空間へ 空へ
閲覧注意。 自殺記述があります。
自殺しても、異世界には行けないので、絶対にしないでね。
「がっはっ!」
突然来た衝撃と、襲い掛かってきた羽毛の嵐に、俺は、慌てて自分の学生服を脱ぎ捨てる。
脱ぎ捨てて学生服が一瞬で消えて行く。
羽に巻き込まれるように一緒に消滅して行くのが見える。
あの服は、俺の身代わりにダメージを肩代わりしてくれるもので、俺が死にかけてもすぐに回復してくれる、世界に一つしかない、超強力な魔法アイテムだったのだが。
「下手に手出ししたのがいけなかったか」
俺はそう呟きながら、自分に本当に久々に回復魔法をかける。
【空間の】攻撃が、あいつの子供をとらえて、あいつが止まった瞬間。
自分の最強スキルの一つ。
【傀儡】を使い、あいつを完全に捉えたのだが。
突然その攻撃がはじかれ。
とんでもない反撃が来た。
隣では、バンダナで目隠しをしている男の首が転がっている。
後少し服を脱ぐのが遅れていたら、隣にいる彼のようになっていたかと思うと、ぞっとする。
突然、【空間の】が開いていた【空間の目】から、羽が吹き込んで来て。
彼の体をほぼ一瞬で消し去ったのだ。
間一髪、俺が消えてしまう事は防げたのだが。
彼が死んだからか、すでに【空間の目】は消えており、羽も無くなっている。
「ますます欲しくなる。だが、最後のピースはそろった。これで、叶うはずだ」
俺は、ゆっくりと男の首と、消えずに残っていた、白い宝玉を持ち上げる。
自分でも、悪い笑みを浮かべていのが、分かっていたが、もう止められない。
そう。
これで、願いが叶うのだ。
笑いは、腹の底からこぼれて来るのだった。
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ずっと不思議に思っていた。
空はどこにつながっているのだろうか。
手は何処まで伸びるのだろうか。
大人から見たら、妄想ばかりする子供だったと思う。
いつも空を見上げて過ごす事ばかりだった。
自分の名前が、空間<そら>だったからかもしれない。
なぜ、一文字で空<そら>でないのか。
尋ねてみた時、親から言われたのは。
「空は、星の中にしかないけど、空間は、宇宙まで広がるから。限界なく広がって欲しい」
そんな事を言われた。
なのに、世界は息苦しかった。
友達は、友達の顔をして、悪魔の笑みと、悪魔の催促をしてきた。
お金はいくらとられたのか、もう覚えてすらいない。
誰も助けてくれなかった。
先生も。
親すら、気が付かないふりをしていた。
視たくない物ばかり見せられてしまった。
誰かが殴られる光景。
誰かに襲い掛かる光景。
悪い仲間と一緒にいたのが悪いのかも知れない。
しかし、そんな事すら気が付かないくらい、縛られていた。
友達に。学校に。
何度目だったか。
散々殴られた後、空に一番近い所へ向かっていた。
足元の人が、自動車が蟻のように見える場所で。
「空なら、幸せの場所につながっているかも」
そう思って、空に向かって飛び出した。
途中で、何かにぶつかった気がした。
そして、気が付いた時、両目が潰れた状態で、寝転がっていた。
目が見えないと言う事は地獄だった。
魔物に、人に、殺されなかったのは、本当に奇跡だったと思う。
「大丈夫かい?」
そう言って声をかけてくれたのは、たった一人だった。
後で、彼は皇<コウ>と名乗ってくれた。
彼は、すごいスキルを持っていた。
【強奪】
死んだ人間から、スキルを奪い取れるスキル。
英雄。
主人公。
そう呼んでいいスキルを持った彼は、本当に強かった。
そんな彼と一緒にいたとき、自分のスキルが開花した。
【神の目】【空間の目】
この二つは、とんでもないスキルだった。
どんな遠い場所でも、【視る】事ができて。
【視た】場所に、物質を送る事が出来るスキル。
このスキルを使えば、物資の輸送が出来る。
皇の役に立てる。
そう思っていた。
なのに、このスキルには欠点があった。
【神に選ばれし者】と【転生者】【転移者】は【視え】なかったのだ。
つまり、皇のそばに、荷物を転送できない事が分かってしまったのだ。
使えない。
自分が役に立てない事に、落ち込んでいると、皇は慰めてくれて。
一つのスキルを譲ってくれた。
その頃には、皇には、【複写】のスキルもあったのが幸いしたらしい。
そのスキルは、【速射】
どんな重い物も、どんなに大きい物も、数メートルの距離ならとんでもない速度で打ち出せるスキル。
このスキルが、世界を変えてくれた。
【視え】るなら、その目の前に矢を打ち出せば、簡単に相手を針の巣に出来る事が分かってしまった。
距離も、障害物も。
本来なら戦闘にほとんど使えないこのスキルは、無敵になった。
町にいながら、敵を倒し、魔物を倒し。
本来なら、大量の冒険者や、騎士を送り込むはずのゴブリンの巣の壊滅すら簡単に出来てしまった。
皇に言われ、暗殺をした事もあった。
依頼で、殺した事もあった。
いつの間にか、4Sと呼ばれるまでになっていた。
途中で出会った、明星<あかり>と、皇と。
3人でいろいろやった。
明星<あかり>は、皇の事が明らかに好きだった。
目が見えないので、顔も分からない。しかし、その人の心は良く見えるようになっていた。その心の中にある光に、彼女の温かい光に、自分は惹かれた。
ただひたすら好意を伝え続けて、結ばれた。
嬉しかった。
その後で、皇から、とんでもない依頼をされた。
「王国の地下から、宝を盗み出す。だが、その宝を動かすには、王族の血がいる。それも大量に」
正気を疑ったが、皇は本気だった。
もう一人の4S。
【希薄の】力を借りて、地下の空間を探り当て。
皇のお目当ての宝をぬすみ出した。
空間の宝玉。
そう呼ばれていた宝は、自分の力に似た物だった。
次元を切り裂き、別の場所をつなげたり、空間を遮断する宝玉。
町に、魔物や、竜が入って来ないように、城に結界を張っている宝玉でもあった。
それを手に入れるために。
それを動かすために。
【傀儡】で、馬鹿な騎士を国王にする事に成功し。
王族の血も大量に確保出来た。
自分は、誰かに認めてもらいたかった。
役に立つのだと。
認めて欲しかった。
そして、最初に自分を認めてくれたのは、皇と、明星だけだった。
二人のために頑張った。
いや。
最後は、明星の為だけだったのかも知れない。
彼女のために。彼女が望むから。
大量の殺人まで犯してしまった。
それでも、彼女が嬉しそうにしてくれるなら。
自分も幸せだった。
なのに。
そんな彼女が死んだのに。
皇は、あっさりと言い放ったのだ。
「死んだだけだ」と。
許せなかった。
自分を照らしてくれる明星<あかり>を殺したやつが。
復讐するためなら何でもすると決めた。
そして。
追い詰めたと思ったのに、奴は、突然コンクリートよりも硬くなりやがった。
なら、俺と同じ思いをさせてやる。
大事な人を。大事な家族を、奪ってやる。
奴の子供を大量の矢で貫いてやる。
気分が良かった。
笑っていたと思う。
皇がそのタイミングで、何かをしたようだったのだが。
その瞬間。
自分の体は無くなっていた。
床を転がっていく自分を感じながら。
最後に見たのは、女性の姿をした光だった。
ああ。
やっぱり最後に迎えに来てくれたのは、君だったんだ。
大好きだ。明星<あかり>。




