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うみへ

「国王を笑い飛ばすとは、君じゃなかったら、首でも跳ねてるよ」

アムは、むすっとした顔で、俺を見つめていた。

その隣で、プレートメイルを着込み、完全武装をしている、サラも頷いていたりする。


アムを見て大笑いした後。

激怒したアムの声に、慌てて入って来たサラに、ほんとうに厳しく口止めを言っていた。

もちろん、一部始終を見ていたロアにも。


サラは、持ち前の真面目さゆえか。

近衛兵の隊長であるにも関わらず、アムが危ない時に傍にいなかった事に責任を強く感じてしまい、アムからまったく離れなくなってしまった。


ヒウマと良い仲と噂もあったのだが、今では国王の側室。とまで言われている。

まぁ。最近は寝室まで一緒にしているのだから、あながち間違いではないだろう。


アムなら、自分が襲われた方だ。と言いそうだ。

ついでに、アムには正室はまだいなかったりする。

帝国の開発に忙しく、それどころじゃないと言った所らしい。



「何と言っても、冒険者が無作為に20人近く殺されていたからね。冒険者になろうとする人が少なくなってしまったんだよ」

アムに突然呼び出されたため、何かと思ったら、アムの愚痴を聞く役目だったらしい。


「冒険者のとりまとめをしていたロアに対する、不満が溜まってしまっている。冒険者が言う事を聞かなくなりつつあるのだ」

サラが、アムの言葉を続ける。

もう、サラは、アムの近衛兵ではなく、秘書というか、大臣のようになっているな。


「そこで、前ギルドマスターである、おじに、戻ってもらう事にした。ロアは、冒険者指導官と、高機動遊撃隊の隊長をしてもらう事にしたんだけどね」


そこで、アムは手元に置いてある紙を指差した。


「東の港町で、再び津波が発生したらしい。原因は、竜とのうわさがたっているんだよ」

アムは俺の顔をじっと見る。


「さすがに、ロアにお願いするには、王都からじゃ遠すぎる。馬でも半月は余裕でかかる距離だ」

何が言いたいのか、分かって来た。


「行って来いと言う事か」

俺が呟くと。


にこやかに笑うアム。

サラも、小さく頭を下げる。


「出来れば、皆が冒険者になりたくなるような、英雄譚を作ってくれると嬉しいな」


アムのその言葉に、俺はそんなの知るかと返してやる。

義兄とはいえ、無茶を押し付けてくるやつに礼儀なんか知るか。






シュンが出て行ったあと。

アムは天井を見上げる。


「お疲れ様です」

「まったくだよ。自警団も、軍隊もまったく整備が追い付かない。冒険者も、増えない。ロアへの苦情は増えるばかり。どうしたらいいものか」


アムは疲れた顔で天井を見る。

「シュン君がここにいてくれて助かったと言う所だよ。全くもって人も、手も足りない。4Sがおとなしくしてくれているのが救いだね」


穏やかにその愚痴を聞いているサラ。


「シュン君が、爆弾なのは分かっているんだけどね。彼はもう人じゃない。彼の前にいるだけで、冷や汗が出るくらいだ」

何も言わないサラを見ながら。

「ところで、サラ。私室にいる時くらい、ドレスを着てくれたら嬉しいのにな」


「そ、それは無理です!私は、殿下をお守りする兵士です!いつでも戦えるようにするのは当然です!」

プレートメイルを揺らしながら顔を真っ赤にして反論するサラ。


そんなサラの慌てぶりに微笑みながら、目の前の書類に目を落とすアム。


そこには、一つの報告書が置かれていた。

『シュンリンデンバーグの異常性について』


表紙には、そう書かれていた。






「港町に行く事になった」

帰ってから、皆にその事を伝えると。

「海~~!」

「やったー-!」

「初めてなのー--!」

と喜ぶ子供達。


「ドワーフは、あの、かなづちなので、あまり好きでないです」

しぶるリュイ。

「けど、お母さん、今竜人でしょ?」

真剣な顔で聞いて来るシリュ。


「そうだよー。だからお母さんも大丈夫!」

「飛べばいいと思うの!」

笑う双子。

「そういえばそうですね」


子供達の言葉に、小さく納得するリュイを見ながら。

竜人じゃなくて、神人なんだがな。

と小さく心で突っ込みを入れ。


俺はワイバーンに乗っていた。

リュイは、俺の横で気持ちよさそうに飛んでいる。


子供達は、ミュールの上ではしゃいでいる。


「お父さんが、一杯荷物が持てて良かったね」

「「ねー-」」

笑い声と一緒にそんな声が聞こえて来る。


まったく。

 水着とかならまだしも、王都の携帯食料やら、水やら。

キンカから持って来た、ソイジュースの数々やら。

食べ物、飲み物だけで、1ケ月は過ごせそうな量を持って来たリュイを見る限り、彼女も実は嬉しかったようだ。


俺はと言うと、ヒウマからもらったローブを着こんでいた。

前と後ろに鋲が打ち込まれたデザインの真っ黒い全身を覆うタイプのローブである。

「前にもらった、バジリスクの皮から作ったローブだ。小さい魔骨を同化させる事で、バジリスクの再生能力が自動発動されるように作ってある。破れる事のないローブで、致死毒、麻痺毒を防いでくれる効果もある。お前は体が頑丈だから、防御力よりも、こっちのが必要だろう?」


そう言われてしまったが、その通りなので俺はありがたく受け取る事にした。

魔骨作成が安定したヒウマは、今や帝国一の鍛冶士となっている。


魔鉱士ヒウマという、二つ名が付いているくらいだ。

「あと、これもな」

そう言って渡されたのは、ただ武骨な白い槍。

「お前が持っている槍よりは数段弱いが、真空を付加させてみた。水場での戦いになるなら、役に立つだろ。電撃も考えたんだが、自分もしびれそうだしな」

そう言って笑う。


「だしなっ!」

その横で、小さな黒髪と猫耳の女の子が胸を張る。


にゃんと、ヒウマの子供なのだが。

名前が、にゃあ と言うらしい。


名づけに関しては、何とも言えない二人だった。

後ろの部屋で泣いている声も聞こえて来る。


「ほら!泣き止むにゃぁ」

そんな声が聞こえて来る。

俺は、そんなヒウマにお礼を言って別れるのだった。



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