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闇夜の黒雲

光りが舞う。


僕は、その光景に見とれていたというより、何も出来なくなっていた。

目の前で、シュン君は自分の子供達を優しい目で見つめている。


リュイさんが、二人をしっかりと抱きしめている。

その周りで数は減ったのだが、まだ光の羽は振り続けてる。


羽は、彼の家族の上に舞い落ちていく。

本当に、びっくりすると言うより、信じられない光景を見せられてしまった。


鉄パイプは、小さな体を貫通していたはずなのに。

男の子は、手足もちぎれかけていたし、リュイさんにいたっては、胴体の半分と、頭しか残っていなかったはずなのに。


黒い羽が消え、光の羽が吹き荒れた瞬間。

まるで逆再生でもするかのように、リュイさんの体が再生されていった。


羽が振れた瞬間、鉄パイプが跡形もなくなり、貫通した鉄パイプのせいで見えてはいけない内臓ごと体の穴を回復させていくのが見えた。

ライナの回復魔法の回復スピードは、冒険者の中では最速で、傷すら残らないくらい治してくれるのだが。

次元が違う。


死者すら生き返らせる。

そんな事を聞いた時、僕も心のどこかでありえないと思っていた。


この世界は残酷だ。

だれ一人として、死んだらそれまでなのだ。

なのに。


目の前で、死にかけた。いや、死んでいたはずの3人が生き返ってしまった。

それほどの傷を一瞬で治してしまった。


僕は、シュン君を。いや、シュンをもう一度見る。

いつの間にか剣先がなくなった剣を取り落とす。


僕には、シュンという人間ではなく、次元や、この世界の摂理を超えてしまった竜という種族がそこにいるようにしか見えなかった。






「ほんとうによかったです」

泣きながら、子供達を抱きしめているリュイを見ながら、俺も安心していた。


『心配させないでください』

『いなくなったら、ダメなの』


頭の中で、いや、心の中で二つの声が聞こえたような気がする。

ああ。

そうだな。

俺は一人じゃない。

家族が。

そしてお前たちがいたんだったな。

俺は自分の胸を押さえて小さく笑っていた。

全ての不幸を押し付けられ、それでも俺の傍にいてくれた少女。

どんな時も、笑っていてくれた俺の妻。


二人は常に傍にいてくれる。


そして、もう一人。ずっと傍にいてくれる女性を見る。

リュイは、本当にとんでも無い種族になってしまったと思う。

竜人は、手足くらいなら無くなっても生えてくる、理不尽な種族だ。

その理由は、【地竜の加護】にある。

竜のみが持つ加護。

心臓がバラバラにならない限り、再生できる加護。

頭を切り落とされても、一瞬で再生してしまえる【地竜】らしい加護である。

その加護がある限り、ほとんど不死と言ってもいいのだが。

羽の回復の援護を受けたリュイの回復は異常すぎた。

体の半分以上を失っていたのに、それが一瞬で回復するなんて思わなかった。



そんな事を思いながら、自分の家族を見ていると。

ふと、俺はさっき心の中に沸いた黒い感情を思い出し鳥肌が立つのが分かった。

黒く、暗い感情。

心地良さすら感じ、全てを壊す事に喜びを感じてしまった。家族すら、自分すら壊す事に楽しみを感じてしまったあの黒い感情は。

一体なんだったのか。




「分かったの~~~!」

俺がいろいろとまとまらない考えをめぐらしていると、扉が激しく開いて、可愛い青い髪が部屋に突撃してきた。


「【空間の目】は、ミュールのね!スキルで固定できるから、こちらからも反撃出来るの!ミュール凄い、、の?」


興奮気味に話すミリが、リュイに抱きしめられている二人を見て。

泣いているリュイに気が付き。

俺を見上げて来る。


全身からハテナマークを出しているような少女に。

俺は笑いながら、その体をミュール事抱きしめる。

「よく調べたな。さすが、ミリだ」


嬉しそうに笑うミリをしっかりと撫でてやる。

「子供つくるなら、母さんのいない所でないと、ダメだよ?」

無邪気に言ってくるミリに、思わず吹き出す。


ああ。この子は、本当に。

ママの子供だな。


ミリの腕の中にいるミュールは、文句でもいいたそうに鳴く。


「とりあえず、終ったと思っていいのかな?」


どんどん混乱していく状況について来れず。

アムが呟くのが聞こえた。


国王とは思えないほど、間抜けな顔をしているアムを見て。

俺は再び笑っていた。


大声で。






「ぼろぼろだね」

初老の男の前で、俺は苦笑いをしていた。

トレードマークだった学生服は無くなってしまった。

だが、俺にとっては、もうそんな事はどうでもよかった。


「これを」

俺はそれだけ言う。


「君はコボルトかね」

ため息をつきながら、俺の手の中にある二つの球を見てため息をつく初老の男。


「しかし、それを入れたら、君は弾ける可能性があるよ」

「大丈夫だ。以前、渡した物も残っているだろう?」

「それも入れろと、、、、と」

小さく頷く。


「僕も、道を外れた者だけど。君は、どこまで落ちる気なんだい?」


「俺は、俺の思う所に帰るだけだ」

さらに大きなため息が聞こえる。

「人を捨ててもかい?」

「それは、あなたも一緒だろう?あなたも、かなり前に捨てているじゃないか」


その言葉に、無表情になる男。

「いつから」

「最初から。俺のスキルは大量にあるからな」


「本気なんだな」

笑顔がなくなった男が聞いて来る。

俺は。


無言で再び白い球二つを男の前に差し出す。

見えなくなった男の目と。

魔物の目を。




全てが終わった後、彼は出て行った。

いや。

自分で空間に開けた、扉を通って消えて行く。


「これで。スキルはそろった」

そんな声が聞こえた気がした。


「人の道を外れた者が外道なら、僕はなんと呼ばれたらいいのだろうね」


キンカの自分の屋敷の奥の奥。


外道の象徴とも言える自分の研究室の中で小さく呟く。

普通の感覚の持ち主がここに入れば、1分と耐えれず発狂するだろう。


「それでも。希望を持ってしまったのだから。どんなに落ちようとも」


初老の男の言葉は、暗闇に吸い込まれて行くのだった。


23日 少しだけ修正しました。

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