前の人生じゃあ、絶対に起きないイベントだったし。
そんな事を思いながら、手作り弁当を堪能していた。
しかし、一番殺意をみなぎらせているのが、妹になりたいファンに囲まれている、レイアなのもどうかと思うが。
人生初のウキウキするイベントを楽しんでいたら、ひょいと手が伸びて、ポテトもどきのスティックが誰かに盗られた。
俺が顔を上げると、青い髪と青い目の超カッコいい男と目があった。
モグモグと、盗ったスナックを食べている。
「うん。美味しい。聖女は料理も一流だね」
男でも惚れてしまいそうな、心地いい声が耳に入る。
レイアを取り囲んでいた、女子達もポワンとハートマークを浮かべて彼を見ていた。
「人の弁当を無断で盗って、いい根性してるな」
思わず俺が、ちょっと怒気をはらんだ声を出すと。
「いやいや、ちょっとリア充を制裁したくなってね」
と片目をつぶる。
キザな仕草だ。
ん?何か今、この世界では聞きなれない単語が入っていたような。
俺が、思わず相手をバッ と見直すと。
「やっぱり、ありきたりな恋愛フラグと、ハーレムフラグは叩き折りたくなるじゃないか」
と、笑う。
決定だ。こいつ。
「そして、今のが理解出来たと言う事は、やっぱり君もそうなんだね」
俺が黙っていると。
「あの回復魔法?あれだけ大規模な回復魔法なんて、聞いた事もないからね。こっちの世界では。まるでラノベの魔法だよね」
にっこりと笑う青年を見つめる。
「お前も記憶持ちとかなのか?」
俺がかまをかけて見ると。
「僕は、転生だよ。スキルを女神からもらったね」
と、普通に返された。
なるほど。女神の言っていた、色々できる一つか。
「やっぱり、君もそうなんだね。回復チートのスキルなのかな?あ、僕の名前は、ロア。特殊トーナメントで当たるのを楽しみにしてるよ。シュンリンデンバーグくん」
楽しそうに手を出して来るロア。
すると。
「ロア、そんなやつより、俺との決着が先だろうが」
と、明らかにアジア圏の顔をした男がロアに話しかけてきた。
「ああ、去年勝ったからね。今年も勝たせてもらうよヒウマくん」
ロアを睨みながら立っていたヒウマと呼ばれた青年に、笑顔で返事をするイケメン。
ヒウマと呼ばれた青年は、逆立てた髪が特徴の、昔のちょっと頑張ってる学生と言った風貌だった。
まあ、学校の裏で煙を吸ってるような学生と言った感じか。
つり上がった目をさらに釣り上げ、ロアをにらむ。
「ああ。怖い怖い。じゃあ、トーナメントで」
ロアは片手を振りながら、食堂を出て行く。
「てめえも潰してやるよ」
ヒウマも、俺をひとにらみした後、食堂から出て行った。
「今のが、魔法球のロア先輩と、針打ちのヒウマ先輩」
二人が出て行った、出入口を見ながら、ポツリともらすライナ。
なるほど、去年の優勝者と、準優勝者。
確かに。二人とも、強いと思う。
全くスキがなかった。しかし、俺は反面、少し気が楽になっていた。
女神も、転生や転移で、スキル付与なんかやっているんだ。
彼らのような人がいるのなら、とんでもない数の敵を前にしても、なんとかなるかも知れない。
一人で10億倒すなんて、絶対無理なのだから。
そんな事を思い、口を緩めていたらしい。
「頑張ってくださいね!ぜったいに勝って!」
ライナが、俺の手を握って真剣な顔をしていた。
「あんな先輩、張り倒してよ」
レイアまで、俺の前に身を乗り出して来ていた。
そんな二人を見て、思わず笑ってしまう。
「ライナとレイアが頑張ったから、僕もちょっと頑張らないとね」
俺が呟くと、嬉しそうに微笑む二人。
ふと見たら、俺の両手が二人にしっかりと握られていた。
それにしても、ちょっと気分がいい。
可愛い二人が傍にいてくれる事にも。
チートが自分だけじゃないと言う事が分かった事にも。
彼らのような人がいるのなら、最後の勝ち目も少しずつ上がるはずだ。
10億の魔物に勝つために。




