海っ!
朝方。
まだ日が昇り切っていない時。
「行くぞ!」
男達数人の張り切った声が響いていた。
今にも数隻の船を海に出そうとしている男達の前に、俺は舞い降りる。
ワイバーンに乗ったまま。
突然降って来た竜に腰を抜かす青年たち。
その中で、気丈にもまだ立っているのは、この青年たちのリーダーと思われる青年。
ダイクの息子のカイだった。
「ひぃ」
ワイバーンの目を見てしまったのか、震える青年たち。
「竜に出会っただけで、震える程度の覚悟で、竜に勝つつもりだったのか?」
俺は、ワイバーンの背中に立ったまま、青年たちを見ていた。
「お、お前か!なんだ!親父に言われて、邪魔をしに来たのか!」
振るえる足を抑えながら、叫ぶカイ。
「ダイク、お前の息子は、本当に大物かも知れないぞ」
そんな事を思いながら、竜に乗った俺に向かい、続きを叫ぼうとするカイをただ見つめる。
「じゃ、邪魔をするなら、ようしゃしない」
恐怖が打ち勝ったのか。声が震えて、最後の言葉は酷く聞き取り辛くなっている。
「まだ暗いこんな時間に、そんな小さな船で竜捜索に行くとか、死にに行くような物だろう。それに、目印も何も無い海のど真ん中だ、探しようもないだろう。遭難でもしたいのか?」
俺はワイバーンに乗ったまま続ける。
「だ、だけど」
何とか言い返そうとするカイに向かい。
俺は優しく話しかけてやる。
「幸い。俺には、こんなふうに、飛べる乗り物がある。空から探したほうが圧倒的に楽だろう?」
青年達に動揺が走るのが見ていても分かる。
「本当に、竜がいたのなら。そのとき、手伝ってもらう事もある。その時まで、お前たちは準備を続けてもらってもいいか?」
俺の言葉に、腰を抜かしたまま数人の青年が頷くのが見えた。
しばらくカイは考え事をしていたようだが。
「分かった。だが、討伐には、絶対に参加させてもらう。だから、お前にずっと着いて行く。それが条件だ」
しっかりと、目を見て。
声をかけて来たのだった。
「で、どうしてこうなるんだよ」
カイは、涙目になりながら、砂に埋もれていた。
一瞬で、人が埋まるくらいの大穴を作り上げたのは、青い髪の悪魔だった。
今は、海の上すら走りそうなくらいのスピードで駆け回るもう一人の悪魔を追いかけている。
絶対に追いつけないと思うが。
「ミリぃぃ!神獣化はズルいっ!」
「ミオだって、穴掘り対決で、爪使ってたの!お互いさまなの!」
そんな二人を微笑みながら見ているリュイは、絶対に波打ち際に近寄らず、のんびりと砂浜に座っている。
泣き顔になっているカイに、シリュが、心配そうに声をかけて覗き込んでいるのだが助ける気は無いらしい。
ミオと、ミリは、髪の色に合わせた、青と水色の水着を。
シリュは、ピンクのワンピース水着を着ていた。
ミリの水着が、何故かビキニなのだが、足が神獣化して獣の足になっているので、色気もなにも無い。
リュイは、薄いピンクのTシャツのような物を着込んでいる。
その隙間から、小さめの薄ピンクのビキニが見え隠れしていた。
「おい。いつになったら、捜索に行くんだ!?」
俺の家族を何気なく眺めていた俺に気が付いたのか。
カイが、埋もれたまま怒鳴る。
俺は、そんな声を完全に無視していた。
「これ、みなさんで、召し上がってくださいね」
俺達が浜辺で全力で遊んでいると、アヤさんが、大量の魚介を持って来てくれる。
俺は、大急ぎでバーベキューセットを自作し、それを焼いて子供達と一緒に堪能する。
「パパ。これだけ広いから、見えない所に行くのも簡単だよ?」
怪しい言葉をかけてくるミリは完全に無視。
「硬いっ!あーバラバラになっちゃった」
エビのような魚介を、爪で切り裂こうとして、食べれないサイズに切り刻んでしまうミオ。
魚介を無視して、バーベキューの隅っこで、俺が収納に入れていた串焼きを焼き直しているシリュ。
良く見ると、ビットを使い、両面同時焼きに挑戦しているようだった。
まぁ。丸焦げになってしまい、涙目になっているのだが。
「おい!聞いているのか!」
「かあさんも!何か言ってくれよ!何でこんややつらに、振舞ってやってるんだよ!」
カイが焦ったように怒鳴る理由も分からなくはない。
俺達一家は、すでに、4日くらい、浜辺で、海を堪能しているのだから。
その間。一回も、空からの捜索などしていない。
そして、カイには、何も説明すらしていなかった。
実際には、捜索に行く必要などないのだ。
俺には、データベースの地図があるし。
ビットが仕事をしてくれている。
魔物認定される魚たちは、巨大魚だけらしいのだが、現れた瞬間、俺のビットが仕留めてくれている。
サメのような魔物など、すでに20匹近く収納に入っている。
鹿や、イノシシ、ウサギまで魔物とされている陸とは大分違うが、エビや、貝まで魔物認定されてしまうと、地図上で、海が真っ赤に染まってしまうので、ある意味ありがたかった。
「くそっつ!!!!!!騙された!!」
必死に脱出しようとするカイに。
「いる?」
と無邪気に熱々のエビを差し出すミオ。
血の気が引くカイ。
エビは、殻がついたまま、カイに近づいていく。
浜辺に、カイの悲鳴が響き渡るのだった。




